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インタビュー

“敵”が“先生”になる日――コンピュータ将棋ソフト開発者 一丸貴則さん・山本一成さん(後編)(2/4 ページ)

人間のプロ棋士とコンピュータソフトが戦った「将棋電王戦」。2人のソフト開発者はどんなことを考えて対局当日に臨み、そしてその結果に何を感じたのか。今後の人間とコンピュータとの関わり方についても考える。

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機械と人間の狭間で

 宮崎駿監督の映画「風立ちぬ」では、技術者である主人公が「純粋に良いもの、美しいものを作りたい」という思いを抱えながらも、「その結果作った飛行機が、戦争の道具に使われている」という現実に葛藤するというテーマがある。同質の疑問を抱えながらも、山本さんの中で、まだはっきりとした結論は出ていない。

 「人間と戦うときにはそういった面に気をつけなきゃいけないな、という思いは本当にあります。そこで戦っている人がいるし、そこで生活してきた人たちがいるし。別に相手をこてんぱんにやっつけたいというわけではないんですよ。でも……」

 「例えばですけど、羽生さん相手に戦ってみたい、という気持ちはもちろんあるんですよ。もちろんあるし、そこで羽生さんが勝てば問題ないんですね。でももしも羽生さんに自分の作ったソフトが勝ってしまったときに……」

 「――羽生さんに勝ってしまったときに、私はどうすればいいんでしょうかね?」


第3回電王戦対局時の山本さん。ディスプレイを眺める姿は、棋士が盤面を眺める姿のようにも見えた

第3回で変わったもの、そして第4回の意義は

 緊迫した第2回での雰囲気に比べ、第3回はコンピュータが勝った後の記者会見でも全体的に空気が柔らかかった。一丸さんも山本さんもそう口をそろえる。それは非礼を承知で書けば、プロ棋士が、そしてそれを見守る世間が、「棋士が負けることに慣れた」――少なくとも棋士が負けても何ら不思議なことではない、恥ずかしいことではない、という共通認識が醸成されてきたからなのだと感じる。

 今回、プロ棋士側の全対局者と、コンピュータ側の全ソフト開発者の中から選ばれるMVPは、視聴者投票によって習甦開発者の竹内章さんが受賞した。受賞者が発表された瞬間に、棋士も開発者もその多くが非常にうれしそうな顔をして拍手をしていたシーンが印象的だ。山本さんは言う。「竹内さんが受賞したことはもちろんうれしかったんですけど、それ以上に衝撃的でしたよ。まさか(一年前は“敵”だったはずの)コンピュータ側が受賞するなんて」

 第2回電王戦は純粋に「コンピュータはプロ棋士に勝てるのか」という問いの答えを確かめる戦いだった。第3回は、ルールを変更し、出場棋士の段位も上げ、「この条件ならばどうか?」という再試行、仕切り直しの意味合いを持った戦いだった。しかし、それでもプロ棋士側が負け越してしまった今、来年の第4回(開催は現時点で未定)を実施する意味はあるのか。

広がりを見せる電王戦


電王戦最終局後、記者会見時の一丸さん

 第4回電王戦を行う意味について、一丸さんは「勝ち負けだけに重点を置くならば、そこまで意味があるかどうかはちょっと疑問ですが……」と断った上で、こう語る。

 「プロ棋士個人、開発者個人の視点から考えると、やる意味はあると思います。例えば今年であれば、(ツツカナと対戦した)森下九段は電王戦を契機に他の棋戦でも活躍され、今も好調な成績を保っていらっしゃいます。開発者ももちろんモチベーションは上がりますし、それによってプログラムは強くなります。そういう風に、電王戦は電王戦の中だけで終わるんじゃなく、もう少し広がりを見せてきているんじゃないかと思います」

 一方の山本さんは「戦う場があるのならもちろん出たいです」とし、過去にさんざん議論の的にもなってきたトップ棋士(タイトルホルダー)の出場にも言及する。

 「100年後の未来のことを考えれば、ここで決着を着けておいたほうがいいと思うんですよね。例えばチェスの世界ではカスパロフ※がディープブルーに負けましたけど、あれで良かったんじゃないですか? 今この日本で、チェスの話題ってその出来事くらいしか語られてないですよね。将棋界にも、絶対そういう出来事があった方がいいと思うんです」

※20世紀末当時のチェス世界チャンピオン。IBMの開発したチェス専用のスーパーコンピュータ「ディープブルー」と対戦し、1996年には一度挑戦を退けたが、翌97年には6番勝負を負け越した

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