ここ数日、海外のゲームコミュニティにてとある画像が物議を醸していた。画像には、おなじみの任天堂キャラクターであるピカチュウやリンクが戦う姿が写し出されており、これがNintendo Switch(ニンテンドースイッチ)版『大乱闘スマッシュブラザーズ(以下、スマブラ)』のリーク画像ではないかと噂されていたわけだ。
発端となった場所は海外インターネット掲示板4chan。同掲示板には、5月30日に「こんにちは、これらの画像は、7月に発売予定の人気のある日本のゲーム雑誌の次の版からのものです」とたどたどしい日本語とともに、複数の画像が投稿された。この画像をNintendo Lifeを代表する海外メディアが「Nintendo Switch版『スマブラ』の画像がリークされたという噂がある」と取り上げたことで、インターネット上に瞬く間に広まっていった。経緯や出元、そして『スマブラ』ほどのビッグタイトルの機密性を考えると、信じる人をむしろ疑ってもいいほどではあるが、信じてしまう人はいてもおかしくない程度には巧妙な画像でもあるのだ。
たとえば、一枚目の画像はマリオとクッパJrが映し出されており、背景のステージは、ニンテンドー3DS向け『大乱闘スマッシュブラザーズ for 3DS』のみ登場する「ペーパーマリオ」によく似ている。ステージ「ペーパーマリオ」のグラフィックは、本来はニンテンドー3DS向けということで、やや粗いが、今回の画像ではHD向けに精細に描き下ろされている。
以前から、Nintendo Switch向けに『大乱闘スマッシュブラザーズ』が出るならば、『マリオカート8 デラックス』のように、『大乱闘スマッシュブラザーズ for Nintendo 3DS / Wii U』をブラッシュアップした完全版になるのではないかと推測する声が多かった。キャラクターグラフィックやインターフェースのベースは変わらず、「ペーパーマリオ」を代表にニンテンドー3DS向けのステージのみ描き直されている今回の画像は、こうした推測をする人にとっては腑に落ちるものであるだろう。ほかの画像も、どれもニンテンドー3DS向け限定のステージを描き直したものを映したものばかり。疑問の余地はあるものの、一定の説得力と一貫性を持ち合わせていたというわけだ。信じてしまう人のあまりの多さに、大手任天堂系メディアであるGoNintendoとGameXplainは声明を出し、「信頼できる情報筋によると、この画像はフェイクだ」と報じるほどの騒動になっていた。
そして6月1日、前触れもなく真実が明らかになった。任天堂関連の動画を投稿するYouTubeチャンネルTheBitBlockに携わるメンバーJosh Thomas氏が動画内で、「完全なるフェイクだ、だって俺が作ったんだから」とネタばらし。3日間にわたる情報戦は突如終了した。氏は、フェイク画像を作成した理由について「E3に向けてリーク画像を作ることに挑戦してみたかった。『スマブラ』コミュニティの人らは(情報に)敏感で、だますのは難しいと思ったからこそやったんだ。」と明かしている。
そしてThomas氏は、Photoshopを使った巧妙な画像作りのプロセスを披露。ステージの画像はすべて手作りで、ひとつごとに6〜7時間、すべてを作るのに4日半かかったことを明かしている。また、氏は任天堂タイトルへの知識と想像力を使って、どうなりそうであるかを考えて、さまざまな加工を加えたとも語っている。これまでにも任天堂タイトルのステージやアセットを自らの手で作ってきた経緯があり、そうしたものを『スマブラ』でやりたかったとも話している。
海外のゲームコミュニティにおいて、こうした任天堂関連作品のフェイク騒動が起こるのは、今回が初めてではない。最近ではNintendo Switchが発売されるまでに、多くのフェイク画像が生み出されてきた。たとえば、NX時代に出回った奇妙な楕円形のハードウェアの画像や、2016年11月にNintendo Switchを入手したと騒いだYouTuberなど、とにかく話題目的のフェイク画像作りがあとを絶たない。
非常に奇妙であるのは、こうしたフェイク画像を作る人々は、任天堂を嫌うどころか、任天堂の大ファンであるという点だ。実際に今回デマ画像を作成したThomas氏が運営するTheBitBlockは、任天堂関連を扱うYouTubeチャンネルのなかでは支持を得ており、本人も動画内でその愛を隠さない。しかし氏はファンであるにもかかわらず、混乱を招く画像を作って拡散したことに満足感を示しており、動画の最後には「高画質のものを見たいならばSNSをフォローしてくれ」と宣伝までしている。前述した、偽のハードウェア画像を作成したIdriss2Dev氏も、Nintendo Switchを11月に入手したと自慢したEtika氏ももっぱら任天堂を心酔するファンボーイだ。こうした人々は、メーカーを愛しているにもかかわらず、目立ちたいがために、混乱を招く迷惑行為をしている。
今回のThomas氏の行動は、動画のコメント欄では「お前だったのか!(笑)怒る気もしないよ、すごいな!」「お前はレジェンドだ。」といった称賛一色だ。一方でNeoGAFやredditでは、Thomas氏への激しい非難が集まっている。インターネットユーザーには情報を取捨選択する権利はあるものの、「欺かれること」へ嫌悪感を覚える人々も多いだろう。完成度や情熱については、認められる部分はあるものの、それをフェイク画像の作成と拡散で発揮する必要があるのかは、いささか疑問だ。いずれにせよ、今回目立つことに成功したThomas氏のような“フェイク遊び”をする人々は、まだまだ生まれ続けるだろう。
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