5月29日に自民・公明・日本維新の会の3党が国会に提出した児童ポルノ禁止法改正案が、物議を醸しています。議論の争点になっているのは、主に「単純所持」の禁止と、将来的に「児童ポルノに類する漫画など」の規制を検討している点です。アニメや漫画といった直接的な被害児童のいない創作物を規制することには、出版系の業界団体などが続々と反対を表明しています。(日本漫画家協会の声明、日本雑誌協会・日本書籍出版協会の声明【PDF】、全国同人誌即売会連絡会の声明、コミックマーケット準備会の声明)
その一方で、アニメや漫画といった創作系の関係者・ファン以外からも、改正案に対する不安や危惧の声が出てきています。単純所持が禁止される児童ポルノとはいったい何なのか、その定義があいまいで拡大解釈できることが、不安を広げています。
ジャニーズの上半身裸と改正案
みんなの党の山田太郎議員が公開した自民党の資料を見ると、改正案は「自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持した者、児童ポルノに係る電磁的記録を保管した者」に対して「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」を課します。作り手や売り手だけでなく、所有者を罰するというこの内容は、従来よりもはるかに幅広い国民にその影響が及ぶと考えられます。
では、持ってはいけない児童ポルノとはどんなものなのか。現行法の第二条3項にはこうあります。
一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
このうち三号で規定されたポルノ、俗にいう「三号ポルノ」はボーダーラインがあいまいで、かねてから問題視されることがありました。文面を素直に解釈すれば、児童が何かしら脱いでいて性的であれば、それは児童ポルノであるということです。
こうしたあいまいな要素をはらんだまま単純所持禁止を含む改正案が出されようとしていることに危機感を持つ人々が出てきています。例えばTwitter上では、ジャニーズのアイドルが上半身をさらけだしているような写真はどうなのか、といった議論も巻き起こっています。
児童ポルノ禁止法改正の議論でしばしば引用される2009年6月26日の衆議院法務委員会(ニコニコ動画にアップされている動画/議事録)では、民主党の枝野幸男氏が現行の三号ポルノの規定についてこう指摘しています。
例えば十六歳、十七歳の、わかりやすく言うとジャニーズなどの若い男の子が上半身裸でいる映像とかそういったステージとか、そういったものはたくさんあります。これは明らかに同世代の女の子たちの性欲を興奮させ、または刺激をしているというふうに思います。なおかつ、着衣の一部、つまり、上半身裸になって、あるいはステージの途中で着ていたものを上半身脱いだりするということがありますが、明らかにこれは条文上は入ってしまう。
もちろん、それは社会通念上、そんなものは取り締まらないという現実になっているんでしょうけれども、こういったものが条文上入っていってしまうということは、もしかすると取り締まりの対象にされるかもしれない、そういう危険性があるという状況はやはり避けるべきである。
論旨を噛み砕くと、(1)ジャニーズのセクシーシーンは「性欲を興奮させ、または刺激をしている」ものだが一般的にセーフライン、(2)ところが現行の三号規定はそうしたものが取り締まりの範ちゅうに入る可能性を持っている、と枝野氏は指摘しています。
一方、児童ポルノの規制推進派として知られる自民党の葉梨康弘議員は自身のWebサイトでこのようなコメントをしています。
まず前置きしておくが、私は、「ジャニーズがショーの途中で上半身を脱いだ写真」は、「児童ポルノ」として扱うべきでないと思うし、個人的には、現行法上、「児童ポルノ」に該当しないのではと考えている。
というのは、ジャニーズのショーは、そもそも、歌唱・ダンスを見せ、聴衆を元気づけるもので、ストリップショーのような性的なショーとは明らかに異なり、ジャニーズのショーの過程で、上半身裸となって歌う写真が撮られたとして、それは、「1つの思い出」であり、「性欲を興奮させ、刺激する」ものでないため、「児童ポルノ」から除外されると考えるからだ。
葉梨氏の場合は、“ジャニーズのショーは「1つの思い出」であり、「性欲を興奮させ、刺激する」ものではない”という見解のようです。
どちらの意見が正しいか以前に、このように政治家1人1人においても三号ポルノに対する解釈やその範ちゅうは変わってきます。そして今回の単純所持禁止がもし施行されれば、児童ポルノと認められたものは破棄しなくてはいけない可能性がでてきます。「やっぱりジャニーズの裸は性的で刺激的でケシカランものだ」という人が出てきたときに、「全部捨てなきゃ違法」ということが起こり得るのです。
単純所持の禁止は、過去の資産も破棄しなければいけないという、一歩間違えれば焚書のような事態をもたらす影響力の高い規制です。にもかかわらず、どこにどう転ぶか分からないまま法改正が進もうとしていることが、不安を広げる大きな要因の1つといえそうです。
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