触られてないのにくすぐったい感覚 触覚デバイスの未来を見てきた:CEDEC 2011
iPhoneの画面を触ると、手のひらにくすぐられたような感覚が――リアルな触覚を再現するデバイスの研究成果が、CEDEC 2011で発表されている。
iPhoneの画面を触ると、iPhoneを持っている手にも触られたような感覚が伝わる――9月6日からパシフィコ横浜で開催されているCEDEC 2011の「ポスター発表(インタラクティブセッション)」で、触覚を再現するデバイスの研究発表が行われていた。ハードウェアを活用した研究とソフトウェアを利用した研究の2つを紹介する。
電気で触覚再現を目指す
「掌と同化したタッチパネル」と題して触覚デバイスの発表を行っていたのは電気通信大学梶本裕之研究室の福嶋政期さん(博士後期課程)。iPhoneの裏側に電気触覚ディスプレイを取り付け、手にiPhoneを載せて画面をタッチすると、その動きが手のひらにも伝わる仕組みを開発している。
電気触覚ディスプレイには微細な電極が多数付いており、マイコン経由でiPhoneとつながっている。iPhoneの画面にタッチすると、接触情報がマイコンから電気触覚ディスプレイに送られ、その情報を基に電極に微弱な電流を流す。電流が皮膚に流れることで、触覚を再現する。
実際に試してみたが、画面の上で指を動かすと、iPhoneを載せた手のひらにも同じ動きでピリピリする感覚が走った。触られたような感覚というよりは、低周波治療器のように電気が流れる感じで、再現性はまだ高くないようだ。
この技術により、デバイスを持った指や手のひらに画面上の動きを感じさせることができる。例えば、画面上で動いているハムスターが、実際に手のひらの上で動いているように感じさせるといったことが可能になるという。
7日以降の展示では、電気刺激を弱くする改良が加えられている。iPhoneの画面上のボタンをタップした感触を手のひらに伝えるアプリと、ボールが画面上を転がると手のひらにその感触が伝わるアプリも同日から展示している。
音の振動を使った触覚デバイス
梶本研ブースの近くでは「お互いに掌をくすぐりあうための視覚・振動の重畳手法」と題した触覚デバイスのポスター発表が行われていた。慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科の古川正紘特任助教の研究だ。福嶋さんの研究とは対照的に、ソフトウェアを使って触覚の再現を試みている。
画面に手のひらの画像が映し出されたiPhoneを2台用意してBluetoothで相互接続し、それを2人がそれぞれ手に載せる。このとき、画面に映った手と実際の手の位置が一致するように載せるのがポイントだ。画面上の手をもう片方の手でなぞると、その動きに合わせて相手のiPhoneの画面上に指が現れて動く。これだけでも触られているような気がしてくるが、指が動いているときにiPhoneが微妙に振動するため、よりリアルな“くすぐられた感”を体験することができる。
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この振動はバイブレーション機能を使っているのではなく、音でスピーカーを振動させている。といっても、小さな音でも振動を発生できる250Hzの周波数を使っているため、音はほとんど聞こえない。この微妙な振動と、指が手のひらをなぞる映像によって、くすぐられているという錯覚が生まれている。
古川さんは以前、梶本研究室に所属していたことがあり、梶本研がハードウェアで触覚デバイスの実現を目指しているのに対し、人の感覚をうまく使うことでより簡単に触覚を再現できないかと考えたという。まだ一般公開できる段階ではないが、特別な装置を使わずにソフトウェアと一般的なスピーカーだけで触覚を再現しているため、応用の幅は広がりそうだ。いずれはアプリとしてリリースしたいと考えているという。
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