【木村祥朗×堀井直樹×なる×ZUN】「BLACK BIRD」爆誕祭 なぜゲーム開発者はシューティングを作りたがるのか、「原点にして究極」と語るその魅力(2/5 ページ)
「moon」「Million Onion Hotel」などを手掛けてきた木村祥朗さん(Onion Games)の最新作がなぜシューティングなのか。「BLACK BIRD」開発のきっかけや、シューティングというジャンルの魅力について語ってもらいました。
あるとき突然、自由な気持ちになって生まれた「BLACK BIRD」
―― 木村さんに今回一番聞きたかったのが、今までは「気持ちを閉じ込めていた」というシューティングを、じゃあなぜ今作ったかということなんです。
木村:なんで「BLACK BIRD」がシューティングとして生まれたかっていうと、たまたま2012年にIGF(※)に行って、そのとき突然「インディーゲームの世界に行けば僕は何でも作っていいんじゃないか!」って自由な気持ちになって、それで「BLACK BIRD」の企画が生まれたんですよ。
※Independent Games Festival。PAX(Penny Arcade Expo)と並ぶ北米最大級のインディーゲーム展示会の1つ
―― 企画自体はかなり昔からあったんですね。
木村:それから2013年くらいに「あー俺もうホントシューティング作りたい!!!」っていう時期があって、そのときに今とほとんど同じような、手書きとドット絵のイメージビジュアルができたんですよ。でも、それを見ながら僕は、「これは多分誰にも(どのパブリッシャーにも)頼れないし、やる気のあるやつが7〜8人いないとダメだな」ってなんとなく思ってたの。
堀井:すごくわかる。
木村:シューティングをちっちゃい人数で作り切るっていうイメージが僕の中にはなくて。なんでかっていうと、最初から「ファンタジーゾーン」と「グラディウス」と「セクションZ」と「ゼビウス」と……とにかく自分がホントに好きだったゲームの思い出を全部詰め込んで、しかも自分なりのストーリーと世界観を乗っけていい感じの雰囲気にまとめる、というのをイメージしてたから。
堀井:そこで「セクションZ」!(笑)
木村:でも、最初は仲間がいないとダメだと思ってたんだけど、それから「勇者ヤマダくん」とか「Million Onion Hotel」とかを作ったりしていくうちに、仲間がパワーアップしていって(笑)。それで「もしかしたら作れるんじゃ?」ってなって、あるときプロトタイプ的なものを作ってBitSummit(※)に出したんですよ。
※2013年に京都でスタートしたインディーゲームイベント。発起人は元キュー・ゲームスのジェームズ・ミルキー氏
―― 確か2016年の「BitSummit 4th」ですね。
木村:で、それがわりとうまくいって、そのときは一瞬「俺、ゲーム作るのうまいじゃん!」って錯覚したの。でもそこからが大変で。多分僕のアイデアがヘボかったんでしょうね、それから2年くらい、何度も何度もエンジンをかけようとするんだけど全然進まなくて。このゲームにフィットするパワーアップの方法が思い付かなかった。実は「シューティングもうまく作れる俺」っていうのは錯覚で、面白いシューティングを作るのは実はめちゃくちゃ難しいってことが分かった。
―― そこからどうやって今の状態に持っていったんですか。
木村:一番のきっかけは、エンドレスシラフ(※)のLuCK君からもらったアドバイスだったんだけど、とにかく困ったから、自分の周りでシューティングを作っている人に片っ端から遊んでもらって感想をもらったんです。
※同人ゲームサークル。「∀kashicverse(アカシックバース)」シリーズなどのシューティングを手掛ける
一同:ああ〜(共感)。
木村:僕が自分で「遠慮なく言ってください」って言ったんだけど、そしたらまあ厳しい長文がい〜っぱい届いて。僕が気にしていることをズバリと言ってくれた。なる君は言葉は優しかったんだけど、気になるところを動画に撮って送ってくれたりして。みんなの意見を重ねに重ねてて完成しました。
