犯した罪の分だけ地獄で責め苦(拷問)を受ける贖罪(しょくざい)ライフを描いた鈴丸れいじさんの『地獄恋 LOVE in the HELL』(全3巻・双葉社)。
連載終了後しばらくして、Kindleストアなどで1巻を99円(2巻3巻は250円)にしたところ、2014年上半期のKindle本ランキングで「進撃の巨人」「僕だけがいない街」「天地明察」に次ぐ4位になり、完結済みの作品としては異例の動きを見せました。
その後鈴丸さんは『地獄恋II LOVE in the HELL』をKindle連載で執筆。その単行本が『地獄恋 DEATH LIFE』として9月28日に発売。
さらに、その続きが11月から漫画アクション【無料連載版】で連載されるという珍しい動きを見せています。そんな鈴丸さんにお話を聞く機会に恵まれました。
知ると100倍楽しい「地獄恋」
―― 前作の「地獄恋 LOVE in the HELL」はWEBコミックハイ!(現WEBコミックアクション)での連載終了後、2013年末から2014年はじめにかけて電子書店で実施されたキャンペーンで大きく動きましたよね。
鈴丸 当時は人気が出なくて打ち切りだったんですけどね(笑)。連載が始まるときも、コミックハイの編集長にギリギリのところで拾ってもらいましたし。
電子書籍で(数字が)跳ねたのは、このマンガの読み口が「消費される」コンテンツとしてマッチしたのかなと。こうして連載が終わった後も再度注目される可能性も含め、電子(書籍)のメリットは感じましたね。
―― あれは打ち切りでしたか……。
鈴丸 既存のものとは違った切り口にしたくて、世界観や設定を細かいところまで考え、その中でキャラを立てていく構成はそれなりにうまくいっていると思っていましたが、3巻でおしまいと告げられて。さみしさというより、数字を出せなかったのが悔しかったですね。漫画家って個人事業主なので、結果は全部自分で受け入れなければならない。連載が終わったのも何かが足りなかったんだろうし、自分自身の責任だろうなと。
―― かなり自分の中に抱え込まれた様子です。
鈴丸 ……僕、私生活がむちゃくちゃで。自分の中のバランスが悪いときが結構あって。地獄恋を描いてるときもそうでした。
―― そもそも地獄恋はどんな経緯で生まれたんですか?
鈴丸 僕は講談社からデビューしたんですけど、そこでの連載が終わってから、ちょこちょこ描いていたエログロものを、とある編集プロダクションの編集長が気に入ってくださって、そこが手掛けていた実話誌でそうしたものを描くようになったんです。
当時は自分が描きたいものを描いていたのだと思うんですが、今見ると訳が分からない。何十人もの関取に押しつぶされて溶けちゃう男の話とか。アングラやサブカルの文脈で受け入れられる部分もあるし、描いてるときはいいんですけど、出版されて世に出ると「何か違うな」っていつも感じてて。それでも、仕事が自分にとって蜘蛛の糸のような感じでしたけど。
そうした違和感がないものを1本きちんと描いて、出版社に持ち込んだんです。それは純然たるホラーマンガだったんですが、それに助言をいただいたりして生まれたのが地獄恋でした。
―― 何が“違った”んでしょうね。
鈴丸 誰からも認められてなかったことに起因するんじゃないかなと。僕がいつも思うのは、マンガを考えるのは自分だけど、マンガを作ってるのは自分だけじゃない。担当者がいて、出版社がいてモノになる。みんなで作り上げたものが一定の評価を受けることで自分の中の承認欲求のようなものが満たされていくというか。
―― 作品やキャラに自身が投影されている部分が多そうですね。
鈴丸 多かれ少なかれそういうものだと思いますが、僕は明らかにそうですね。前作に登場するりんたろうにしても、どうしても自分の過去の経験などが入ってきて若干クズっぽい主人公が出来上がったり(笑)。
「地獄の日常」「面白みがあって泥臭い感じのスプラッター表現」を描きたい
―― 地獄恋では何を一番描きたいと思っていますか?
鈴丸 日常、ですね。いわゆる仏教的な六道の最下層である地獄という世界。そこで普段の生活が構築されているとしたら、それはどんなものなのか。地獄での日常を描きたいなと。
―― 日常ですか。てっきりエロやグロなのかと。
鈴丸 “面白みがあって泥臭い感じのスプラッター表現”は描きたいと思っています。エロは、ホラーには欠かせないから自然に出てくるものというか。
僕は70年代から90年代のホラーやスプラッター映画を見て育った人間ですが、あのころの、(スプラッター表現を)見せたくてしょうがない! みたいなのが伝わってくる職人気質のある表現が好き。今は、そういう表現がスタイリッシュになって、さらっと読めるから、目にとまりにくいなと思っていて。
―― そのころの作品で影響を受けたものはありますか?
鈴丸 例えば『ヘル・レイザー』。当時は映画館で1日中見ていたこともありました。セノバイト(魔道士)が着てるボンテージはどれもすごくかっこよくて。
―― そういわれると確かに地獄恋にもその影響が見て取れますよね。
2015年3月からKindle連載で連載された『地獄恋II LOVE in the HELL』が今回紙のコミックスになるのも興味深いのですが、タイトルが『地獄恋 DEATH LIFE』に変更されているのは、先ほどの「日常を描きたい」という思いの表れなんですね。
鈴丸 そうですね。前作でやらなければならなかったのに抜け落ちてしまっていたものは本作でふんだんに入れています。
―― 前作で抜け落ちていたものとは?
鈴丸 1つはキャラのバリエーション。1作目はりんたろうとこより、たまに桃音、という感じでしたが、今回は最初からキャラをバンバン出してます。
そうすることでそれぞれのキャラクターに関する広がりが出て、読者もキャラの取捨選択ができる。ヘル・レイザーでもセノバイトが何人もいてそれぞれ味わい深いのですが、あの感覚。見た目の面白さとそれぞれのエピソードをしっかり描きたいですね。
もう1つはテーマ。前作のそれはりんたろうに対する救済。こよりは母性の象徴で、その母性に触れながらりんたろうが自分の罪に気付いてそれを浄化していく。対して本作はここでは控えますが、それとは違うテーマで描いています。
担当編集のK澤さんと打ち合わせでよく言っているのは、「死んだ後の方が生を実感する」ということ。ここは深く掘り下げたいですね。
―― 日常は死んで終わりではない、むしろ、死んだ後の方が生を実感する、といったところですか。そういえば余談ですが、本作と前作の冒頭は似た展開ですよね。
鈴丸 人が死んで、さんずの川を渡って、閻魔(えんま)大王に裁かれる、という誰であっても変わらない様式美のようなものが地獄のイメージとしてありますよね。それを表現したくて。
―― 手抜きと思ってしまった自分を殴りたい(笑)。鈴丸れいじは「地獄恋 DEATH LIFE」でベストを尽くそうとしているんですね。11月からはKindle連載の漫画アクションでこの続きが連載されるとあります。
鈴丸 ええ。こうして地獄恋の続編を描けたのも、電子書籍で買ってくれた人の下支えがあったから。買ってくれた方には感謝しているし、いかに裏切らずに楽しいものを描けるか。報いたい!
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