「原作を守りつつ頭悪いことを」 “アメイジング翻案家”架神恭介が語る、「こころ オブ・ザ・デッド」への義務感(1/3 ページ)
単行本第1巻発売を記念したインタビュー。
コミック アース・スターで大人気連載中、12月12日には単行本第1巻が発売された漫画「こころ オブ・ザ・デッド」。夏目漱石の著書「こころ」を題材に、ゾンビやその他諸々のカオスな要素を織り交ぜた同作の“アメイジング翻案”を担当しているのは、「完全パンクマニュアル」「よいこの君主論」「戦闘破壊学園ダンゲロス」などで知られる作家の架神恭介さんだ。
「スーパー漱石大戦」のサブタイトルから想起されるように、作中には「坊っちゃん」や「吾輩は猫である」をはじめとした、さまざまな漱石作品のキャラクターが登場する。原作の基本的な設定は生かしつつ、ゾンビのはびこる世界で獅子奮迅の活躍を見せる「先生」と「K」。そんな独特の世界はいかにして誕生したのか。架神さんと、作品を担当している大藤編集に話を聞いた。
当日は記者のわがままで文豪をイメージした着物を着てもらった。記事後半では、漱石が生まれた新宿区喜久井町周辺から漱石の墓がある雑司ヶ谷までを散策する様子も収録している。
夏目漱石は安易にいい話をしないところが好き
架神恭介さんの(簡単な)経歴紹介
2001年 週刊少年ジャンプの感想サイト「The 男爵ディーノ」をスタート。
2004年 所属するパンクバンド「真剣に解散を考えている。」のライブの様子をテキスト化したWebサイト「完全パンクマニュアル」が話題となる。
2005年 「完全パンクマニュアル」として書籍化、作家デビューを果たす。
2009年 「完全覇道マニュアル」を「よいこの君主論」へと改題して発売。同年、「完全教祖マニュアル」も出版する。
2011年 自身が作ったテーブルトークRPG「戦闘破壊学園ダンゲロス」の小説版が講談社BOX新人賞POWESを受賞(翌年コミカライズされる)。
2015年 「ダンゲロス1969」をKindleで独占配信。
2016年 週刊少年チャンピオンの「放課後ウィザード倶楽部」、コミック アース・スターの「こころ オブ・ザ・デッド」で漫画原作者デビューを果たす(放課後ウィザード倶楽部は、2017年2号で最終回を迎えている)。12月7日には「仁義なきキリスト教史」の文庫版が発売された。
―― 夏目漱石の「こころ」にゾンビ要素をくっつける発想はどこから生まれたのでしょうか。
架神: それは、この方(担当編集の大藤さん)の思い付きですね。もう1年以上前かな。
―― 「こころ」を題材にしたのはなぜですか?
大藤編集: 「青空文庫」で一番アクセス数が多い作品はなんだろうとランキングを見ていたら、1位に「こころ」があったんですね。それで、何かくっつけられないかと考えて、“オブ・ザ・デッド”だったらすわりもいいしと。
―― それを聞いて先生は。
架神: なにを言ってんだろうこの人って思いましたよ(笑)。そのタイミングで自分も「柳生 オブ・ザ・デッド」という案を出しておいてなんですけど。
―― 架神さんは、「こころ オブ・ザ・デッド」を書くまで夏目漱石作品に触れたことがなかったそうですけど、読んでみてどうですか?
架神: キャラが立っている登場人物があまりいないんですよね。「三四郎」とか特に。
大藤編集: 漱石は割と自分をモチーフにしていたりするので、似たような人ばかり出てくるんです。だから漫画で出そうとすると、どうしても似たような人ばかりになってくる。その辺結構苦労されてましたね。
架神: 漱石っていい話をするのかなと思ったら、なにもならなかったで終わることがよくあるんですよ。「坊っちゃん」もそうじゃないですか、先生として四国に行って、人々と交流したり生徒と仲良くしたりするのかなと思ったら、ただ殴って帰るっていう。夏目漱石のそういう、安易にいい話をしないところが好きですね。
―― 目黒さんを作画に決定するまで、結構かかりました?
架神: かかりましたねえ。もう企画自体も忘れられてるんだと思ってました。話だけ来て、そこから動かないってこの業界よくあることなので、またその一件かと思って。なんで編集者っていつも連絡せずにいなくなるんだろう。
大藤編集: いや、その、すみません(笑)。連載が始められてよかったです。
―― 「こころ オブ・ザ・デッド」はいわゆる二次創作ですけど、話を考える上で気を付けていることってありますか?
