「冨樫との付き合い方がわかった」「好きなキャラは山王の松本」 般若×R-指定×背川昇のフリースタイル漫画談義(2/3 ページ)
百合ラップ漫画『キャッチャー・イン・ザ・ライム』を世に送り出した3人が漫画とMCバトルについて語った。
DOTAMAは何がすごいのか
――『キャッチャー・イン・ザ・ライム』の主人公・皐月はMCバトルを通じて成長していきますが、お二人がもっとも「このバトルで人生が変わった!」と思う一戦はどれですか。
般若:人生変わった……人生変わった……そこか〜〜。バトルではそんなにないんだよなぁ……。音源だと「根こそぎ」で流れが変わったな、という体感はありました。
R-指定:僕は……UMBで2012年に初めて優勝する前、2011年のDOTAMAさんに負けたときですかね。2014年の3連覇は「走りきった」という感覚で、変わったって感じじゃないんです。2011年のあのバトルをきっかけに今までの自分の照れやかっこつけを自覚して、「本気で命かけるってどういうことなんだろうな」と1年間通してラップに対する取り組み方を考え直しました。
般若:それ言うと、俺もDOTAMAと当たんなかったら多分2008年のUMBで優勝してなかったと思う。
R-指定:UMB2008東京予選のDVD見たんですけど、あそこでDOTAMAさんもバコンって「入り」ましたよね。
【UMB2008東京予選】般若と激突したDOTAMAが「『根こそぎ』以来いいアルバム出してない」「最近ラップがSEEDAに似てきた」などのディスを浴びせた。般若はそれをほぼスルーしてアンサーし撃破した。
――DOTAMAさんのどこがインパクトだったんですか。
R-指定:やっぱめちゃくちゃ言ってくるところじゃないですか? 世間から投げかけられるディスや自分自身気にしている部分のような、自分が向き合って行かなあかんマイナス評価を全部的確にぶつけてきてくれる人です。
般若:DOTAMAは「役者」じゃん。表と裏のモードが全然違うから強い。どうしても切り替えができずに「人」として普通にステージ出ちゃうラッパーの方が多いのに……あいつおかしいよ(笑)。
R-指定:そうなんですよ、DOTAMAさんはステージ上がった瞬間に冷酷になれるし、それをエンターテインメントとして遂行できるのがすごいんです。
――フリースタイルダンジョンになってからのDOTAMAさんとのバトルはどうですか。
R-指定:最初にチャレンジャーとして来た回はさすがにモンスター全員で構えて「ホンマに刺し違える覚悟で行かないと」と思いましたね。それ以降のDOTAMAさんとの戦いはお互いエキシビションの側面がありますね。その2、3年前に本気で獲り合ってた相手なんで。
※般若の最新アルバム「話半分」は2018年4月1日発売
因縁がないと言うことがない
――背川先生はフリースタイルダンジョンのファンとのことですが、どのバトルが一番印象に残っていますか。
背川:R-指定さんと呂布カルマさんの戦いですね。それまで的確なディスでバンバン行ってた呂布さんをさらに上からねじ伏せたのがかっこよかったです。呂布カルマさんの去り際とかもかっこよかったし……。
【呂布カルマの去り際】フリースタイルダンジョン3rd season Rec5に登場し、途中まで無双状態だった呂布カルマ。しかし、R-指定に対しては「やっぱコイツ強ぇわ もうダメだ 強い」とバトル中に負けを認めた。漢a.k.a.GAMIはこれを「切腹スタイル」として褒めた。
R-指定:あれはね、呂布カルマさんが刃牙を読んでるからなんですよ(笑)。あの人はちゃんと負け方を考えてたんです。だから「勝った」と思った一方で「やられた」とも思いましたね。あのバトルは自分の人生の中でも「絶対負けたらあかんやろ」と、むしろ晋平太さんのときより肩に力が入りました。
般若:晋平太戦は俺らに筋なかったからね。
R-指定:MCバトルは対戦する相手に因縁やストーリーがあればあるほどいい試合になるので、晋平太さんのときは上野さんと漢さんで話は終わってたんですよ。自分は何も嫌な思いしてないから、直前に般若さんと「言うことないっすね〜〜!」って言い合ってました。DOTAMAさんのときはあっちはこっちに確実に恨みを持ってて殺しにくる、こっちは止めなあかん、みたいなストーリーがちゃんとありました。呂布カルマさんとは過去に対戦して勝っているんですけど、評価の分かれる判定勝ちだったのでちゃんと勝ち切らないとあかんかったんです。表現する方法も呂布さんと僕では真逆やから、そこでも因縁があっていい試合になったんですけど……そういうストーリーが何もないときついんですよ。自分があっちに対して何の感情も湧いてない状態だと、やっぱり言うことがないんですよね。
般若:俺も他のラッパーについて知り始めたのはここ最近なんだよ。別に知る必要ねえしさ。
HIPHOPシーンと女性
――『キャッチャー・イン・ザ・ライム』は生きづらさを抱えた女の子がラップで外の世界へ踏み出していくストーリーですが、今のHIPHOPシーンは女性の生きづらさに寄り添える状況ではないように見えます。
般若:それは単純に、女性のラッパーがもう少し前に出ればいいんじゃないかなと思います。世の中にはもっと知らない女性のラッパーがいるんじゃないかなって僕は信じてるし。増えてはいるけど、なかなか突き抜けるのが難しいのかな……。
R-指定:そうですね。アイドル方面やサブカルチャー・おしゃれ方向に振り切った子やったらラップしてる女の子はおるんですけど、ちゃんとHIPHOPとしてラップしてるかっこいい女性は、今のところ上の世代でしか思いつかないです。椿さんとか、何人かは面白そうな人が出てきてるんですけど。
般若:女性のラッパー、必要なんじゃないですか。間口の広い人もたくさん出てきてほしいよね。
R-指定:そう、すげえ女性ラッパーが出てきてその前に立たされたら、僕ら何も言えないですから。
――それは何で言えないんですか?
R-指定:これは持論なんですけど、多分どんなラッパーも、奥さんや彼女に口喧嘩で勝ったことないと思うんですよ。どれだけバトルで勝っててどれだけすごい曲出しててどれだけすごいライブやってても、奥さんや彼女の一言で謝っちゃう人ばっかりなので……やっぱ女性の方が強いんじゃないですか。
――背川先生はいかがですか。
背川:女性MCがバトルシーンに出れば必ず容姿や性的な部分でイジられたり、女性側も「男勝りの自分」を武器にしたりしていて、結局男性中心の古い社会ができているという印象があります。これからフィメールラッパーが当たり前に活躍して、その中でもさまざまな個性や武器を持った人が現れて、男性MCと対等に戦えるようになっていったらいいなと思っています(了)。
出張掲載:『キャッチャー・イン・ザ・ライム』部長争奪ラップバトル大会での一幕
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