「ウメハラがぁ!」の名実況はなぜ生まれたのか 裏方として格闘ゲームを支え続ける電波実況の中の人に話を聞いた(2/2 ページ)
「ウメハラがぁ!」でお馴染み、ニコニコ動画の一大ジャンルに成長した電波実況はどのように生まれたのか。電波実況の中の人である「がまの油」さんに話を聞いた。
小さなイベントでも100時間以上は費やしている
―― 格ゲーイベントの運営と一言で言っても、さまざまな作業があるかと思います。具体的にイベントはどのように作られるのでしょうか。
がま:
一概にイベントといってもこちらから企画するものから、委託されるものなど色んなパターンがあるのですが、事前準備だけでも半年以上前から会場視察や予約、3カ月前から企画書作成、遅くとも1カ月前の告知が必要ですし、機材やスタッフの確保、タイムスケジュール作成もやらなくてはいけません。また、最近ではゲームのアップデートもあるので、家の中は当日までゲーム機だらけです(笑)。イベント時は設営から、当日の進行、配信確認やテキスト、トーナメントといったものの更新、イベントアピールのためのツイートなどが主な内容です。片付けだけとっても、借りたコントローラー40台を発送したりするので人数がいても大変な作業量です。
その他にもメーカー返送品や報告、記事更新や、終わった直後は次イベントの告知タイミングでもあるので、イベント後も1週間は落ち着かないですね。そんな感じなので、小さなイベントでも100時間以上は費やしていると思います。
―― 月に何件くらいのイベントに関わっているのでしょうか。またイベントの規模はどの程度でしょうか。
がま:
今は大体月1件から3件、規模はネット配信向けのものから現場参加型もあるので一概に比較できませんが、参加者数でいうと100人から300人ですね。もちろん、100人のイベントよりも300人のイベントの方が準備に時間がかかるので、大規模なイベントの近くはなるべく他のイベントが重ならないように調整しています。
―― 「格ゲーイベントの運営を担える人材の育成」も活動の一環とされているように感じます。これにはどのような意図があるのでしょうか。
がま:
今までは自分で全てを把握できる範囲のイベントしかしてこなかったですが、シーンが大きくなるにつれてそうもいかなくなったというのもあります。自分なんかは何十回どころじゃないぐらいイベントを経験してきて、他のスタッフとのノウハウに圧倒的に差があると感じています。それなのに“自分が全部やればいい”では、イベントの規模が大きくできないんですよね。実際、どのイベントも人手が足りていないと思います。私のイベントじゃなくてもいいので、経験した人があちこちに協力できるようになってくれたらいいなぁと思っています。
―― 最近ではあまり格ゲー実況としての活動はされていないようですが、何か理由があるのでしょうか。
がま:
やはり、実況以外にやらないといけないことが多いということですね。どうしてもいなければやりますけど、プレイヤーの狙いや、どれだけ努力しているのか分かるような実況をしたいため、こちらも十分に時間が取れない環境で実況するのは失礼だと思っています。
格闘ゲームイベントの分野はもともとかなり熟成されていた
―― 2000年代後半以降、格闘ゲームのe-Sports化が急激に進んでいるように感じます。きっかけは何だと思われますか。
がま:
元をたどると、やはりゲームトーナメントとライブ映像の相性の良さが大きいと思います。単に勝ち負けが視覚的に分かりやすいのもありますが、そこでプレイする人の一喜一憂、仲間の声援、見ている人達の歓声もネットを介して伝えられるようになりました。イベントの現場は毎回大きく盛り上がっていたわけですから、格闘ゲームイベントの分野はもともとかなり熟成されていたんですよね。
―― 昨今ではウメハラさんのプロ化をきっかけに「プロゲーマー」として活躍する人が大勢登場しています。これによってゲームの大会の在り方に変化は起きていると感じますか。
がま:
やはり注目度は大きく変わっていると思います。「ウメハラ」さんは、ゲームをあまりやらない会社の同僚だって知っているレベルになっていますし、コアなプレイヤーも知名度を上げています。プロゲーマーはゲームの実力はもちろん「ゲームをあまり知らない人にも浸透している」という武器があるので、大会運営側からしても非常に力強い存在です。
一方でビジネスパートナーとしての在り方に気を使う場面は増えました。いい意味では宣伝もしてくれるし、協力してくれるからうまく関係を作っていく必要がありますね。以前は全く気にしなかったことで慣れていないのもあり、いつもスポンサーさんには迷惑かけてばかりで本当にすいません(笑)。
―― プロゲーマーはe-Sports全体に大きな影響を与える存在である一方、“職業としての安定性に欠けているのでは”と感じることもあります。これについてはどう思われますか。
がま:
他のスポーツでも兼業の人は居るわけですし、これはこれでいいのではと思っています。ただ、日本の環境では「海外の大会に出るので休みます」とは言いづらいですし、かといって日本国内のイベントも多くはないです。
やっぱり日本のゲームイベントを増やし、プロゲーマーの社会的価値を上げる必要があると思います。取りあえず、EVO(毎年開催される格闘ゲームの世界大会)で日本人が優勝したら、皆で国旗持って空港に迎えに行きましょう!(笑)
―― 最後に、ご自身のこれからの活動についてお聞かせください。
がま:
今はボタンマッシャーズというコミュニティー団体で活動を行っています。格闘ゲームはプロゲーマーという職も生まれて、ゲームがディープになる一方、誰でも気軽にはじめられる環境も大事です。誰もが「入り口が広いコアなゲーム」を楽しめる新しいイベントを目指したいと思っています。ぜひ今後も頑張って活動していきますので、応援よろしくお願いいたします!
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