異世界転生したら墓守やらされるハメになった件 “汚い牧場物語”と話題のゲーム「Graveyard Keeper」の危険な魅力:週末珍ゲー紀行
ダークサイドに堕ちた牧場物語。
発売前から一部ゲームファンの間では「汚い牧場物語」「ダークサイドに堕ちた牧場物語」「暗黒牧場物語」などと話題になっていた(牧場物語への風評被害がすごい)、異世界墓守シミュレーター「Graveyard Keeper」が、去る8月15日に発売を迎えました。
一見ほのぼのとした牧場経営ゲームの雰囲気を漂わせつつも、その内容は死体解剖、マリフアナ栽培、人体実験と何でもアリ。しかし一方で、「不謹慎」の一言では片付けられない、独特の魅力にあふれた作品でもあるといいます。
カナダ育ちの脳筋女子ゲーマー、Ritsuko Kawai(@alice2501)さんに、そんな「Graveyard Keeper」を遊んでレポートしてもらいました。
ライター:Ritsuko Kawai
カナダ育ちの脳筋女子ゲーマー。塾講師、ホステス、ニュースサイト編集者を経て、現在はフリーライター。下ネタと社会問題に光を当てるのが仕事です。洋ゲーならジャンルを問わず何でもプレイしますが、ヒゲとマッチョが出てくる作品にくびったけ。Steamでカワイイ絵文字を集めるのにハマっています。趣味は葉巻とウォッカと映画鑑賞。ネコ好き。
「不謹慎」で片付けるにはしのびない独特の魅力
世の中にあふれる“変なゲーム(珍ゲー)”を紹介する「週末珍ゲー紀行」。第19回はひょんなことから中世ヨーロッパ風の異世界に召喚され、寂れた墓所と教会を運営するシミュレーションゲーム「Graveyard Keeper」を紹介します。古きよき時代のドットグラフィックとノスタルジックなゲーム音楽が醸し出す牧歌的な雰囲気とは裏腹に、その実は身元不明の遺体をバラしては錬金術の素材にしたり、中身のない説教で信者たちからお布施を巻き上げたりと、現実世界へ戻るために手段を選ばない新進気鋭のカルトリーダーとして成り上がっていくという、ちょっぴりダークな作品です。
日本ではお盆という絶妙なタイミングで発売されたこともあり、本作はソーシャルメディアやニュースサイトを中心に「不謹慎な墓地運営ゲーム」「超インモラル墓守シム」「暗黒牧場物語」といったキャッチーなフレーズとともに、大きな脚光を浴びました。同じくドット絵で表現された牧歌的な農業シミュレーション「Stardew Valley」の類似作品のように思えて、蓋を開けてみればゲーム性やプレイヤーの目的は似て非なるものです。しかし、チープなブラックユーモアを詰め込んだ“単なるジョークゲーム”かというと、ネットに独り歩きした「不謹慎」という安直なパワーワードだけで片付けてしまうには忍びない、いわゆる異世界転生モノだからこそ味わえる独特のストーリー性を帯びています。
異世界転生したら墓守やらされることになった件
主人公は妻子と幸せな家庭を築く現代人の男性。ある日、買い物からの帰路で交通事故にあい、その拍子に中世ヨーロッパ風の異世界へ飛ばされます。教会と国家が不可分な領域で、寂れた墓所の管理人を半ば強引に任せられたことで、彼のジレンマは始まります。墓守前任者と思しきしゃべる頭蓋骨に、民衆の注目を浴びるためだけに魔女の火あぶりに躍起になる審問官、以前に異世界から脱出した人物の軌跡を知る占星術師、毎日どこからともなく死体を運んでくるロバなど、ユニークな登場人物のエゴに翻弄されるまま、プレイヤーもまた非日常という免罪符を掲げて、自らのエゴに飲み込まれていきます。
