「完全なファン目線で、どこまで凝れるか」 別次元のクオリティで『HiGH&LOW』世界を再現した「ハイローランド」誕生の秘密(1/4 ページ)
コンテンツへの深い理解と愛情。
EXILE、三代目J Soul Brothersなどを擁するプロダクション、LDH。このLDHが手掛ける複合型のエンターテインメントが『HiGH&LOW』(以下ハイロー)です。
ドラマシリーズ、映画、ライブ、SNSなどさまざまな媒体で展開される、SWORD地区というエリアに集まった各勢力の戦いをド派手に描いたストーリーは、従来のLDHのファンだけではなく各方面のオタクも巻き込み、8月19日から公開されている映画『HiGH&LOW THE MOVIE 2 END OF SKY』も大ヒット。一部ですさまじい盛り上がりを見せています。
そんな中、ハイローの世界を追体験できる“最強の夏祭り”としてよみうりランドで9月10日まで開催されているのが「HiGH&LOW THE LAND」と「HiGH&LOW THE MUSEUM」。ファンの間でまとめてハイローランドとも呼ばれているこのイベントは、撮影用セットや小道具の展示、コラボメニューや大型ステージでのライブなどで、来場者をハイローの世界に首までつからせてくれるイベントでした。
この手のイベント、衣装とかがちょろっと展示されてる程度のしょっぱいものも少なからず存在しますが、このハイローランドはすさまじい物量と世界観の再現度の高さで観客を圧倒。細かい部分まで神経が行き届いた作り込みと、ハイロー世界への解釈の精密さでうるさいオタクを黙らせる、驚異的なクオリティのイベントだったのです。
この展示を作り上げたのが、テレビの撮影用セットやイベント用の美術の企画・設計・デザインを幅広く手掛ける、株式会社フジアールの別所晃吉さん。ハイローランドが完成するまで舞台裏では一体何が起こっていたのかを、別所さんに根掘り葉掘りお聞きしました。そこにはベテランのデザイナーならではのさまざまな創意工夫と、ハイローというコンテンツへの愛が詰まっていたのです。
準備期間は1カ月半! 突貫工事のハイローランド
――そもそも、フジアールさんはどういう会社なんですか?
うちはテレビの撮影用セットとイベントの設営の二本立てで仕事してます。もともとはテレビの仕事からスタートした会社で、それ以外でも、映画、コマーシャル、舞台、プロモーションビデオ、内装など、空間的なものならなんでもやります。今回の企画は、以前関わったイベントのつながりでお話をいただきました。
――仕事で関わる以前からハイローというコンテンツはご存じでしたか?
テレビや映画の仕事をしているので存在は知っていました。個人的な趣味としてハーレーのカスタムが大好きなんで、興味はあったんです。雨宮兄弟のバイクを作ったのも知り合いで、だからTHE MUSEUMで雨宮兄弟のバイクだけ実車が展示してあったりするのも趣味の延長でセレクトさせてもらいました(笑)。
――雨宮兄弟のバイクだけ実物が展示できたのはそういう理由だったんですね……。
そういうわけで、関心はあったけどあくまで興味程度、という。この仕事の前にあらためてちゃんと見ました。ドラマの1話を見たら「やばいな……これずっとプロモーションビデオみたいじゃん……」と思ったんですけど、そのあと続きを見ていったら「あ、面白いぞこれ」となって(笑)。最終的にはハマっちゃって、若いデザイナーとかも「面白いっすね……」って。うちの方では自分を含めたデザイナー5人でチームを作ったんですけど、5人のうち4人はバイク乗りでカスタムとかが大好きっていう連中だったんで、そういう意味で完全に仕事だっていう範疇(はんちゅう)を飛び越えてイベントにも愛情を込められたと思います。
――スケジュール的な部分をお聞きしたいんですが、ハイローランドの仕事はいつ頃から始めたんですか?
