東京にほど近い、千葉商科大学(千葉県市川市)。ここで2011年4月から「学生ベンチャー食堂」なる取り組みが行われています。学生自身が学食のお店を運営する、思い切った制度です。
自らがお金を出して運営し、売上はそのまま学生が手に入れることができるため、仕事としての意識を強く持って運営されることも特徴です。
学生が学食を運営していることは今や千葉商科大学の学生にとって当たり前の光景で、お昼にもなると、多くの学生が食べに来るのだとか。その「ありえない光景」を見ようと、千葉商科大学市川キャンパスまで出かけました。
行列のできる人気
東京都内からわずか一駅の場所とは思えないほど、広大で静かな環境。この奥に「学生ベンチャー食堂」はあります。
到着したのは12時ごろ。食堂内でメニュー提供があるほか、その外でもお弁当が提供されていますが、今回おじゃまする彩食菜はお弁当販売のお店です。
そこには、すでに多くの学生がお昼ごはんを求めて列をなしていました。学生ベンチャー食堂、なじんでいる。
我らがねとらぼチームも並んでみましょう。手際のいいアルバイトさんたちにより、長い列がどんどんさばかれていきます。
サラダも合わせて4品、1000円ちょっとで買えてしまいます。コスト意識の高い商科大学の学生にもウケそう。
さすが学食、1品400〜450円で満足
購入したお弁当は外で食べることも、食堂内で食べることもできます。今回は食堂で食べることにしました。学食らしく、400円台で満足できるお値打ち感のある弁当ばかりです。
オープン当初からの人気メニューである「牛丼」のほか、週替わりで提供されているのが「焼き肉丼」。牛丼よりも濃厚な味付けの牛肉と具材がごはんに乗り、調和しています。ちょっとクセになる味。
しょうがやき弁当のお肉はお母さんがお弁当に入れてくれたような、アッサリした万人受けする味付け。それとバランスをとるように、たくさんの野菜が入っていて栄養バランスもバッチリ考えられています。
カレーは刺激的な辛さよりも、野菜由来からのような芳醇な甘みとうま味を感じます。ホクホクのじゃがいもと少し歯ごたえの残った人参で、野菜を食べている実感も湧いてくる。
そしてサラダはまさかの50円。すでにドレッシングがかかっており、パックを開くやいなやかぶりつけます。いい意味でスッとなくなる、スナック感覚のサイズです。
総じて、「おいしく食べ進めていくと、気がついたら無くなっていた」という感じ。実家で作ってくれた味を思い出し、完食すると午後からも元気でがんばれそうなお弁当でした。
19歳で経営者になった女子学生
ここからは、19歳で学生ベンチャー食堂「彩食菜」を立ち上げ、現在20歳の木村海音(あまね)さんにお話をうかがいました。
学業もしっかりこなしながら学食の運営もしてしまうとは、果たしてどんなバイタリティがある女子学生さんなのでしょうか。大学時代、ろくに何もしなかったねとらぼ3人衆が話を聞きました(聞き手:辰井裕紀、たろちん 撮影:福山忠秀)。
――まず、ベンチャー食堂を開きたいと思ったきっかけはなんですか?
もともと飲食系の仕事に就きたくて、料理の専門学校に行こうと思ってたんですが、同じ仕事に就いていた親から「ハードな世界だから」と反対されて。それであれば、経営の勉強をしてお店の運営を学びたいと思って、学内でお店を開く制度のある千葉商科大学を選んだんです。
――お店の営業許可をもらう審査はどんなものだったんですか?
10ページ分ぐらいの事業計画書を書きました。1日の売上がどれぐらいで、お客さんがこれぐらい来て、店舗内の配置はこれぐらいで……というものです。
――かなり本格的だ……。ちなみに売り上げがマイナスになったら自分で借金を負うんですか?
そうですね。
――ええ、大変だ。
でも水道光熱費あたりは大学側が負担してくれるので。
――子どもの時から、忙しい親の代わりに家族へごはんを作っていたと聞きますが……。
はい。母子家庭で親が21〜22時頃まで仕事だったので、小学5年生から家族みんなのごはんを作っていました。料理はクックパッドなんかで覚えましたね。
――たくましい……! ちなみに当時からの得意料理っていまでも出していますか?
