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彼女が盗まれたのは制服だけだったのか ミステリー漫画「制服ぬすまれた」がTwitterで大反響、緊急重版へ(1/2 ページ)

制服を盗まれた女子高生と、同じ過去を持つ女警察官が、犯人探しへ。漫画家・衿沢世衣子の短編漫画が「ただのミステリーじゃない」と話題に。

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 制服を盗まれてしまった女子高生と、若い頃に同じ経験をした女警察官、夏の公園で出くわした2人が犯人探しへ。

 漫画家・衿沢世衣子さんの短編ミステリー漫画「制服ぬすまれた」が、ただの謎解きに終わらぬ“盗まれた少女の心の機微”を丁寧に描いた作品となっており、Twitterで「すごい読了感だった」「いろんな感情が心に湧いてきた」と称賛を浴びています。収録した同名の短編集『制服ぬすまれた』(小学館刊)は緊急重版が決定。彼女が盗まれたのは、何だったのか。


収録しているミステリー短編集『制服ぬすまれた


 夏の都会の公園、なぜかメイド服のような衣装を着た少女が、物憂げにベンチに腰掛けています。隣のベンチで赤ちゃんを抱きかかえていた女性が、おやつのたまごボーロを女の子にも分けてあげると、ぐすっと涙。実はプールに入っている間に制服が盗まれ、仕方なくロッカーにあった文化祭の衣装を着ていること、大ごとにしたくなくて先生に報告していないことを泣きながら告白します。

公園のベンチに、女の子がなぜかファンシーなドレス姿で座っている

制服が盗まれたことを告白

 ある記憶がフラッシュバックし、どうしても見捨てられなくなった女性。夫に赤ちゃんを預け、少女と一緒に女子校へ戻って盗まれた状況を詳しく調べ始めます。

 セキュリティの緩い夏休みの学校、急に思い立って泳ぎに来た彼女は、部室で着替え、1人きりのプールで2時間弱練習。戻るとそこに制服はなかった。校内を巡りながら、まるでドラマ「相棒」みたいだと少女がわくわくしていると、女性は自分が育休中の警察官であることを明かします。


 状況分析から「あなたの制服を盗ったのは外部の人間だと思う」と個人的な見解を述べると、自分も冷静になったらそう思えてきた、と女子高生。落ち着くと同時に次のようにこぼすのでした。

 「不思議なんです…… まだ少し怖いけど… 私の知ってる誰かに盗まれていたより どこかの制服泥棒に盗まれていたほうがましな気がして



 無表情でそれを受け止める女性。警察に届ける決意をした少女と別れた後、自分の高校時代の出来事を思い出します。夏休みの終わりごろ、女子バスケ部の練習中に些細なことでケンカして一人体育館に残った後――部室に戻ると制服がありませんでした。

自分の高校時代の出来事を思い出す女性

練習中にケンカ別れした後、部室に戻ると、制服がなかった

 夜はユニフォームのまま帰り、母親には友達と遊んでて川に落ちて破けたから制服は捨ててきたと説明、制服は買い直すことに。以来、母親とはこの話になるたび怒り、夫にも高校時代の話はほとんどしていません。彼女の友人との青春時代は、制服とともに消え去ったのです。

 実家での夜、少女から「事情聴取が終わりました」とスマホに報告が。参考にと、この日インスタ映えを狙って撮りまくっていた写真が大量に送られてきます。平和な風景を笑いながらスクロールしていると、ある1枚の写真が。慌てて実家の奥にしまい込んでいた14年前のガラケーを取り出すと、ここから今回の盗難事件、そして女性の過去が、急展開を見せていくのでした。

事件は急展開を見せる――



 事件解決後、返ってきた制服を見つめる女性――その複雑な表情は積年の思いをうかがわせます。制服以外の大事なものを奪われたことへの怒り、勘違いしていた自分へのやりきれなさ、誤解が解けたことへの安堵、恨んでいたことへの申し訳無さ。そして最後のページで彼女が取る行動は、爽やかな読後感を与えてくれるのでした。盗まれた青春を取り戻すのは、これから。

 「学校で制服が盗まれる」という陰湿な人間関係をイメージしてしまう題材を、あちこちに伏線を配してミステリーに仕立て上げながら、人間ドラマに着地していく秀逸な短編。2月半ばに衿沢さんがTwitter(@knutknut)で本作を32ページまるまる公開したところ、4万回以上リツイートされるなど大きく話題になりました。

 「救われたのはひとりじゃない…!」「話の構成がすごい」「小説を読んだあとの快感」と話の作り込みに感嘆する声の他、「盗まれたのは、制服だけではなくて、青春や尊厳、友情、信頼、アイデンティティ、そういうものすべてだったのかな」など彼女たちの心境にさまざまな感想があがっています。

 収録した短編集『制服ぬすまれた』は2018年10月に発売されましたが、今回の反響を受けて重版されることに。活気のあるそば屋の配達アルバイトが次々と意外な一面を見せていく「ワニ蕎麦」、バイト先で一目ぼれしたヤンキー美女がこっそり山に何かを埋めている現場に出くわす「ハンドスピナーさとる」……などなど、本作のような日常に潜むミステリーを計5編収録しています。

 今回の「制服ぬすまれた」で衿沢さんの作風に引かれた人は、同じく2018年10月に発売された短編集『ベランダは難攻不落のラ・フランス』(イースト・プレス刊)もおすすめ。

 男子小学生が幽霊のうわさを聞きつけ山を散策したところ、忘れ去られた天文台に通う偏屈な女子高生と出会う「リトロリフレクター」。独身女性のマンションの一室に、隣に住むへんてこ小学生がベランダから遊びに来るようになる「ベランダ」――私たちが普段目にする風景や品々を使って魅力的な非日常を作り出す、これまた秀逸な短編が8編収められています。

(C)衿沢世衣子/小学館

衿沢世衣子

東京生まれ。ロンドン芸術大学キャンバーウェル・カレッジ・オブ・アーツで美術を学ぶ。そこで近況などを描いたフリーペーパーを日本の友人に送っていたが、その友人の勧めにより『コミックH』に投稿、2000年「カナの夏」でデビュー。著書に『おかえりピアニカ』『向こう町ガール八景』『シンプルノットローファー』『ちづかマップ』『SatoShio』『新月を左に旋回』『うちのクラスの女子がヤバい』などがある。くだものと中国茶が好き。

黒木貴啓


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