教師×作家×家事の“三足のわらじ” ネット小説大賞受賞作家はなぜ兼業の道を選んだのか(2/2 ページ)
デビューから気になる印税まで、兼業作家のリアルな生活について聞いてみました。
印税はがっぽりもらえる?
――すごくいやらしい質問なのですが、作家さんといえば印税はがっぽりもらえるイメージがあります。実際のところはどうなんでしょうか。
文野:まず「印税」という言葉の夢を捨てていただきたいのですが(笑)。私の場合、発行部数が千冊単位で重版もあんまりないので本当に大したことないですよ。主婦のパートタイマーの方が稼いでいるのではないでしょうか。契約にもよりますが、基本的に「すごい印税だ!」となるのは数万冊単位の重版がかかってからだと思います。
――そういえば、公務員は副業が禁止されていると聞いたことがあります。
文野:私の場合、もともとネット上で無料で読めていたものが、たまたま賞をもらっただけだったので、当初はそれが副収入になるという意識がありませんでした。また歌人の俵万智さんも元は高校の教員でしたし、吉村萬壱さんのように教員を続けながら芥川賞を受賞した作家もいたことから、公務員の副業は制限されるものの、“禁止”とまでは思っていませんでした。あくまでも本業をおろそかにしなければ大丈夫なのかなと。しかし黙っているのも良くないと思い、上司に報告したところ、教育委員会への説明を経て正式に兼業することの認可をもらいました(※)。
(※)編集部注:教育委員会に取材したところ、該当教員から学校長に申し出があった場合、学校長から教育委員会に「認可を出して差し支えがないか」の問い合わせをすることとなっており、「差し支えなし」と判断された場合には学校長の最終判断により該当教員に対して副業の認可が下りるとのこと。
――職場や家族は協力的ですか。
文野:普段の仕事(教職)は熱心にする方なので、同僚からは割と理解されています。家人はあんまり関心がありませんが、それでいいと思っています。
――教員の経験がいきている作品もあるのでしょうか。
文野:小学校教師を主人公にした『あの日茜色の君に恋をした。』(2018年2月21日発売)は学校を舞台にした作品なので、これまでの経験がとても役に立ちましたね。
――文野さんの場合、ネットで発表していた作品が書籍化になるというものが多いと思うのですが、はじめて作品の出版が決まったときはどんな気持ちでしたか。
文野:本になるということは、「手に取れる重さが感じられる」ということなので、そこが一番うれしかったです。私の作品のイメージでイラストレーターさんが表紙やイラストを描いてくださり、プロのデザイナーさんが装丁をしてくださって、ロゴができて――と夢のようでした。
――ご自身の作品で思い入れのあるものはどれでしょうか。
文野:しいて選ぶとすれば『ノヴァゼムーリャの領主』です。身分差、年の差、隠された姫君、軍人、戦争、別離、再会、王宮の陰謀など、自分の好きな要素を全て盛り込んだ作品で、第4回ネット小説大賞(旧:なろうコン)の大賞を受賞したと知ったときには通勤バスの中で変な声が出てしまうぐらいうれしかったです(※)。
(※)第4回ネット小説大賞では7612作中46作品が賞を受賞している。『ノヴァゼムーリャの領主』はその中の大賞受賞作。
――『ノヴァゼムーリャの領主』は2016年にポニーキャニオンの書籍レーベル「ぽにきゃんBOOKS」から書籍化もされましたね。受賞から出版化まではどのような流れだったのでしょうか。
文野:書籍化が決まってからは、まず編集担当者から助言を受けた部分について時間を掛けて修正していきました。そしてその修正を元にエピソードの順番を変えたり、さらに細かい修正を加えたりということを繰り返して初稿、2稿、最終稿と仕上げていきました。
――出版社の編集担当者からはどんな要望が多いのでしょうか。
文野:レーベルのイメージを大きく逸脱する内容は基本的にNGなので、どの出版社からもそのレーベルに沿った内容(雰囲気)にしてほしいと言われます。このほかにもライトノベルの場合は、あまり難しい言葉や古い言い回しは避けてほしい。文芸作品の場合には“中二的描写”はよくない。といった要望もありますね。『ノヴァゼムーリャの領主』に関しては、編集担当者から細かい指定が少なかったので、自由にやらせていただきました。
――文野さんの方から「こうしたい」という要望したところはありますか。
文野:表紙の絵をイラストレーターのヘビチヨさんにお願いしたいと言いました。ラノベ風の絵柄にはしたくなかったので、繊細な描写力と確かなデッサン力で以前から大好きだったヘビチヨさんに描いていただけてうれしかったです。
――最後に今後の展望について聞かせてください。
文野:取りあえず今取り組んでいる作品を出版することが直近の目標です。また長編の『ノヴァゼムーリャの領主』は現在発売中の1巻だけでは伏線をほとんど回収できていないので、完結まで刊行したいですね。ぜひ応援していただければと思います。
取材と時期を同じくしてアルファポリスで連載していた人気作『閣下、この恋はお仕事ですか?(旧題:閣下、この婚約はお仕事です!)』が2月1日にの出版が決まり、現在発売中の文野さん。自身の描く世界を楽しんでくれるファンの声を支えに、兼業作家としての多忙な日々に確かなやりがいを感じているようです。
(Kikka)
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