「レイトン」シリーズや「妖怪ウォッチ」などの大人気シリーズを生み出したレベルファイブがスタジオジブリとの協力でリリースしたゲーム「二ノ国」シリーズが映画化、8月23日に全国公開されます。
同作は、レベルファイブの日野晃博さんが製作総指揮/原案・脚本を務め、監督を「おもひでぽろぽろ」の百瀬義行さん、音楽を「千と千尋の神隠し」の久石譲さんが手掛ける注目のアニメーション作品。一ノ国(現実世界)と二ノ国(魔法世界)という影響を及ぼし合う2つの世界を舞台にした世界観はゲームのとおりですが、一ノ国の舞台が日本(東京)になっていること、また主人公も、一ノ国では秀才ながら車イスで生活している高校生の“ユウ(CV:山崎賢人)で、幼なじみでバスケ部のエースの春(CV:新田真剣佑)とハルの恋人コトナ(CV:永野芽郁)との三角関係というラブストーリー要素が見られる一作となっています。
これまで、レベルファイブ作品というと、クロスメディア戦略が通例でしたが、今作は、そうしたアプローチではなく、映画を作るために作られた設定が軸になっているのが特徴。「本当に良い作品に仕上がった」と話す日野さんに作品に込めた思いや狙い、そこにはどんな挑戦があったのかを聞きました。
最初は“王宮ミステリー”だった映画「二ノ国」、脚本を書き直す契機になった久石譲の一言
―― レベルファイブ10周年記念作品として2010年にリリースしたゲーム「二ノ国 漆黒の魔導士」。ユーザーの声に押されて続編がリリースされるなど、レベルファイブとしても珍しいシリーズ作品ですよね。同作の映画を作ろうと思ったきっかけは?
日野 もともとスタジオジブリさんとゲームを一緒に作るということで、「ゲームだけじゃなくて映画もやりたい」というのは最初の段階からみんなの頭にはありました。でも、ジブリさんが相手、かつ、映画をやすやすと作れるわけがないというのもあり、まずゲームを一緒にやっていくのが大事だったので、その思いにアプローチすることなく月日が過ぎていきました。映画に関しては若干諦めていたんです。
―― 構想10年は必ずしも連続的なものではなかったと。思いに算段がついてきたのは?
日野 2017年なので2年くらい前、ワーナー・ブラザースさんから強く映画化のオファーをいただいて、真剣にその方法を考え始めました。だから、僕ら主導というよりも、作ってほしいという声に押されて動き始めた感じです。
―― 作品が完成しての思いは?
日野 これまでレベルファイブが作ってきた映像作品は、ゲームやグッズといった他のメディアと連動し、コンテンツを売るためにそれらをやるパターンが通例でした。つまり、クロスメディアのコンテンツの1つとして映画があったんです。
でも今回だけは、“映画のために映画を作る”というか、純粋にいい映画を作ろうということで、「二ノ国」という僕らが作ったコンテンツではあるものの、何とも連動せず、内容は他のメディアと絡んでいません。そういう意味で今までにないアプローチで、純粋に映画を作るとはこういうことかと感じながらの製作でした。
―― 普段のゲーム開発と映画で脚本についてアプローチの違いはありましたか?
日野 “お話作り”は基本的にゲームか映画かを問わず、純粋に面白いものを作りたいと思ってやるので違いはありませんが、1つだけ違うのはスケジュールです。
僕らは毎年の年末に映画を上映していますが、その製作スケジュールはすごくタイト。シナリオがあがって製作に入ると、それ以降の試行錯誤は一切なく、限られた時間で作るのが通例です。
でも今回は、そういう縛りがなかったので、少し余裕ある形で、脚本についても1回作ったものを久石さんとの話の中で作り直すなど、いろいろな試行錯誤ができました。
―― 脚本を途中で変更されたのは聞き及んでいますが、その温度感がよく分からなかったんです。もともとのプロットはどういったもので、久石さんとの会話の中ではどんな問題提起があったのですか?
