ライバル不在といわれる中、なぜトヨタは参戦と勝利にこだわったのか?
ル・マン24時間レースは、フランスのル・マン市にあるサルトサーキットで行われる自動車耐久レース。開始は1923年と歴史があり、F1「モナコグランプリ」、インディカー「インディ500」と並び、世界の三大自動車レースとして知られます。
24時間をレーシングスピードで走り続けるその過酷な環境は、自動車メーカーにとって優れた速さ・技術力、耐久性、信頼性を示す格好の場であり、また試練の場でもあります。日本メーカーのル・マン制覇は1991年のマツダ「787B」以来、2社目。また中嶋選手の勝利によって、ル・マン史上初めて、日本人ドライバーと日本の自動車メーカーによる総合優勝も飾りました。
トヨタチームのル・マン参戦は通算20回目。これまで2位3回、なかなか勝てませんでした。特に2016年は残り3分、あと少しのところで初勝利を逃した悲運の過去が思い出されます。24時間走り続ける過酷なレースは体力、精神面への厳しさはいざ知らず、また車両にもトラブルがつきもの。クルマが速いだけでは勝てません。
今回、2017年まで最大のライバルだったポルシェのワークスチームが参戦しなかったことから、トヨタは「なぜ参戦するのか」その意義も問われました。「2017年は優勝こそできなかったがコースレコードを出し、“最も速い、他よりも速い”ことは証明した。しかし“最も強い”は達成できなかった。ここはクルマにおける安全、安心、信頼、快適といった根本につながること。ライバル不在とはいわれるが、私たちは何より“強さ”を証明したかった」(GRモータースポーツ部開発部の小島部長)と理由を述べました。例えば、「何より、気持ちよく走れるクルマであることを目指した。また練習時にダミーの故障情報を出すなどし、訓練した。こうしてチーム全体の“トラブル対策、回避”の能力を底上げして挑んだ。トヨタがクルマ作りで大切にしている“カイゼン”の考えを改めて取り入れた」(小島部長)などで“強さ”を磨いていきました。こうして、クルマ、ドライバー、チーム体制ともに万全の体制で臨んだ結果、見事それを打破したのです。
またトヨタは2018年1月に米国で行われた世界的な家電イベント「CES 2018」に参加し、豊田章男社長はこれまでの自動車メーカーとしてではなく、ITが当たり前になった次なるクルマ社会を見据えた「モビリティカンパニー」へ変革する決意を大々的に述べました。
トヨタは、既に敵は自動車メーカーや関連メーカーだけではなく、グーグルやアマゾン、アップル、フェイスブック、マイクロソフトといったプラットフォームを握る巨大IT企業や、ウーバーを始めとするITでこれまでの業界の在り方を変えてしまう「デジタルディスラプター」と呼ばれる企業などに目を向けていることが伺えます。ここにこそ、これまでの業界での戦いにとどまらない“強さ”の証明が必要です。「クルマはこれからも愛される存在。次の100年もクルマを楽しくしていく。また、電動化しても“乗って楽しい”、“ワクワクする”を忘れずに伝えていく」(豊田社長)。ル・マンで公開された、レーシングカーそのもののスーパーカー「GRスーパースポーツコンセプト」(関連記事)や、ジュネーブショーで公開された「GR Supra Racing Concept」(関連記事)その意気込みの表れといえます。
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