人を好きになるって、なんだかとっても難しい。「やがて君になる」(原作/アニメ)は、思春期に体験する「止められない恋」と「恋がわからない」気持ちを繊細に描いた作品。しっかり者なのに好きな人に甘えてしまう先輩と、人を好きになれない後輩の、ちょっぴり厄介なガールズラブストーリー。
「やがて君になる」とは
主人公は高校一年生の小糸侑(こいと ゆう)と、二年生の七海燈子(ななみ とうこ)。2人の関係性がメインになっている作品ですが、どういう関係なのかは表紙を見ていただきたい。
まず、2巻の表紙です。しっかりものの超優等生な先輩である燈子が、さほど目立たない感じの後輩の侑を引っ張って、リードしている……かのように見える。けれども侑の顔は、すごくうれしいとか照れくさい、というわけではなさそう。一方で燈子は、はしゃいでいるかのよう。
3巻で、デレデレに甘えているのは先輩の方だということが、さらにわかりやすくなります。後輩の侑は「先輩に肩は貸しているし、いやではないけれども、別に何かあるわけでもない」といった状況。
見ての通り、傘は1つ、つまり相合い傘でした。それが幸せで仕方ない先輩と、俯瞰して「楽しいと思う」と理解している後輩。
この作品はそう簡単に「ラブラブです」とはなりません。燈子が自分のことを大好きだと知っていても、自分には特別な感情がわからず、落ち着いて気持ちを分析する侑。自分のことを好きにならない侑のことを好きになってしまう、甘えん坊な燈子。妙な形で、かみ合っている。
全体的に侑の視点が多め。なので、恋でメロメロになっている燈子先輩のギャップが、冷静に描かれています。年上なのに自分にだけ甘えてくる燈子先輩は、作中でむちゃくちゃかわいい。ただそこで感じる気持ちが「恋」かといわれると、すごく微妙。
侑は押しには弱いけど、雰囲気には流されない。彼女が、自分の感情を一つ一つ確認していける子として描かれているのが、この作品の絶妙なところです。
アニメ1・2話にあたるパートを、原作から振り返ってみます。
恋に興味はあるけれど
高校に入ったばかりの侑。男子に告白されるくらいにはかわいい子。彼女も恋愛には憧れます。少女漫画も読みます。ラブソングも聞きます。キラキラした気持ちになったりフワフワした感情があふれたりすることに、期待もします。
けれども侑は“特別”という気持ちがどうにも芽生えなかった。だから告白してきた男子には、悩んだ末にお断りしました。
「大丈夫 わたしはきっと ほかの人より羽根の生えるのが遅いだけで きっと今に もうすぐ……」
まわりは恋愛話で浮足立ち始める時期です。人を特別に想う気持ちがわからないのは、彼女にとって大きなコンプレックスでした。
その時たまたま出会ったのが、先輩の燈子。
「今まで好きっていわれて どきどきしたことないもの」という燈子の言葉を聞いてハッとなる侑。「みんな恋愛の話大好きだもんなぁ 自分がおかしいような気にもなるよね」と話しかけてくる燈子先輩。「先輩も……?」と聞いてしまう侑。心強い味方の登場です。そうそう、恋は無理しなくていい。
どうしちゃったの燈子先輩
……なんて思っていたところで、まさかのどんでん返し。燈子が後日唐突に告白してきます。
「だって私君のこと好きになりそう」。ちょっと何言っているのかわからないですね……。先日「どきどきしたことない」と言っていた、仲間だと思っていた人が、あっという間の手のひら返し。侑の「この人」呼ばわりがだいぶ面白い。
もっとも、恋は唐突にやってくるもの。彼女の心境がどう変化したのか、今の侑にはわからないとしても、別に「自分と同じ」なわけじゃない。
ここからの燈子の浮かれっぷりがすごい。周囲の人から見てもわかるレベル。生徒会の選挙の際に、侑に推薦責任者を任せるくらい。一応理由を言ってはいるけど、まあそれはおまけでしょうとも。
燈子は無理強いしてくるタイプというよりは、考えるより先に口走ってしまう性分のよう。だからこんなことまでしてしまう。
通学中、ほかの人があまり見ていなかったからとはいえ、気持ちを伝えるために唐突にキス。先輩、少し落ち着け。なお燈子先輩もこうなるとは思っていなかったようで、キスのあとに発した言葉が「……どうしよう」。
燈子先輩の歯止めの効かない暴走が楽しいのですが、彼女が恋に落ちたのには理由があるのを、後に侑は察し始めます。侑自身もここまで迫られて、嫌がるでもなく、惹かれるでもなく。
ここからは侑の客観的視線で、2人の関係はちょっとずつ理解が進んでいきます。なかなかに複雑な関係ですが、まずはデレデレな燈子先輩の様子を楽しみましょう。
試し読み:第1話「わたしは星に届かない」
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