ITmedia ガジェット 過去記事一覧
検索
ニュース

「テロップは全て人力でした」 史上初の「パワプロ風野球中継」 実現の陰にあった3つの壁とパワプロ愛(2/3 ページ)

プロ野球の試合中継をゲーム「実況パワフルプロ野球」風に配信し、大きな反響を呼んだAbemaTV。実現までにはさまざまな苦労が――プロデューサーの押目隆之介さんに話を聞いた。

advertisement

パワプロを知らない勢から「見やすい」の声

――それだけ準備した末に9月14日・15日の横浜対巨人の2試合限定で中継したわけですけど、数字面の反響はどうでしたか。

押目: 野球中継の普段の視聴数は1試合あたり50、60万くらいなんですけど、パワプロ風のときは2試合の総視聴数が200万行きました。あとコメント数がすさまじくて……通常は1試合5万くらいですが、1戦目で10万近く、2戦目は17万も行ったんです。

――3倍以上じゃないですか!

押目: 我々の野球中継における過去最高記録ですね。9月度の「AbemaTV」コメント数ランキングでも、稲垣さんと草なぎさんと香取さんが出演する「7.2新しい別の窓」とか、恋愛リアリティショーなど芸能系の人気番組が並ぶ形で上位に食い込みました。スポーツ番組が上に来ることなんてほとんどないので「なにこれ!」と快感でしたね(笑)。

――中継中の裏話はありますか?

押目: 視聴者のコメントに臨機応変に対応したところでしょうか。例えば選手名テロップについてなのですが、「実際のゲームはもう少し間隔が空いている」といった視聴者の声が多かったので、急きょ全ての選手名に手打ちで間隔を空けました。ハイライトでも「パワプロのBGMがほしい」という声があったのでもらっていた楽曲を差し込むようにしたりとか。

パワプロ AbemaTV 中継 インタビュー ヒーローインタビューもパワプロのBGMが彩った

――視聴者と即時的・相互的に中継を作り上げていったわけですね。地上波ではやれないことだ……。

押目: 人力ならではでもありますね(笑)。ずーっとコメントに張り付いていました。

――視聴者の反応はいかがでしたか。

押目: けっこうネガティブな反応があがるだろうな……と1週間前から胃がキリキリしていたんですが、視聴者コメントもSNSでの反応も意外とポジティブな意見ばかりでした。「おもしろい」「再現度高い」「見慣れているので見やすい」「毎回やってほしい」「地上波でも頼む」とか。過去にパワプロで遊んでいた層からも「またパワプロやりたくなった」「今から買いに行くわ」とか。

パワプロ AbemaTV 中継 インタビュー テロップはパワプロをやらない層からも評判に

 ありがたかったのは、パワプロを知らない層から「やったことなかったけどこのテロップ見やすいね」とかけっこう前向きな声をもらえたことです。普通の野球中継って、ストライクになっても「BSO」の「S」に◯が一つ増えるだけで、「今の投球はストライク」だって素人にはわかりにくいじゃないですか。でもパワプロはちゃんとプレイごとに「ストライク」「アウト」「チェンジ」としっかりテロップが出る。野球初心者にわかりやすい表示になっているんです。

――わかります。名前も内野手なら黄色、外野手なら緑色と、ポジションが色でわかるようになっているのもいいですよね。

パワプロ AbemaTV 中継 インタビュー パワプロ名物、ポジションによる名前の色分け

押目: ですよね。黄色と緑色が混ざっているから「この選手内野だけでなく外野もできるんだ」というのもビジュアルでわかるじゃないですか。DeNAのソト選手もライトか一・二塁手のイメージですが、今回の中継で名前に青色が混じっているの見て「えっ、ソトってキャッチャーもできんの!?」とわかる、みたいな(笑)。

 パワプロってやっぱりわかりやすいよう考え抜かれているデザインだなと気付かされましたし、そこは今回のコラボ以外の中継時でも参考にしていかなければならない、と学びを得られましたね。


能力値に調子マーク、効果音……やりたかったこと、来季に向けて

――今回やりたかったけどできなかったことって何かありましたか?

押目: 物理的に難しかったのが、効果音と、ミートカーソル、あと審判コールですね。

 打つタイミングで「カキーン」「パカーン」と効果音を出せなきゃいけないんですが、さすがに「バットに当たった」と秒コンマで判断してリアルタイムに出すのはムリで。ミートカーソルも、打つタイミングでキュッと縮まっていく挙動の再現が難しかったです。

 審判コールも本物の球審がいつ「ストライク!」と判定を出すのかがわからないので、パワプロ風の声を出してみても球審のモーションと合わなかったり、マイクが拾ったリアルの声とかぶってしまったり、違和感が強かったです。そのあたりは物理的にムリでしたね。

 他にゲームのランナーの動きも再現したかったんですけど、中継カメラだとランナー一人一人の映像って表示されないので、現場まで行ってランナー全てをスタッフが観察していないとできないんです。こういう風に技術的に難易度が高くて実現できなかったこともありました。

――確かにその辺は再現されるとパワプロファンにはたまらないですね。

押目: あとは配慮面で行くと、さっきあげた選手の能力値や調子マークあたりですね。調子マークはここ5試合くらいの成績を基準に「絶好調」「不調」と表示しようと考えていたんですけど。絶不調なのに打ったらコメントも盛り上がると思うので……このあたりも来季の課題ですね。

――来季、ということは次もパワプロコラボの予定があるということですね。

押目: もちろん、企画案の1つとして考えています。また実施できたら、落下点表示やストライクゾーン表記など技術面でなんとかクリアできそうな機能は盛り込みたいです。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る