オムライスです。毎週火曜日に出しています。
朝7時から準備、夜には仕込みをする
――作業の流れはどんな形ですか?
まず営業前日の夜から仕込みをします。野菜を切ったり、軽く火を入れたりして。営業日当日は朝7時に大学へ来て、お米をまず炊いてから味付けをして、8時30分にアルバイトの子が来たらキャベツの千切りやお弁当を詰める作業などをしてもらって、最終的に11時には営業を開始できるようにします。
――料理はどなたが作りますか?
基本的には、私がひとりで作っています。
――すごい……働くなぁ。
1日100食以上! アルバイトに給料も払う
――1日何食ぐらい出て、売り上げはどれぐらいですか?
いまは100食以上出て、平均で5万円ぐらいです。
――おお……! ふつうにバイトするより儲かっていますか?
うーん、やることが多いので、時給換算したら同じぐらいだと思います。食材を仕入れたり、アルバイトに払ったりするお金も自分で計算してやりくりしないといけないので。
――完全に経営者だ……。
でもアルバイトへのお給料は、大学負担が一部出ますよ。
――ちょっと安心ですね。ちなみにアルバイトの時給っておいくらですか?
時給900円です。バイトの時給としては平均的なラインですけど、就活で経験を語れたりもするのでそうした点でもメリットはあるのかなと。
――メニューの数はどれくらいで、それぞれ何食ぐらい作るんですか?
メニューはいま8種類です。多いものは30食、少ないのは10食とかですね。
――何が人気ありますか?
王道の「牛丼」ですかね。魚も充実させたいですが、あまり出ないなって。
――大学生だからかなぁ。おっさんになると、魚が食べたくなるんですけどね(笑)。
のり弁には白身魚のフライなんかを載せているので、提供の仕方をくふうして魚も充実させたいなと。
――客層はいかがですか?
やっぱり女性目線で作っているのもあって、女子の割合が若干多いですね。
――それはライバル店とのすみ分けも考えたんですか?
私がはじめたときには中華料理店が2つあったので、中華は絶対にイヤだなと思って(笑)。どちらもガッツリ系のお店だったので、こちらはヘルシーなものを提供したいなと思いました。
――ちなみに「牛丼」は数少ないオープン当初からあるメニューだそうですが、なぜ牛丼だったんですか?
……いちばんカンタンかなと思って(笑)。煮ればいいですし。
――正直!(笑) でも大量に提供するにはそういう視点も大事ですよね。ほかに提供する上で、苦労したことはありますか?
新学期がはじまる時期や天候が悪い日は、売れなくて余っちゃったこともありました。最近は天気予報を見たり、休講の情報を見たり、一限に授業がある子から出席状況を聞いたりします。
――日々マーケティングですね。それでも余ったものは廃棄になっちゃうんですか?
なるべくそうしたくないので従業員や友だちに渡したりしますが、それでも余ったら廃棄です。
――そこはシビアですね。
捨てたくないから、みんないろんな人に電話とかして、「今日大学いる?」って(笑)。
5限が終わるまで、店主はごはんを食べられない!?
――勉強とのすみ分けはどうしていますか?
授業は1〜2限には入れないで、3〜5限に集中して入れています。
――でもお昼休みが一番忙しい時間ですよね。ごはんを食べるヒマはあるんですか?
時間がなかったら食べません。5限が終わるまで食べられないときもあります。
――えええ……! そのあとに明日の仕込みもあるわけですよね?
でも料理って作っているだけで、おなかいっぱいになるんですよ。香りとかで空腹が満たされて。
――効率のいいダイエット法ですね(笑)……でも食べてください!
――千葉商科大学は男子学生が多いですが、その中で女性として営業していくのに苦労してることはありますか?
量の設定に悩みます。いま女性寄りの量ですが、男性にとってはちょっと少ないですから。
――学食って「ボリュームが多い」イメージがありますけれども、ここの学食はおじさんにちょうどいい量だなと思いました。
(笑) ただ、いまガッツリしたチキン南蛮やカツ丼も作ろうと思っています。男子のお客さんも取り込んでいきたいので。
――アルバイトさんを使う上で、苦労はありますか?