まず、Bitsummit前の2カ月でLuCK君とメインプログラマーのタクマ(@tacokubo)と意見を交換しまくって構造が見えてきて、さらに発売前の2カ月でツワモノたちに感想をもらって、最後の最後にもっかい生まれかわったんです。
堀井:パワーアップが思い付かなかったって言いましたけど、普通はまずシステムから開発する方が多いですよ。
木村:僕のゲームってアート寄りになりがちなんです。でもアート寄りのゲームってシステム的に練られていないものが多くて、「アート的なものはつまらない」という意識が根付きつつあるんじゃないかという懸念があって。そこをどうにかしたくて必死で考えました。「グラディウス」みたいなパワーアップ方式も作ってみたけど1週間で没にしたり……。
―― 完成版では、ボムでスコアを稼せごうとするほど 成長アイテムもたくさん取れる方式になりましたね。
木村:僕が作りたいシューティングは弾幕系ではなかったから、弾幕が主流になる前のシューティングへのリスペクトを込めまくったんですけど、僕自身がどうしてもボムを撃ちたくなってしまって。「勇者ヤマダくん」でZUNさんの「東方輝針城」とコラボした「弾幕輝珍城」というパロディーをやったんだけど、そのとき「東方輝針城」ばかり遊んでいたら、ボムを撃たないといられない体になっていたんです。それで「BLACK BIRD」は弾幕系じゃないけどボムを入れたいと。
それで、「コンボMAX状態でボムを使うとすごい点数が稼げてパワーアップアイテムも余分に出る、なおかつ初心者は緊急回避にも使える」というのを今年の3月ごろに思い付くんです。そうしたら面白くなった! アートっぽいけどゲームとしてもやり込める、というバランスを僕はいつも目指しているんだけど、今回それをやっとクリアできたかも、と思えたのは「BitSummit Volume 6」(2018年5月)のホントに直前でした。
―― 木村さんはZUNさんとも親交が深いですよね。シューティングを作るにあたって、ZUNさんの影響はあった?
木村:僕なりにシューティングを作ったらどうなるのかな、と考えるスイッチを入れたのはZUNさんですよ。「シューティングで売れるんだ」とか「シューティングの自機にキャラクター性が付いたらどうなるのか」とか、ZUNさんのゲームを見たときに渦巻くいろんな気持ちはもちろんあった。
同じシューティングを作る者として、やられたと思った
―― みなさんは「BLACK BIRD」を遊んでみて、どうでしたか。
木村:それ、ここで聞いちゃうの? 怖い怖い。
堀井:いや、正直、打ちのめされましたよ。僕は日々どうやったら敬遠されず、初心者や未体験者にシューティングを触ってもらえるだろう? ということを考えているんですが、そこで「BLACK BIRD」を見て、この手があったか! って。つまり最初から「シューティングゲームです」とアピールするんじゃなくて、「この絵に触ってみたい!」っていう人が来て、触ってみたら「ああシューティングなんだ」ってなる。こっちの方が健全なんじゃないかって。
だから木村さんが見せたいものを描こうとした結果、縦シューティングじゃなくて横シューティングになるのも納得がいくし、横にしたおかげで本当にいろんな景色が広がっていて、この絵が見たくで触った人はきっとシューティングとか関係なく触るだろうなって。それが本当にいいなあと思ったんです。同じシューティングを作る者として、やられたと思いました。僕は今日、これを言いにきましたね!
木村:でも逆に、例えば「斑鳩」や「東方」を遊んでいるような人が、果たして「BLACK BIRD」に来てくれるかどうかはまだ分からなくて。実は今回、自分が関わった作品では初めてジャンルを明言しているんです。「シューティングです」って。
なぜかというと、僕が世界観で盛り上げようとしても、そこを好きだと言ってくれるのって、やっぱり今まで僕のゲームを見てくれていた人なんですよ。それでは客層が広がらないんじゃないか、という不安は常にあって。シューティングはもしかしたら、そうしたファン以外の人にも届く突破口になったりして……っていうのはあった。
堀井:BGMが歌モノなのは最初から決めていた?
