漫画家の作画テクニックを伝授するコーナー「漫画家直伝イラストテクニック」。第一回は漫画『折れた竜骨(原作:米澤 穂信)』や『アルマディアノス英雄伝(原作:高見粱川)』を連載中の漫画家、佐藤夕子(@makaidaibouken4)先生に、誰にでも描ける“リアルな山の描き方”を聞きました。
第一回:「リアルな山」
今回紹介するのはファンタジー漫画などでよく見る連峰状の山の描き方。ガチの登山装備で登らないと大変なことになるタイプの山です。早速佐藤先生に描き方の手順とポイントを聞いていきましょう。
STEP1:シルエットを描く
用意するものは紙、鉛筆、ペン(漫画用ペン・ボールペンなど)です。まずは鉛筆で描きたい山の形をざっくりと紙に下書きします。「山の形」と一言でいっても、円すい形の富士山、なだらかな山容の恵那山、2つのピークが存在する双耳峰の天狗岳などさまざまな形状が存在します。今回は槍ヶ岳のような鋭くとがったものを描いてみます。
山の形が決まったら左右を二分するように中心にジグザグを描き入れます。今回はジグザグを境目にして左側を日が当たる面、右側を影になる面として進めていきます。
STEP2:目安を入れる
次に山全体に“目安”を入れていきます。目安とは山の斜面の流れの向きをイメージするためのもので、山の尾根や谷にかけて放射状に描いていくことがポイントです。線の間隔は均一でもバラバラでも構いません。
目安そのものを斜面の角度の参考にしても構いませんし、目安を参考にブロック分けをして考えたり、目安を山肌のボコボコしている部分の基点にすると、完成形のイメージがしやすくなります。
STEP3:ペン入れ(影入れ)
山の輪郭を描くのは最後にして、まずは中の影からペン入れしていきます。ペン入れとは下書きを元にインクや墨汁、ペンなどで本番の線を描き入れること。今回は山や岩の影もペン入れのタイミングで入れていきますが、このとき「影がどこにどうできるか」を考えながらペン入れを進めるようにしましょう。
山には緑の濃い部分、日照したり岩肌が見えている部分、日差しで影になる部分が存在します。これらをモノクロで表現しようとすると、白=日照部分、薄い黒=森や木々などの緑地、濃い黒=岩などの陰影という風になります。では“薄い黒”と“濃い黒”はどのように表現するのでしょうか。ここで使うのが「カケアミ」と呼ばれるテクニックです。
「カケアミ」は陰影を付けるための技術で、交差させない1本線の束を等間隔に引く「1カケ」、2本線を直交させるように等間隔に重ねていく「2カケ」、2カケにもう1本線を重ねる「3カケ」など重ねる線の数によって呼び名が変わります。
基本的には緑地を2カケ、濃い影や岩を3カケで表現していきますが、ここでポイント。一般的に水平垂直に線を交わらせると知られている2カケですが、今回はあえて交わる線の角度を傾けすぎない形にします。通常の2カケによって生まれる白が正方形なら、今回はひし形を作っていくイメージです。こうすることにより、規則的でありながらも、整いすぎない自然な影が生まれます。3かけも同様に任意の角度で線を引いていきますが、いずれも「線は等間隔に引く」ことを忘れないようにしましょう。
また木々の表現として、影のグラデーションを付けるとリアリティーが増すので、1カケ、2カケ、3カケを効果的に使い分けて濃淡を付けてみましょう。
さらに曲線でアミをかけていくと山肌のボコボコした感じが表現できるので、自然な仕上がりになります。斜面の角度に沿うようにまずは影が濃くなる部分から描きこんでいき、続いて薄い影も入れていきます。目安を参考に「このあたりは緑が多いエリア」「ここは日照が多いエリア」と決めると入れやすいと思います。
STEP4:消しゴムをかけて完成
最後に山の輪郭を描き込み、原稿のインクが乾いたことを確認してから全体に消しゴムをかけて完成です。白い紙に立派な山がそびえ立ちました!
編集部でも描いてみた
「このテクニックは『時短』『正確に描く』といったものではありませんが、面白いなと感じてもらえたり、実際に描いてみてもらえるとうれしいです」と佐藤先生。
佐藤先生はプロの漫画家なのでサラサラッと山を描くことができましたが、私たちが知りたいのは、“このテクニックは素人でも使えるのか”。ということで、編集部でも描いてみました。
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