神社の神様は『日本書紀』の表記が多め
読者の方のお住まいの近所に、神社があるかもしれません。その神社で祀られている神様について、どれくらいご存じでしょうか。
中には相模国一宮の寒川神社の祭神である寒川比古命・寒川比女命ように、『古事記』にも『日本書紀』にも記載のない神様もいますが、多くはどちらか一方、もしくはその両方に登場する神様でしょう。
その神様の名前をみてみると、たとえばイザナギ・イザナミであれば、伊弉諾・伊弉冉とされているかもしれません。
『古事記』と『日本書紀』では、ほぼ同じ発音の神であっても、表記の異なるケースが大半です。イザナキ(イザナギ)であれば、『古事記』では「伊耶那岐」、『日本書紀』では「伊弉諾」です。そして、創建時期が古く、祭神が変わっていない神社の場合、『日本書紀』にのっとった表記を採用しているケースが多いはずです。
現在でこそ、日本の神話といえば『古事記』が代表的ですが、これは江戸時代以降の傾向です。極端にいえば、本居宣長が作り出したブームです。それ以前は、日本の神話といえば『日本書紀』でした。
その証拠のひとつとして、一番古い写本を挙げることができます。現在までに残っている最も古い写本をみると、『古事記』は14世紀のものであるのに対して、『日本書紀』は断簡(写本の一部が残ったもの)ではありますが、平安時代初期にさかのぼることができます。
また、『日本書紀』は宮中において勉強会(「講書」と呼ばれます)が行われた事が明らかで、最盛期の勉強会では、現代でいうところの国務大臣クラスの参加がありました。
結局、新元号は『古事記』『日本書紀』から採用されるの?
わかりません。
ただ、これまでと同じく音読みの元号を採用するのであれば、『古事記』よりは『日本書紀』の方が使いやすいと思います。『古事記』は、できた当時の口頭日本語を反映した表記が多いためです。一方、『日本書紀』は大半が中国語文、つまり音読みしやすいテキストです。
また、来る2020年は『日本書紀』ができあがって1300年の節目ですから、話題にもなりやすいでしょう。
そう考えたとき、『日本書紀』のどこから元号を採用するか。たとえば、最初の天皇として描かれている神武天皇に関連する箇所、あるいは『日本書紀』でも最もインパクトのある天皇のひとりである天武天皇に関連する箇所などからでしょうか。
4月1日に発表される新元号が、そもそも、『古事記』にも『日本書紀』にも全く関係ないものになる可能性もあります。というか、そっちの方が高いのではないか、と個人的には思ってたりもするのですが。
ともあれ、こういったタイミングで、『古事記』や『日本書紀』といった典籍に興味をもってもらえたら、研究者としてはありがたい限りです。
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