自分たちのところに話が来たのがそもそも3月の中旬くらい。そこから慌ててコンセプトボードを作って、1週間でまず第一案を出しました。その後で予算や運営プランの調整だとかで、2週間くらいなにもしていない時間があるんですよ。で、実際のよみうりランドでの施工に入ったのは5月23日からで、完成が6月頭ですね。会場内に取り付けるセットは施工に入る1週間前、5月14日くらいに発注してます。だからこの14日の前には全体の設計が固まっていないとダメ。具体的にはコンセプトが固まった4月頭から1カ月半くらいで会場内の全要素を固めきるっていう感じです。
――すごいスケジュールですね……。
まあ、でも毎回こんなもんですよ(笑)。長い時間を取ればいいかというとそういうものでもないので。ゴールが近い所にあった分だけ任せてもらえる部分も多かったんで、効率の面などの意味でもよかったところはあります。
――最初に決めたコンセプトはどのようなものだったんでしょうか。
『HiGH&LOW』世界のどこを抽出しようか悩んだんですが、基本的なコンセプトとして「ダン、テッツ、チハルの、DTCの3人が山王街で開いた夏祭り」を作ってしまおうというのをまず決定しました。決めるにあたって映画のスタッフからたくさん話は聞いたんですけど、自分たちが考えていたことと大体同じようなことでした。同じ職種だと考えることも似ちゃうんですかね(笑)。とはいえ、あんな廃墟のようなハイローの世界をよみうりランドのグリーンで平和な世界に持っていくのは「どうしよう……」という感じでした。
そこで最初に考えたのが、いわゆるイベント然とした展示ではなくて、「あの場を借りてキャラクターたちが自分たちで作った夏祭り」ならイメージとロケーションにハマるだろうと。で、THE LANDの入り口のところに赤い山門があったじゃないですか。あれはもともとよみうりランドにあったものなんですよ。
――そうだったんですか!
あの山門はイベントプロデューサーの方も一押し(笑)だったんで、それなら「山王街と達磨一家がコラボレーションした祭り」ということにしようと。「祭りの仕切り」といったら達磨だろうし、スタッフみんなで、これじゃん! という感じで。このコンセプトをどう表現しようかっていうことでデザインを立ち上げていったんです。
――そこから具体的な作業に入るわけですね。
デザイン的な大もとは自分がロケハンに行った後にペロッと描いたスケッチです。ステージの後ろと横に立っている鉄塔も、もともとあそこにあったものなんですよ。あれもハイローの世界観の中でもろにビンゴな形をしていたんで「じゃあステージはここにしましょう!」と。それで現場で「鉄塔から世界が広がっていく形にしよう」と決めて、そこからデザインをスタートしたんです。時間がなかったんで、スケッチをバーッと描いてそれに若いデザイナーたちが肉付けをしていく感じでした。最初のプランニング案の絵も、自分のスケッチを基に写真素材を貼りこんで作ったものです。みんなバイク好きだから絵の中にバイクが増えちゃって、「バイク多くね?」とか言いつつ(笑)。
――バイクが多いのはコンテンツ的に大正解ですよ! しかし、すごい枚数のスケッチですね……。これだけで書籍ができそう。
これは全体のごく一部です。こういうスケッチをバリバリ描いて、他のデザイナーに「はい次! はい次!」って手渡してっていう。最初の打ち合わせからプランの提出までって1週間くらいしかなかったんですよ。だからみんなで一斉にやらないと間に合わなかった。
苦肉の策で、ゲートの花びらをなんとかせよ!
――スケジュール表にはLANDとMUSEUMのほかにゲートの工事というのが別枠でありますけど、あそこも作業のボリュームはけっこうあったということですね。
ゲートは園内でお客さんがいるところなんで、なるべくコンパクトに作業しなくちゃいけないんですよね。ゲート部分は遊園地の中なんで、ちっちゃい子どもとかも歩くじゃないですか。そこであんまり汚しこんだ雰囲気になっちゃうとお化け屋敷みたいに見えちゃう。ただでさえゴミクズみたいなものを寄せ集めているので(笑)。なので、入り口はアミューズメント感を出そうと。と言いつつデザイン的にはバイクのスプロケットをベースにしたりとか、ホイールを配置したりしてるんですけど。
――この入り口のところに楕円形の湾曲した板があったんですけど、あれはなんですか?
このゲート部分はもともとよみうりランドにあったもので、花みたいな形のエントランスなんです。普段はネットが上に張ってあって、板自体の色ももともとは赤で、花びら状の装飾になってたんですね。これが入り口か……どうしよう……って悩んだんですけど、錆びた模様を出力したシートを一枚ずつ貼って、そこに各チームのマークを貼ることでそれっぽく見せようということにしました。
――あの板だけは妙に違和感のある形だなと思ってたんですけど、今謎が解けました……。
で、入り口のところにはDTCの三人が「俺らがやったんだぜ!」ってことで「ちょっと目立とうぜ」ってことで自分たちの写真に「WANTED」って入れてウェルカムボードよろしく貼ってるっていう。そこで「これは俺らの祭りなんだぞ」っていうのを印象付けたいなと。
――本当にいちいち全部設定があるんですねえ!
こういう作業は自分たちも楽しいんで。本当にファン目線と同じところで作業してる感じですね。
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