バレンタインだチョコだと騒がしい昨今だが、一つ忘れてはいけないことがある。2月14日は、「バレンタインデー」でありつつも、同時に「ふんどしの日」でもあるのだ。2011年12月に、日本記念日協会で正式認定され、翌2012年の2月14日から、この日は華々しく「ふんどしの日」としてデビュー。「一般社団法人 日本ふんどし協会」はこの3年間ずっと、「2月14日は愛する人にふんどしをプレゼントする日です!」と声高に喧伝し続けている。また、同協会によると、これに伴い3月14日は必然的に「ふんどし返しの日」になるという。
しかし、残念ながら現状世の中では、ふんどしはメジャーな衣類とは言い難い。チョコレートのおいしさは誰もが知っていても、ふんどしの良さを知っている人はおそらくほとんどいないだろう。これは、“愛する人に贈るプレゼント”としては少々問題なのではないだろうか。ふんどしが良いものなのかどうなのかも知らずに無責任に贈るとは由々しき事態。ならばだ。2月14日の「ふんどしの日」に先立って、ふんどしの着心地を体感してみるべきではないだろうか。こうして、3日間に渡る私のふんどし生活が始まった。
ふんどし生活初日。ふんどし履いてスタバへ
1日目。ネットショップで購入した女性用の「越中ふんどし」を開封。
紐を結んで布を紐にくぐらせて、布の折れた部分を微調整して……、普段2秒で履ける下着と比べて、なんとも時間のかかることか。ありていに言うと、面倒くさい。
履き終わり、朝ご飯を済ませた私は、とりあえずスタバへ向かった。せっかくふんどしを着用しているからには、ふんどしが似つかわしくなさそうな場所へ行きたかったのだ。
普段スタバで仕事など滅多にしないが、何しろ今日はふんどし生活の初日。おしゃれにふんどしを履きこなした気持ちになって1日を過ごしたい。履き心地としては、スースーしてなんとなく心許ない気がするが、仕事は問題なく終わった。ふんどしの履き心地が気になって気になって仕事どころじゃない、といったことは特にない。
ふんどし生活2日目。「ふんどしの日フェア」に行ってみた
2日目。昨日、強いて言えばふんどしを履いたときに少し気になったのが、「越中ふんどし」の前に垂れている布の部分。いわゆる“ふんどし”を想像するときにイメージする、あの前掛けのような布だ。あれがタイツの中でクシャッとなるため、生活する上で少し気が散ると言えば散る。おそらく、男性がふんどしの上からジーンズ等を履いたときも、同様の悩みを抱くことだろう。そこでこの日は、よりよいふんどしを求めて、期間限定の「ふんどしの日フェア」へ行ってみた。新宿の小田急百貨店2階にて、2月18日まで開催されている。
そこで店員さんから勧められたのが、「もっこふんどし」。前掛けのような部分がないふんどしである。あの前掛け的なものがないと、せっかくの“ふんどし感”が減るような気がしてならないが、背に腹は代えられない。店員さんの「普段使いにどうぞ」との言葉を信じて、「もっこふんどし」を購入してみた。
ちなみに、購入者は女性が多いらしく、それも男性へのプレゼント用がほとんどだという。やはり「ふんどしの日」の影響で? と問うと、「ふんどしの日のことを知らずに買って行かれる方が多いですね。単に、バレンタインのギフトとして」(店員さん)だそう。「ふんどしの日」という口実も無しにバレンタインに突然ふんどしを贈るのは相当勇気が要ると思うのだが……。世の中は不思議なことでいっぱいだ。
フェアはほかにも、芸能人の誰さん愛用のふんどしだの、ふんどし界の自己啓発書のようなものだの、あらゆる角度からふんどしの魅力を伝えようとしてくる。
さらには、いったいなんのためにあるのか、顔はめパネルに、ふんどしのガチャガチャまで。
ちょっとした、ふんどしのテーマパークのようだった。
ふんどし生活最終日。“ふんどしの聖地”へ向かう
3日目。ふんどしにも慣れてきた。このふんどし生活の集大成として、あそこに行こうと思う。ふんどしを普段から愛用している力士たちの聖地・両国国技館へ。力士たちの身に付けている“まわし”も、ふんどしの一種なのである。私がふんどし生活の初日に履いた「越中ふんどし」、2日目に購入した「もっこふんどし」、そして相撲で有名な「まわし」、これらの総称が「ふんどし」なのだ。この3日間で、すっかりふんどしに詳しくなってしまった。なお、今日は昨日手に入れた「もっこふんどし」を着用。形も履き心地も、普通の下着と大差ない。なるほどこれなら難なく普段使いできそうだ。
ふんどしを3日も履けば、だいぶ板についてくる。せっかくのこの状態で相撲の1つや2つ、観戦できればよかったのだが……。よく考えたら2月は相撲、やってなかった。嗚呼。締まらない。
で、結局、そもそもの目的だった“ふんどしの良さ”とはどこにあるのか。意外だったのが、ふんどしのイメージ的に、履くと豪快な気分になるのかと思いきや、実際は真逆だった。日中ふんどしの紐がうっかりほどけたら困るため、普段よりも動きがしとやかになったのだ。健康面では、ゴムの締め付けがない分、使っているうちに血流が良くなるという。紳士淑女のしとやかな振る舞いになれるばかりか、健康にも良いふんどし。贈り物としては申し分ないと言えるのではなかろうか。かくして、百点満点の結論とともに、私のふんどし生活は幕を閉じた。
とはいえ。最後にこの3日間を台無しにする一言を添えるとしたら、いくらふんどしが魅力的な商品であるといえど、チョコよりもふんどしを贈られるほうがうれしい人は、そうそういないだろう。なにしろ、チョコである。相手が悪すぎる。2月14日が「愛する人にふんどしをプレゼントする日」に成り代わられることは、きっと無い。この地球が続く限り(たぶん)。
朝井麻由美(@moyomoyomoyo)。フリーライター・編集者・コラムニスト。ジャンルは、女子カルチャー/サブカルチャーなど。ROLa、日刊サイゾー、マイナビ、COLOR、ぐるなび、等コラム連載多数。一風変わったスポットに潜入&体験する体当たり取材が得意。近著に『ひとりっ子の頭ん中』(KADOKAWA中経出版)。構成書籍に『女子校ルール』(中経出版)。ゲーム音楽と人狼とコスプレが好き。
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