日野 最初は、“王宮ミステリー”を考えていました。王様を殺した犯人を捜すミステリーからはじまって、徐々に国家的陰謀の糸口をつかんでいく、王宮ミステリーからはじまる王国サスペンス。なかなかよいプロットでしたが、久石さんのところに持っていくと、「今まで『二ノ国』のゲームを一緒に作ってきたけれど、『二ノ国』って一ノ国(現実世界)と二ノ国(魔法世界)を行ったり来たりするのが魅力だったのでは?」と言われたんです。
久石さんの問題提起はつまり、「面白ければ一ノ国が関係のないファンタジー世界の作品を作っていいのか?」、もっとかみ砕くと「面白ければそれまでの設定に関係なくやっていいのか?」というもの。久石さんの真意はさておいても、この問題提起には僕も気付かされるものがあり、脚本を書き直させていただくなど、お話作りに関しては試行錯誤ができました。その後も、1回できたものに対して途中でまた手を入れるなど、これまでになくじっくり時間を取ってやれましたね。
―― ゲームを知らず、映画で初めて「二ノ国」を知る層と、ゲームをやってきて映画も見る層、それぞれの楽しみ方みたいなものはありますか?
日野 既存のクロスメディアは、例えば映画だけのキャラクターというのはあまりいなくて、必ず他のメディアに出したりすることを前提に作りますが、今回に関しては、初めて日本が一ノ国としての舞台。映画を作るために作られた設定が軸になっていて、他メディアでの軸を使っていません。もちろん、スタバニア王国など過去にゲームで使われた設定は出てきますが、それは「二ノ国」を形作るための記号というかオブジェクトとしての登場で、基本的には全て映画オリジナルで構成されています。
ゲームを知らなくても楽しめるのが当初からのコンセプトですので、ゲームをやっている必要はなく、何の心配もなく映画を見ていただければと思います。ただ、ゲームをやった人も楽しめるよう、例えば劇伴のフレーズ1つとっても、意図的にゲームと共通にするなど、ちょっとしたお遊びというか、ゲームをやっていると分かる気付きは入れています。でも、映画としては一切前情報は必要ありません。
日野晃博に聞く「なぜ優れたゲームクリエーターは映画に魅了されてしまうのか」
―― やぼなことをお聞きしますが、ゲームクリエイターとして定評のある人が映画的手法あるいは映画そのものに魅了されるケースは過去にも何人か目にしてきました。なぜそうなっていくのでしょうか。
日野 私も含めて誰もが一度は映画に憧れることはあると思います。でも、ちょっと憧れすぎかなとは思います。
―― 憧れすぎ。意外な答えでした。
日野 僕も結果的に映画を作っていますが、僕はゲームが大好きで、ゲームを作れることをとても幸せだと感じます。でも、中にはゲームを作ることをやめてまで、映画を作る方に行きたいという人も確かにいます。でもそれは自分の置かれている幸せな立場を分かっていないのでは? と思うことがあります。
ゲームも映画もそれぞれ独自のよさがあって、特殊な技能がいるゲームを映画のクリエイターが作るのは難しいのです。
―― では、日野さんの中ではどうその折り合いを付けているのですか?
日野 僕の中では両立している感覚があります。クロスメディア作品とはいえもう10年以上連続して映画を作らせてもらってきて、ゲームと映画を同時に作ることになれてきています。
よって、新たに映画を作るときに、特別な思いが浮き立つわけではないですが、一つ一つの作品に毎回新しいコンセプトを入れるようにしていて、映画だからというよりも、新しいコンセプトを持つものを作ることにワクワクします。
僕らはいつもファミリー層が見ることを意識してギャグや物語性を考えますが、映画「二ノ国」は僕的には初めて書いたラブストーリー。レベルファイブの作品として成立させつつ、かつどんな風に展開すればドキドキできるか考えながら作ったので新しい挑戦になりましたね。
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