「“りぼんっぽさ”が独り歩きしている」 りぼん相田編集長が『さよならミニスカート』を“激推し”したワケ(2/2 ページ)
「りぼん」相田聡一編集長に聞いてきました。
「りぼんっぽさ」とはなんなのか
――相田編集長が初めて作品と出合ったときの感想はいかがでしたか?
相田: 「むっちゃ面白いな!」と(笑)。……と同時に「すごく面白いけど、『りぼん』っぽくないかもしれない」という印象もありました。
――「りぼんっぽい」とはどのようなものなのでしょうか?
相田: そうですね……もともと僕は少年漫画の編集部にずっといて、約1年前に「りぼん」編集部に来ました。来る前、「『りぼん』とはこういうものだ」というイメージをふんわり持っている自分がいました。僕は家族が持っている少女漫画も読んで育った子供だったのですが、大人になって少女漫画から離れてからの偏見もあったかもしれません。
編集部のメンバーは、みんないい意味で「“りぼんっぽさ”にこだわっていない」んです。「こうでなければいけない」といった決まりは存在していなくて、「読者の女の子が面白いと感じる作品であればいい」と考えて作っている。『さよならミニスカート』も編集部員は大絶賛で、「これは『りぼん』でやるべきだ」と連載が決まりました。
――相田編集長は、「『バクマン。』に登場する相田副編集長なのでは?」という声もささやかれていましたが、本当に“あの相田副編集長”なんですね(笑)。「りぼん」のカルチャーに入ってきたとき、驚きやギャップは感じましたか?
相田: みんな詳しい(笑)。異動前はちょっとだけ不安に思うこともありました。少年誌も少女誌も「読者に面白いものを届ける」という根っこはきっと一緒だろうと信じていたけれど、「もし違ったらどうだろう……」とドキドキする部分も。でも異動してきてすぐ、本質的なカルチャーは一緒だと安心しました。ただ、現場の編集者ががんばっている部分が、もしかしたらうまく売り上げにつながっていなかったのかもしれません。新しい作家さんも出てきているし、ベテランの先生方にも第一線で描いていただいているんですけどね。
担当: “りぼんっぽさ”の独り歩きはすごく感じますね。今回話題になったことで、みなさんから「『りぼん』でこういう作品が載るなんて」「『りぼん』も変わったな」という声をいただきました。そういった反応がうれしくもあり、「こういう風に見えていたんだな」と悔しくもあり……。雑誌を作っている側からすると、今も昔も「りぼん」には幅広い作品が載っていますし、大人が読んでも絶対に面白い作品ばかりです。ただ、「『りぼん』に載っている」というだけで見逃されたり、「じゃあいいや」と敬遠されてしまったりしているかもしれない現実があります。
――「りぼん」は“卒業”するもの、というイメージもあります。
相田: 「りぼん」の部数が最盛期だったころは、「卒業したくない」という読者もいたと思いますが、きっと今はそこまでじゃない。少女漫画好きの方にも「『りぼん』は少女漫画というよりは子供向け漫画」と思われているかもしれない。
僕だけじゃなく、「小学生以外は読めない」「子供向けの作品だ」というようなイメージを世の中の人がふんわり持っている。それが「りぼん」がビジネス的に苦戦している理由の1つなのかもしれないと思っています。
「りぼん」のメイン読者は昔と変わらず小学校の低学年〜高学年ですが、編集部は「幼年誌」ではなくあくまでも「少女誌」と思って作っています。「りぼん」「なかよし」「ちゃお」はよく並べられる雑誌ですが、作り方はそれぞれ違います。明確に差を意識して作っていますし、「どの世代でも面白い少女漫画を作る」ことも目指しています。
担当: 今回の反響で非常にありがたかったのは、「数年ぶりに『りぼん』を買ってみたら、他の連載作品も面白かった」という声ですね。まず「『りぼん』には面白い作品がある」ということを知ってもらえた。これをきっかけに、雑誌を読んでいただければいいなと思っています。
相田: 僕自身、この編集部に異動するまで牧野さんのことを知らなかったんです。漫画が好きだったはずなのに全く耳に入ってこなくて、編集部に来てから「いるじゃん、すごい人!」と度肝を抜かれた(笑)。
ジャンルにくくられて面白いけど日の目を見ない、力があるのに世に伝わっていないような作家さんはきっとたくさんいます。漫画として力があれば、ジャンル以外の読者にも知れ渡った方がいい。作家さんの持っているものに合わせてプロデュースをしていかなければいけないと、牧野さんの作品に出会って思いました。
2話目はさらにすごい
――1話は大ボリュームかつ濃縮した展開で、5ページごとに衝撃を覚えていました。
相田: 2話はもっとすごいですよ!
――えっ。
相田: 声明文で「この連載は、何があろうと、続けていきます」とお伝えしたのも、「もしかしたら1話だけ読んでも分からないかもしれない」と思ったからなんです。連載ネームは1話と2話がセットになっていて、たとえ1話目で反応があったとしてもなかったとしても、2話目で絶対に面白いと思ってもらえるという自信がありました。編集部だけではなく、宣伝や販売、デジタルのチームにもネームを見せて回ったら、「この作品、推していきましょう!」と一丸となってくれた。そういうことはなかなかないです。
担当: 2話は仁那と光の距離が近づきつつも、クラスメイトが遭遇した「痴漢被害」が描かれていきます。さらにサスペンス要素が超加速して、最後には「この先どうなってしまうんだ!?」という驚きの展開が待っています!
――楽しみです! ちなみに、「りぼん」読者の1話の感想が気になります。
相田: まだ読者の詳細な反応は分からない段階(※取材は8月上旬に行われました)なので、まだ正直ドキドキしています。今の「りぼん」の読者にも刺さってくれるだろうとは思っているけれど、実際どう思ってくれるのか……。「100%刺さるだろう」とは思っていません。でも、「りぼん」読者に刺さらないからといってやめてしまうのはもったいない。声明文に「何があろうと、読者のみなさんに面白さが伝わるまで、連載をし続けていきます」と書いた通り、メイン読者の小学生の女の子にも伝えることを諦めずに、真剣に届けていきたいですね。
これは個人としての意見なんですが、究極「読者のことだけを見て漫画を作ってもしょうがない」んです。もちろん読者に向けて作っているので、支持されるに越したことはありませんが、いいものだと自信があるなら、「反応があったらいい」くらいに考えてブレずにやっていくべきです。
――自信を持って作品を送り出して、適切な形で知らせていけば、いつか届くと。
相田: 僕が何より大事だと思っているのが、『さよならミニスカート』を立ち上げた担当編集者が、ずっと「りぼん」にいて頑張っていた人だということ。ある意味“よそもの”だった僕が、いきなり異動してきて「今の『りぼん』にはこんな作品が足りないんだ!」とこの作品を出してきたのだとしたら意味がないんです。
ずっと「りぼん」にいて、「りぼん」のことを誰よりも分かっている編集者が、「りぼん」のことを考えて作った面白い作品だからこそ価値があるし、「りぼんの漫画」であると自信をもっています。今の小学生にも読んでほしいし、“卒業”した子も戻ってきてほしいし、少女漫画を読まない人にも手に取ってほしい。どんどん欲が出ますね(笑)。
(C)牧野あおい/集英社
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