一般的な運営系シミュレーションゲームと異なるのは、本作には現実世界へ帰還するという明確なゴールがあり、プレイヤーが管理・運営する教会および墓所はあくまでも目的を達成するための足掛かりにすぎないという点です。基本的な流れは、死体を埋葬して得られる資金を元手に、教会を整備・改良しながら信徒を増やし、自らの地位を向上させていく中で現実世界へ戻る方法を模索していくというもの。その中で森を開き炉に火を入れ道具を作ったり、畑で育てた作物で豪商とビジネスを始めたり、地下研究室で人体実験と錬金術に明け暮れたりと、ときに非人道的ながらも牧歌的なシミュレーションパートが楽しめるという構造です。
毎日のように運ばれてくる遺体は、肉をそぎ取って人肉ハンバーガーの素材にしてもよし、心臓や脳みそといった臓器を錬金術の材料に利用してもよし、血液や脂肪のみをきれいに取り除いて花とともに丁重に埋葬してもよし。墓所の番人として死者をどう葬ろうと、プレイヤーの自由です。また、解剖の失敗でグチャグチャになってしまった肉塊を火葬して灰にすることも、安置所にあふれる死体を町へと続く川へ放り投げることもできます。もちろん、教会の品位をより高めるためには遺体を可能な限り完全な状態で埋葬する必要があります。しかし、届けられた時点で状態の悪いものや腐敗の進んだ死体は、そのまま埋めても逆効果です。信徒の支持を集めるためには、時に非情な選択を迫られます。
主人公には信徒を導くカルトリーダーとして、週に1回彼らに説教を聞かせる機会があります。初期の状態で集まる信徒は数えるほど。主人公の口からは「この教会は素晴らしい!」といった語彙力の乏しい言葉しか出てきません。スキルツリーとクラフト機能を駆使して、廃墟同然だった教会に快適なベンチやざんげ室、ロウソクを立てる燭台やステンドグラスと、さまざまな備品をそろえていくころには、新たな説教もアンロックできます。教会の質は信仰の度合いに、墓所の質は寄付金の額に影響します。そうして信徒を増やしてお布施でがっぽりもうけられるようになったら、今度は自由市民の権利と交易資格を購入して農業ビジネスが始められます。
特筆すべきは、主人公がどれだけ死体をバラして闇の儀式を執り行おうが、迷える子羊たちから巻き上げたあぶく銭で私腹を肥やそうが、一連の行動は愛する妻子の元へ戻るという最上のエゴを原動力としている点です。慎みのないという意味においては不謹慎ですが、慎むべき状況かどうかといえば、主人公の動機は至って真剣であり、決して思慮分別を欠いたふざけた行動とはいえません。とはいえ、埋葬とは本来、死臭の拡散により肉食獣が遺体を食い荒らすのを防ぐ行為。死者に敬意を表し、死後の世界における再生・往生・復活を願うという意味合いが強いことから、墓守が人肉ハンバーガーや人体錬金術に手を染めるのは、やっぱり不謹慎極まりないというほかないでしょう。
古きよき時代をこよなく愛する気の長いゲーマーに
かつて、5世紀にキリスト教における教会制度の基礎を築いた教父アウグスティヌスは、著作「神の国」の中で「遺体の世話や埋葬は死者に対する奉仕というよりも、生者にとっての慰めである」と記しました。人語を解するロバが人参5本を対価に毎日運んでくる身元不明の遺体。ある日突然異世界へ飛ばされ、わけも分からず墓守に任命された主人公にとって、彼らへの所業は名も知らぬ住人への奉仕というよりも、生者としての過去にしがみつくための慰めなのかもしれません。そんな主人公同様に、プレイヤーに対するチュートリアルもほとんどなく、シナリオを1つ進めるだけでも手探りの連続です。スーファミ時代に「ロマサガ3」を攻略本なしでクリアしたような、古きよき時代をこよなく愛する気の長いゲーマーにおすすめします。
今回紹介したゲーム
タイトル:Graveyard Keeper
ハード:Windows / Mac / Linux
公式サイト:https://www.graveyardkeeper.com/
開発元:Lazy Bear Games
パブリッシャー:tinyBuild
価格:1999円
日本語サポート:あり
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