木村:はい。いつもは画面ができてから音楽を頼むんですけど、今回はまだドット絵とイラストが1枚あるだけの状態で打ち合わせを初めて、1面のプロトタイプができるより前に、1面のBGMはもう出来上がっている状態でした。音楽に合わせて敵を出したかったから、先に音楽ができていないといけなかったんです。その人がどういう音楽を作る人で、僕がどんな音楽を求めているのか、お互いの信頼がないとこれはできなかったと思う。
ZUN:画面を見ていなくても、「このタイミングでこの敵が出る」というのが音楽で分かるのが新鮮だった。
―― 音楽とゲームが一体になっているというのは「東方」の十八番ですよね。自分は「東方風神録」が「東方」初体験だったんですが、3ボスのにとり戦でBGMが三拍子になったら、弾幕も三拍子っぽいリズムで飛んでくるのに感動しました。
ZUN:音楽に合わせて作ったから面白いというよりは、合ってないと面白くない。合わせざるを得ないんです。音楽を流しっぱなしで敵の攻撃を出しても、ちぐはぐ感が残る。そういう意味では僕は強制スクロールが好きなんです。合わせやすいし、映画感がある。
「BLACK BIRD」は任意スクロールだから、背景と敵の出現が一致しないんですよ。でも音を聞いていれば、マップのどこにいても敵が来るのが分かる。音の自由度が上がるわけです。そこが新鮮でした。
―― テストプレイ段階から遊んでいたなるさんはどうでしたか?
なる:始めてみたら、思っていたよりずっとストイックでびっくりしました。「確かにシューティングだ!」って。自機の火力が最初は低いじゃないですか。ショットが画面上に3発しか出ない。昔のシューティングみたいだなあと。今やるとそれが逆に新鮮で、一発一発を撃ち込んでいる実感がある。
木村:これ、テストプレイするたびに必ず誰かが「バグですか?」って言うんですよ。「ショットが3発しか出ない」って。今のシューティングは弾が途切れなく出るのが普通なんだけど、でもそれだと作れないゲーム性ってたくさんあって、例えば3連射じゃないと「狙いたいときに狙う」っていうのができなくなっちゃう。だから連射はあくまでこれでいい、ってずっと言い続けてた。
堀井:「弾切れ」に気を付けて撃ってほしかったと。能動的に立ち回れ、ということですよね。
ZUN:画面内に何発まで、っていうのもシューティングの謎な文化ですけどね(笑)。昔だったらハードウェアの性能で「一度に表示できるのは何発まで」っていうのがあったんだけど、若い人は「なんで弾がたくさん出るときと出ないときがあるんだろう?」って思ってしまうかもしれない。
木村:そういえばパワーアップがMAXになると上下にホーミング弾がつくんだけど、あれは最初「ダーウィン4078」のコウモリ弾みたいなのだった。でも強すぎてゲームにならなかったから、かなり調整しました。
―― あれはてっきり「ダライアス」だと思ってました(笑)。
木村:弾のデザインも最初は違っていたんだけど、「シン・ゴジラ」の最後で、ゴジラの尻尾から小さいのが飛び立とうとしてたでしょ。あれを見て、ホーミング弾は「BLACK BIRD」の子どもという設定になった。
―― デザインと言えば、鳥の目玉がそのまま当たり判定になっているのが分かりやすくて良かったです。
木村:2013年に初めて「東方」を遊んで、キャラクターの真ん中で点が光っているのを見て、「これが当たり判定なのか!」って驚いたんですよ。「BLACK BIRD」はたまたまキャラクターが鳥だったので、ああ、目玉がコリジョン(東方の当たり判定)ぽいって気付いて実装したんだけど、世界感にもハマるしあれは良かった。
ZUN:最初に「東方」で当たり判定を表示させたとき、「ダサい」って批判されたんですよ。もっと世界感に溶け込んだものでないとダメとか、戦闘機に当たり判定が表示されたらダサいじゃんって。でもそのあと増えましたよね、当たり判定の見えてるゲーム。やっぱり遊びやすいんですよ。
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