架神: 「こころ」だけに限らないんですけど、僕は基本的に性格がクソ真面目なので、ちゃんと原作のニュアンスは入れなきゃと過剰に思っているんです。「坊っちゃん」も原作は生徒と心を通わせたりしないし、マドンナの扱いも邪険じゃないですか。そこは漱石のスピリットだと思うので、読み取ったからには、ちゃんと反映させなきゃいけない。すると四国編はああいう形にならざるを得ないんです。
―― 想定読者はどの層を?
架神: 大藤さんは「文豪ストレイドックス」の読者層を想定してましたね。企画の段階でそう言われました。
―― 帯文にも朝霧カフカさんの推薦文が入ってましたね。その一方で、ネット上では「ぶっ飛んでんな」とか「カオスすぎる」などと言われてますが。
架神: どう考えてもカオスですよ、冒頭の「私」からしてあれなんで(笑)。皆、頭がイかれたものを求めてるはずなので、思ったほどいかれてないなと思われたら悲しいじゃないですか。毎回愕然(がくぜん)とさせるくらい頭悪いことをしないといけないなと。
―― スーパー漱石大戦という言葉は誰の発案ですか?
架神: それは僕です。確か最初は「こころ」とゾンビだけで考えてたんですが、やや不安があったんですよね。で、検討した結果、スーパー漱石大戦に。
大藤編集: さすがに「こころ」だけだと話が膨らまないだろうと思ったんです。
架神: それで、じゃあ漱石クロスオーバーにしようかなと。イメージ的には横山光輝の「ジャイアントロボ」を原作としたアニメ(「ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日」1992〜1998年にOVAで発売)なんですよ。敵の組織のボスがバビル2世だったり、参謀が諸葛亮孔明だったりっていう。そのニュアンスでやってますね。
ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日
―― それで言うと、「ゾンビを便利に活用」「エキサイティング遊興施設」みたいに「ニンジャスレイヤー」っぽい言葉も出てきますよね。
架神: あー、できるだけ影響を排除しようとがんばっています(笑)。
―― ダンゲロスとニンジャスレイヤーのシミュレーションゲームもやられてましたよね。
架神: 単純にファンなんですよ。最近ずっと忙しくて、まともに摂取できたのがニンジャスレイヤーしかなくて影響を受けてるんですね。「ダンゲロス1969」っていう小説も出してますけど、あれも文体はちょっと影響受けてますね……。僕の周りでも作家は結構ニンジャを危険視してます。あれは影響力が強すぎる、俺の文章が侵食される!って。ところで、「ゾンビを便利に活用! なんたる忍法!」(ラップ調)って韻踏んでいたんですけど、気付きました? え、誰も気付かなかった? これ自分で気に入ってて、嫁相手にずっと言ってたんですよ。
架神: あと、結構いろんなもの取り入れてますよ。第5話で竜巻に乗ってゾンビが飛んでくるのも「シャークネード」だったり。ただ、あれをゾンビでやったら面白いだろうと思ったら、もう「ゾンビネード」があったんですね(笑)。
第2話の武装馬車も、リメイク版ドーン・オブ・ザ・デッドでバスを武装させて走るシーンがあるじゃないですか。あれの流れです。
大藤編集: 頭の悪いガジェットをいっぱい出していきたいんですよね。車に巨大なプロペラを付けてガイコツを吹き飛ばしたり。
架神: 「死霊のはらわた3」ですね。
大藤編集: 扇風機でゾンビを切り刻んだり。
架神: 「ゾンビ・オブ・ザ・デッド」(笑)。すごいタイトルですよね。
大藤編集: シリアスなものじゃなくて、ゾンビ映画のそういった頭悪い方面のことをやっていきたいです。
―― あと、オリジナル要素として、先生が柳生新陰流を、Kが小野派一刀流を使いますよね。
架神: 2人の間柄を柳生新陰流と小野派一刀流で表せたらと思ったんです。このニュアンス伝わりますか?
―― 柳生新陰流はどちらかというと世渡り上手で、小野派一刀流はひたすら剣の道を進むみたいなイメージでしょうか。それぞれ先生とKの性格によく似ているなと思いました。
架神: そうですそうです。どちらの流派も、徳川将軍家の剣術指南役なので対抗心とかもあって。それが徳川の世が終わったことで仲の良い友達になって、でも300年間の両派の流れもあって……と。
―― 小説も発表されてますよね。
架神: 基本的に小説原作です。僕が小説を書いて目黒先生に渡して、目黒先生が漫画にするっていうのが当初の予定で。でも、小説渡すときに、ちょっと描いたんで参考までにってネームも渡したら以後ネームも僕が描くことになって……。毎回目黒先生からダメ出しされてますが、それもあってネームに関してはかなり成長したと思いますね!(笑)。
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