「どこまでやらせたらいいのか」ですね。最初からあれもこれもやってもらうのも大変だと思ったので、最初のほうは自分ひとりで仕込みを全部やっていました。最近はみんな慣れてきたので、手伝ってもらいますけれども。
――それもう初めて部下ができた社会人3年目ぐらいの悩みと同じですね。大学生なのに、悩みまで進んでいる。
あとニュアンスでやってくれる人と、イチから全部を言わないとできない人がいるので、どうやって乗り切るかがいまの課題ですね。
――ほかにも学食はあると思います。すごくキレイな学食「The University DINING」。あそこはライバルですか?
お店が営業していないときは、ふつうにお客さんとして行っています(笑)。ライバルだと思っていません。競合するところではないと思うので、うちはうちでがんばっていきます。
――そういうときに「お弁当」がメインの営業形態は生きますからね。
中古で買った16万円の軽自動車で仕入れをする
――最初の初期費用はいくらぐらいかかったんですか?
たぶん30万円ぐらいでした。
――けっこういきますね……!
ある程度の設備は以前の経営者から引き継いだんですけど、それでもフライパンや調理器具や食器を買ったりしたら、それぐらいはかかりました。
――自分の財布からの出費ですもんね……ちなみに、いま買いたいものはありますか?
大きな冷蔵庫ですね。いまは家庭用冷蔵庫1個と、冷凍庫ストッカー1個でなんとかまかなっている感じです。お店の利益を上げて買いたいですね。
――食材はどこで買っていますか?
個人事業主向けなど、業務用のスーパーを使っています。野菜を使うと原価が高くなるので、安いところに車で行きます。
――届けてもらうとかじゃないんですね。
自分の目で商品を見たいので。
――その車って、誰の車ですか?
私のです、買いました。途中で「車が無いと大変だ」と思って。中古の軽自動車で16万円でした。運転はあまりしたくないんですけど、しょうがないから乗っています(笑)。
――お店をやってみて、一番ツラかったことはなんですか?
朝起きるのが早いことです。1人暮らしする前は、家から学校まで1時間ぐらいかかるので、朝の5時に出ることもありました。
――逆にうれしかったことはありますか?
やっぱり、食べてくれたお客さんの「おいしかった」ですね。
前にあったことなんですが、あるお客さんがグリーンピースやニンジンが嫌いで、でもオムライスをそれごと食べてくれて「ぜんぶおいしかったです」と言ってくれたときは、ホントにうれしかったです。
別の夢も広がっている
――将来は食べ物屋さんをやりたいですか?
いまはほかのことをやりたいとも思っています。例えば旅行業界です。ツアープランナーっていう旅行の企画を立てるような職業を志望しています。
――確かに学内でひとつ夢がかなって、「飲食店ってこうなんだ」とわかったことで他の夢も広がりますね。将来、働き者になりそう。
ヒマでいるより、いろいろやっているほうが好きなので。
――最後に。木村さんにとって、いまやっているお店は「どんな存在」ですか?
社会へ出る前に、社会勉強ができる貴重な場所だと思っています。大学のサポートも受けられますし。
――まさしくここが「社会」なのかもしれませんね。
実践的な学び舎「千葉商科大学」
現在、千葉商科大学の学生が多数参加したスペシャルムービー「スタートライン」が公開中。学生たちの持つ約700枚のイラストがパラパラ漫画のように動き、大学でさまざまなことにチャレンジする4年間の様子が表現されています。この動画企画自体、千葉商科大学が“何事にもチャレンジする大学”であることを体現したもので、「自分を生みだすのは、自分だ。」というメッセージにも学生時代からどんどん社会に出て一緒に何かを作り上げていく、という想いが込められています。
そんな実践的な学び舎、千葉商科大学を象徴する取り組みの学生ベンチャー食堂。
なお木村さんの「彩食菜」のメニューは、外部の方でもキャンパスに入って食べられます。芯の強さと気負いのなさを併せ持ち、小学5年生から家族を支えてきた腕前をふるう、彼女の料理をぜひ味わってみてください。
提供:学校法人千葉学園 千葉商科大学
アイティメディア営業企画/制作:ねとらぼ編集部/掲載内容有効期限:2019年5月27日
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