サイバーエージェント子会社社長は新卒内定者 iPhoneアプリ「My365」開発チームの劇的な365日:きっかけは足湯(2/2 ページ)
起業にはさまざまなドラマがある。サイバーエージェントは、新会社の社長に4月入社予定だった内定者の飯塚勇太さんを抜てきした。就職活動からiPhoneアプリ「My365」ヒット、社長になるまでの道のりを聞いた。
思い出作りでも「やるからには徹底的」
4人の共通点は「やるからには徹底的」な性格という。思い出作りで始めたアプリ開発だが、Instagramのようなほかの写真SNSアプリがヒットしているのを見ていると「自分たちがどれくらい勝負できるのか試してみたい」と、燃えてきた。
My365が若い女性に刺さると考え、「ディテールにこだわった」。確かにアプリは柔らかい色使いで、かわいらしいフォントを採用しており、女性を意識したデザインに感じる。写真を読み込む際に表示する画びょうのアイコンなど、いちいちおしゃれでスタイリッシュだ。
アプリの広め方にもこだわった。リリース前の2カ月間は、Twitterのフォロワーが多い人など、20代前半の約50人に先行して使ってもらい、認知度を上げた。そのかいあってか、アプリはリリース直後からスマッシュヒット。「自分たちの想像をはるかに越えるダウンロード数」で、サーバの増設や多言語化の対応に追われた。
社長就任 「だまされてるんじゃないか」と両親が心配
My365と並行して、飯塚さんはサイバーエージェントで内定者としてアルバイトに励んでいた。サイバーエージェントの全社員と内定者が参加できる新規事業アイデアコンテストにも出場し、My365とは別のある企画で見事優勝。賞金の100万円はMy365のサーバ費にあてた。
優勝と同じタイミングで、バイトのオフィスが藤田晋社長のいる社長室と同じフロアになる巡り合わせも。藤田社長と話す機会が増え、My365を直接紹介することができた。My365のデザインやユーザーインタフェースを気に入っていたという藤田社長。飯塚さんについてはブログで「私の席のすぐ近くで長く内定者バイトをしていて、その頃から異常に優秀だった」と評している。
転機が訪れたのは昨年11月。藤田社長からMy365を会社化することを提案されたのだ。これまで起業を志したことはなく、新卒社員として4月から働く気まんまんだったため、最初は「戸惑った」が、数分後にはMy365をどのように収益化していくかに頭が切り替わった。
なぜならその頃、My365を今後どうするのか漠然と悩んでいたから。ユーザーが支持してくれているサービスを止めるわけにはいかないが、就職すればMy365に全力投球できなくなる――そんなジレンマがあった。だからこそ、起業は「正直驚いた」が、すぐに受け入れることを決断した。
新会社「シロク」は、サイバーエージェントが全額出資(資本金5000万円)して設立。WestCrewのメンバーが経営陣として参画し、My365の開発・運営にあたっている。オフィスはサイバーエージェントの会議室を間借りしている状態。4人とも学業との両立で忙しい毎日を送っている。
社長になることを両親に報告したときは「内定者が子会社の社長なんてだまされてるんじゃないか。お前大丈夫か」と心配されたという。だが飯塚さんたちの話題が日本経済新聞などで報じられたことを伝えると「やっと現実と理解してくれた」そうだ。
収益化の手段は?
新会社名のシロクは、左から読むと白、右から読むと黒。「白や黒のようにシンプルでたくさんの人々に通じるサービスを作りたい」という願いに由来している。また白と黒には、長期的なビジョンを持ちつつ、足元のビジネスも成り立たせるといった「相反する概念を両立させたい」という思いも込めたそうだ。
とにかくダウンロード数を伸ばすことを優先し、収益化する計画を持たずに動き出していたMy365だが、今後は企業とコラボして限定フィルターを用意するといったタイアップ企画や、ユーザー向けの有料機能を導入し、黒字化を目指す。「来年〜再来年には黒字化したい」と意気込む。
藤田社長からは「調子に乗らず今のままで、とにかく好きなようにやれ」と声を掛けられており、「一切心は浮ついてないです。後に続く学生のためにも頑張りたい」と気を引き締める。1年前には想像しなかった状況にいる飯塚さん。「1年後の自分へのメッセージは?」と訪ねると「収益を出す社長になりたい」と笑って答えてくれた。
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