趣味人には好きなものがたくさんある。それが足を引っ張ることもあれば、趣味人だから人とつながるものもある。
「ヲタクに恋は難しい」は、好きなものがある人間たちの、恋なのかなんなのかわからないモヤっとした感情を描いたラブコメディ。ヲタクのみならず、いろんな若い人の背中を押してくれます。
ぼくらがとっても苦手だったもの
会社で仕事中のこと。普段超絶優良社員だった二藤宏嵩が、突如ヘッドフォンをして仕事をしはじめました。ご乱心!?
実は彼、雷が大の苦手。外が雷雨のため、おっかなくなっちゃってヘッドフォンをかけていた……という完璧マン宏嵩らしくない、かわいらしい理由でした。これには上司の樺倉太郎をはじめみんな、仕方ないねと許すしかない。
それでもやはり雷が鳴るとパニックになってしまう宏嵩。喫煙室でSANチェック(正気かどうかを確認するチェック。クトゥルフTRPGネタです)、気持ちを落ち着けることにしました。
さすがに怖いっていってもねえ、大人だしねえ、と思うものですが、桃瀬成海は気が気じゃない。普段宏嵩の動向はそこまで気にしない彼女も、今回ばかりは彼を追って、喫煙室のガラスの向こうから、SNSで宏嵩に話しかけます。
彼女が語りかけてきたのは「大丈夫?」とかではない。宏嵩に休憩についてきつく指摘しながら、ぽろり。「ていうか私だって怖いんだけど カミナリ こんなガラス越しじゃ 全然安心できないんだけど」
彼の脳裏をよぎったのは、小学校時代の自分と成海。そばにいて、それだけで安心していた頃の話。
お見舞いに来た成海なんだけど、カミナリが怖くて言ってることがしっちゃかめっちゃか。ただ、宏嵩の顔を見て、幼い時の成海は言います。「…あれ? でもなんか 怖いのどっかいっちゃった!」
これが成海の、宏嵩に対する距離感です。とてもマイペースで、けれどものすごく相手のことも心配して。感情の起伏が激しくて、気がつけば一緒に笑って。
そんな彼女が宏嵩は好きだった。喫煙室に来てくれたのも、子供の時と同じ成海だということに、宏嵩は気づきます。「かなわないなぁ……」って言葉も、そりゃ漏れますわな。
成海はもともと天然でジゴロな部分がありますが(樺倉ですらかわいいと、今もこっそり思っているほど……!)、宏嵩に対しての心の開き方はやっぱり特別。たぶん今回の行動も、順序立てて考えた作戦とかではないでしょう。もっと反射的に、あまり深く考えずとった行動。宏嵩と成海の距離感は、考えるものではなく、お互い自然にできるもの。だからこそ、そばに来てくれた成海のこと、宏嵩は本当にうれしかったはず。ほんといい幼馴染に恵まれたね、宏嵩。
だから残業してる彼女置いてさっさと一人で帰るんじゃないよ! そこまでは気が回らないかこの男……。
「普通」の恋人同士
宏嵩には普段から悩みが1つあります。
「恋人」らしくするにはどうすればいいか。
ヲタクかどうかに限らない問題、直面した人は多いのでは。似たようなものとして「友達らしくするにはどうすればいいか」も大きな問題。「らしく」ってなんだろう。
いくら双方が「これでいいんじゃない?」と言っても、やっぱり相手に喜んでもらいたいというのが人情。特に人間関係が希薄だった宏嵩は、成海と2人でいるときにどうすればいいか、わかりません。
はい、先輩の意見を聞いてみましょう。樺倉太郎さん小柳花子さん、どうぞ。
「二人きりのときどんなカンジなんですか?」
これは聞かれたら恥ずかしい……なんて答えればいいんだ。宏嵩はこういうところがある。冷やかしとか抜きの、直球です。真剣です。
恋人関係で分かりやすいところといえば、一緒に過ごす休日。小柳は、先週外出しようと言ったのに樺倉が渋っていたことにキレてしまいました(小柳はちょっと嫉妬が強くて語調が荒くて、時々自信のない女子です)。それを引き止めた樺倉、彼女の腕を握って、来週日曜日に埋め合わせすることを約束します。
宏嵩目線で見ていたら、この痴話ゲンカ、魅力的でしょう。自分たちはこういうのをしたことがない。ときめいてドキドキとかない。
2人はヲタとかを抜きにした次元で、双方の面倒くさい(デリカシーのない樺倉、イライラしがちな小柳)ところをむき出しにして、受け止めあっている仲です。恋人としていろいろ乗り越えてそうなのが丸見えです。
一方、ヲタバレしなくていいから気楽だよね、がスタートで、幼馴染の距離感が抜けていない宏嵩と成海の関係は、全く違う。自分たちは恋人といえるんだろうか、腐れ縁なんじゃないか。
彼が悩みに悩んだ結果導き出した行動は、成海とデートに行くというものでした。
念のため、成海は別に、現状で不満なわけではありません。コミケデートしたり、ゲーセンデートしたり、ヲタクショップデートしたり、家デートしたり。結構2人でいる時間は長い。まあ、ムードもへったくれもないですが、のびのび楽しんでいます。宏嵩、付き合いはいいんですよ。
しかし、改めてTHE・デートに参りましょう、となるとやはりドッキリするものです。「特別」なことしようか、って急に言われても。
次回、たぶんデート編。キスくらいしろよ?
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