「どんな基準で黒とするのか」「責任は誰が」 海賊版サイト広告が停止しなかった理由を広告業界団体に聞いた(2/2 ページ)
日本インタラクティブ広告協会(JIAA)とコンテンツ海外流通促進機構(CODA)に聞きました。
CODAはどうやってブラックリストを作ったのか
JIAAに続き、CODA側にも話を聞きました。
――海賊版サイトの広告問題を把握したのはいつごろのことでしょうか。
CODA:2012年、YouTubeが投稿動画に広告収入を得るサービスを個人に公開したころより違法アップロードに広告を付ける問題が一般化したように思います。
――これまで海賊版サイトに対してどのような対策を行ってきたのでしょうか。
CODA:次のような対応を取ってきました。
- 自動コンテンツ監視・削除センターを通じた継続的な削除要請の実施
- 諸外国政府・取り締まり機関を通じた行政・刑事手続きなどの権利行使
- 直接的な侵害対策のほか、広告業界への広告掲載の停止要請と検索事業者への侵害サイトの結果表示抑止の要請、セキュリティ関連企業と協力した注意喚起メッセージの表示などの間接的な対策
- 一般消費者に対する広報啓発
――いろいろと対応を取られているんですね。海賊版サイト撲滅に向けた障害や課題はどのようなところにあるのでしょうか。
CODA:海賊版サイトは、国境や言語の壁を越えて瞬時に拡散されますが、その侵害に対して取るべき対策は国や地域によって異なります。また近年では、海賊版サイトの匿名運営を保証するサービスも登場するなど、侵害行為者に対する直接的な対策は困難を極めます。そこでCODAは、広告業界や検索サービス事業者、セキュリティ関連企業などに協力いただき、「間接的な」侵害対策にも力を入れていますが、費用と時間、そして労力を要するものです。
CODAでは、日本コンテンツの海外、特に東アジアを中心とした正規流通の阻害要因となっている海賊版問題を喫緊の課題として捉え、情報の収集分析、産業界における情報の共有および効果的な解決策の検討、解決策の1つである共同エンフォースメントなどを、主な事業として実施しています。
――問題のあるサイトなどのリストをJIAAに渡すことになったと聞いていますが、具体的にはどのようなリストなのでしょうか。
CODA:CODAを含む著作権関連団体9団体が、著作権者からの削除要請にも応じない悪質な侵害サイトをリスト化しているものです。
――サイトの違法性についてはどのように判断しているのでしょうか。
CODA:CODAのリストについては、基本的には日常的に行っている削除センター等を通じた削除要請業務の中で、削除に応じない悪質なサイトなどを対象としています。また、権利者から削除要請に応じない旨の情報提供があったサイトで、かつ悪質なサイトも含めております。
――リストの運用に至るまでには少し時間を要したという意見もあります。
CODA:どのような情報が必要かという項目のリストアップなどの協議に時間を要しました。今後、運用の中で問題が生じた場合は、コンテンツ業界と広告業界で協力し解決していきたいと考えています。
――海賊版サイトを監視するチームの規模や予算はどの程度なのでしょうか。
CODA:大変申し訳ありませんが、公表しておりません。
――「漫画村」「Anitube」「MioMio」の各運営者を把握していますか。
CODA:「Anitube」につきましては、運営者に対し、権利者が告訴(ブラジル・ウベルランジア警察)を行っており、被疑者宅の捜索、刑事裁判所に起訴も行われているため、把握しております(ただし、現在は逃亡中と聞いております)。「MioMio」については、運営者に対し、権利者が行政投訴(中国・国家版権局)を行っており、国家版権局は運営者を特定しております。現在、国家版権局に対して運営者の情報をCODAにも開示するよう要請しています。
――「漫画村」については、警察の捜査が進められていたため、あえて対策を講じずに推移を見守っていたという情報があります。これは本当でしょうか。
CODA:漫画村の対策については、出版社へお尋ねください。申し訳ありません。ただし、一般論として、証拠の保全や隠滅の可能性を考慮して一つの有効な対策のために他の対策を留保するということはよくあることだと思います。
――出稿していた代理店の責任についてどう考えていますか。
CODA:もし、海賊版サイトと知って広告出稿を行っていたのだとすれば、侵害行為を助長しているともいえる大変悪質な行為であると考えます。が、他方で広告の審査の際には海賊版コンテンツを掲載せず、審査通過後に掲載するようなサイトもあり、難しい問題であると考えますし、今後は、コンテンツ業界と広告業界が連携することによって、このような事情を「知らなかった」ということをなくし、オンライン広告の健全化を図るために尽力していきたいと思います。
――海賊版サイトについてどのように考えていますか。
CODA:日本は、映画、アニメ、音楽、放送番組、ゲーム、漫画など、世界に誇るコンテンツを持っており、2002年には「知的財産立国」を宣言するなど、その力には大きな期待が寄せられています。
コンテンツは、クリエイターや制作会社の大変な努力や製作費をもとに生み出されるものであり、その成果をすべて奪う海賊版サイトは決して許されるものではありません。
CODAは、コンテンツを楽しむ皆さんに対して、無料だからといった安易な発想で海賊版サイトを視聴することによって、結果的に犯罪者の資金稼ぎに手助けしてしまうこと、そしてコンピュータウィルスやマルウェアなどに感染する危険も存在することなど、十二分に理解してほしいと思います。これら海賊版サイトを撲滅し、コンテンツ制作により生み出された成果が本来得るべき人たちのもとへ還元されるよう努力をして参ります。
JIAAによると、こうした対策が後手にまわりがちな原因の1つとして「アドテクノロジーの複雑化」があるといいます。
ごく初期のインターネット広告は、「ここのバナー欄を1月いくらで売ります」のような形で、サイト側が広告主と直接やりとりをして広告スペースを販売するシンプルな形でした。しかし現在の広告バナーは(ざっくりと言えば)「アドネットワーク」「アドエクスチェンジ」という仕組みにより、広告主側は特定のサイトを指定しなくても「この金額でこれだけ効果を出したい」と言えば、アドネットワーク上に無数に存在するバナーの中から、金額や要望に応じてもっとも効率のよいサイトに自動で入札し、瞬時にバナーを掲出してくれる仕組みになっています。
この「アドネットワーク」「アドエクスチェンジ」の登場は大きな革命で、これにより広告の取引量は圧倒的に増えました。しかしデメリットとして、管理するサイトやバナーが増えすぎ、広告代理店すら自分が管理するサイトが違法であるかどうかを把握しきれず、今回のように「知らない間に海賊版サイトに広告が出てしまっていた」といった問題も引き起こすことになりました。インターネット広告が違法サービスの資金源になってしまっており、なおかつそれを容易に排除することができない背景には、単に代理店のモラル問題だけでなく、こうした技術面の問題もあるといいます。
しかし、だからといってそれが「知らなかったし、どうしようもなかったから仕方ない」という免責の理由にはなりません。海賊版サイトによって著作権者や権利者が苦しんでいる一方で、運営者、広告代理店、そしてそこに出稿する一部の企業などが結果的に利益を得ているのは紛れもない事実であり、自主的な規制だけでは効力が弱く、限界があるようにも感じられます。一刻も早い抜本的な対策が望まれます。
(Kikka/池谷勇人)
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