マジシャン泣かせなネット配信だけど――伝統芸能「手妻」の若き継承者はニコ動で羽ばたく:実はニコ厨(1/2 ページ)
江戸時代から伝わる日本独自の手品「手妻」を受け継ぐ藤山晃太郎さん(34)は実は“ニコ厨”。手妻の魅力を伝えるため、あえてマジシャン泣かせなネット配信に、ニコニコ動画とニコニコ生放送でチャレンジしている。
3Dアクションゲーム「El Shaddai(エルシャダイ)」の予告編はネットでかなり有名だが、その予告編をユーザーが演じて再現した動画があるのはご存知だろうか。ニコニコ動画に昨年投稿され、再生回数は100万回を超えた。「何やってんだよw」と突っ込みたくなるその映像をまずはご覧あれ。
タイトルは「エルシャダイ 演ってみた」。厚紙で作ったよろいや剣を身につけ、ゲームキャラになりきっている。途中でなぜかネコが出てきたり、「EL Shaddai」というタイトルロゴがつまようじで作られていたりと、少しチープでおかしな作りではあるが、元の映像をかなり忠実に再現している。視聴者からのコメントでも「デキが思ったよりいいw」「GJ」「すげえw」などと評判は上々だ。
この動画で、金髪のかつらをかぶり、ゲームの主人公「イーノック」を演じている男性は藤山晃太郎さん(34)。実は、日本の伝統芸能「手妻(てづま)」の継承者だ。その一方で、ニコ動を愛し、β版の頃から利用している「良きニコ厨」でもある。さらには、ニコニコ生放送で手妻を有料配信する試みも始めた。藤山さんが伝統芸能とニコニコの融合にかける思いを聞いた。
ベストマジシャン1位に2年連続で選ばれる実力
手妻とは、江戸時代から伝わる日本独自の手品。「和妻」とも呼ばれ、97年には文化庁に「選択無形文化財」として選定された。和紙を卵やひよこに変化させたり、漆塗りの空箱から紅白の布や唐傘を出したりと、さまざまな演目で楽しませる。日本舞踊に決まった型や所作があるように、手妻にも基本の動きがあり、「〜してしんぜましょう」といった昔ながらの口調であいさつしながら、披露する。現代の手妻は、伝統的なネタを分かりやすくアレンジしたものが多いという。
藤山さんは、手妻の大家である藤山新太郎さんに弟子入りして修行し、手妻を継承した。日本奇術協会が選定する「ベストマジシャン」第1位に2010年、11年の2年連続で選ばれている。「エルシャダイ 演ってみた」の動画の中では金髪のカツラをかぶっていたが、普段は黒髪のロングヘアを1つに結んでおり、サイドの刈り上げた髪と袴姿が印象的。「〜ございましょ」と口調も独特だ。
手妻の面白さをより多くの人に知ってもらうため、演目や稽古風景をニコ動に投稿している。最初は09年4月にアップした「ダブルラリアット 回ってみたでござる」。直径2メートルほどの大きな金属の輪に両手でつかまり、VOCALOIDの人気曲「ダブルラリアット」に合わせ、体操選手のようにグルグルと回って見せた。これは藤山さんオリジナルの手妻「金輪舞」で、動画は42万回以上再生されている。
投稿先にニコ動を選んだのは、藤山さんが「ニコ厨」だったから。今では手妻の動画のほかにも、藤山さんが漫画「聖☆おにいさん」のキャラ「梵天様」を演じる動画など、多くのネタ作品を投稿している。
「エルシャダイ 演ってみた」が生まれたきっかけは「ノリ」だった。藤山さんがTwitterで「実写化しようよ」と友人たちに呼びかけ、制作した。メディア関係の仕事をしている友人たちだったため、綿密な企画書を作ったり、何カットを撮るなど「妙なプロ根性」を発揮。その結果「大人が全力でバカやってる」動画が出来たと、少し誇らしげに語る。
ニコニコ生放送にも挑戦
藤山さんは手妻の公演をニコ生でライブ配信する試みも始めた。10月に三味線演奏家の杵家七三(56)さんと共催した、横浜にぎわい座での公演「二人会『信』」は、横浜市芸術文化振興財団(YAF)のニコ生ページ「YAFチャンネル」で500円で配信した。「ライブ配信すると会場にお客さんが来なくなるのでは」といった周囲からの反発もあったが、今年2月から入念に準備して実現させたという。
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