サラブレッドの血をつなぐ種牡馬(しゅぼば)。牝馬(ひんば:以下、メス馬)との種付け(性交)で優秀な子どもを作るのが仕事です。それはある意味、男としては究極の憧れの職業。
名騎手・武豊も、ある競馬番組で「もし競走馬になれるとしたら、どの馬になりたい?」と聞かれ、こう答えました。「種牡馬になりたい」と。
童貞を捨てられるオス馬は、わずか1%だけ
人も馬も、男なら誰しも「モテたい」もの。しかし人間とは違い、種牡馬はメス馬とともに「生産者」にもモテなくてはいけません。それはつまり「優秀な子どもが残せるか」という価値基準で判断されます。
しかしモテモテで毎年200頭に種付けできるような種牡馬もいれば、メス馬と年に1頭も種付けできず、廃用となり食肉として処分される種牡馬までいます。
そもそも種牡馬になるのも、激しい競争に勝つことが必要です。日本でサラブレッドは年間約7000頭が生まれ、そのうち3600頭ほどがオス。そのうち「良い子を残せそう」と種牡馬になれるのは30頭前後といわれ、単純計算で約99%のオス馬が童貞のまま一生を終えます。
ちなみに2013年の相模ゴムのアンケートによると、人間60代男性の童貞率はわずか0.5%。人間と馬には実に約200倍の格差があるのです。
オトコにとって永遠の憧れの職業であり、その一方で悲喜こもごもが交錯する「種牡馬」という生き方。そこには、競走馬の生産現場ならではの込み入ったオトコ模様が見えました。
オンナを抱いて2億4000万円! 史上最強の種牡馬・ノーザンダンサー
今に至るまで世界史上最高の種付け料を誇るという、1961年カナダ生まれのノーザンダンサー。1歳の夏に当時のレート換算で900万円にて売りに出されましたが、買い手がつかずに生産者にそのまま引き取られました。
しかし翌年デビューした途端、カナダで5勝、アメリカに渡って2勝。3歳時にはケンタッキーダービー、プリークネスSというアメリカの3冠レースのうち2つを制覇し、夢の種牡馬入り。
初年度の種付け料は1万ドル(約360万円)でしたが、英三冠馬ニジンスキーや英愛ダービー馬のザミンストレルらのスーパースターを輩出したことで、1985年には95万ドル(約2億4130万円)にまで達しました。
まさかの2億超え。一見もとが取れなそうですが、当時のノーザンダンサーの子どもは競りの平均売却価格で、151万5053ドル(約3億8482万円、1歳時)。この価格でも引く手あまただったそうです。
そんなノーザンダンサーの血は、今も世界中の名馬たちに色濃く受け継がれています。
ですがこの2億4000万円オトコは、現役時代は調教師に「気性が悪いから去勢した方が良い」といわれていたそうです。あのときタマを取っていたら……競走馬の進歩はもう少し遅かったのかも知れません。
ちなみにあのディープインパクトの2018年種付け料は4000万円で、これは額が公開されている中では2018年現在世界一。それに引き換え、G1高松宮記念勝ち馬のマサラッキやナリタブライアンを破ったG2三勝馬のスターマンらは、種付け料が0円。それでも、配合相手を満足に集めることはできませんでした。モテと非モテの間には、今日も冷たい雨が降る。
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