実話怪談を「編集」すること
ここまで読んでいただいたのは、「編集後の」怖い話です。
今回の企画の発案趣旨は、「心霊体験の『語り』を記事にしたい」というものです。発案した編集部員(この文章を書いている記者です)はいわゆる実話怪談を愛好しており、同時にオーラルヒストリーに強い関心を持っています。そのこだわりから、当初は聞き書きをそのまま掲載する予定でした。しかし、最初の聞き書きを読んだほかの編集部員たちから出た感想は、「面白いけど怖くない」でした。
「怖い話」とは何でしょう?
正直に言って、記者は怖がりたくて実話怪談を読んでいるわけではありません。求めているのは、「語り手にとっての現実」の面白さと、その固有性です。「本当に幽霊はいると思うか」というような問いには全く興味がありません。ただ語り手の視点から「不可解だ」と判断されたできごとが「心霊現象である」と認識されるとき、幽霊は確かに「実在」するのだと思います。この「語り」こそ、語り手にしかとらえられない「語り手にとっての現実」をのぞく行為であり、記者にとっては最も好奇心を掻き立てられるものです。
今回、記者は「怖くなくてもこれが『リアル』なんだからいいじゃん」と暴れかけましたが、編集長に「読者のことを考えてほしい。少なくとも私は怖がりたくて怖い話を読んでいる」と諭され、涙を飲んで編集版を作ることにしました。細かい言い回しを直し、口語表現をいくつか書き言葉に置き換え、語り手から後で聞いた時系列のズレや補足情報を足し、さらに実際の聞き書きに登場した宮司の説明をカットしています。「話をより怖くする」ことを目的とした大きな編集が加わった時点で、記者の理想形からは大きく外れていますが、確かに後半を大きく編集したほうが「怖い」のです。
これまでたくさんの実話怪談を読んできましたが、「実はこのビルでは、かつて会社に恨みを持ったサラリーマンが自殺をした事件が起きていて……」などと妙につじつまの合うような解説が入ってくるタイプの話は、「嘘くさいし怖くないし、つまらないな」と思うことが多々あります。実際に語り手がオチをつけて語り、この話を「現実」として受け取っていたとしても、嘘くさい印象は消えないのです。
これはおそらく、「霊現象が起きる→起きた原因はこの世に未練のある死者でした」という物語を分節する作法がステレオタイプすぎるため、「すでにある怪談の語りに影響を受けすぎているのではないか」と感じられたからだと考えています。怖さは「分節できなさ」と直結しているのではないでしょうか。
繰り返しますが、記者は「リアル」な怪談が好きなので、その語り手固有の視点から分節されているならば説明的な怪談であっても大好きです。しかしそのような語りは、「怪談」であっても「怖い話」ではないのかもしれません。
長い前置きになりました。以下には、編集前の聞き書きを掲載します。少し読みづらいですが、こちらが記者の「理想形」です。ぜひ読み比べていただいて、差分も楽しんでいただければ幸いです。あなたはどちらの怪談が好きですか?
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やっぱりそうなのか……と思ってしまう部分も。