ゲーセンで燃やした青春があった。ゲーセンで育った恋があった。格ゲーが盛り上がっていた90年代を舞台に、少年少女の成長を描くジュブナイル「ハイスコアガール」(原作/アニメ)。ゲームを愛した2人の少女と1人の少年の、エモーショナルな恋の物語。
アニメ17話は大野晶、矢口春雄(ハルオ)、日高小春が一つの部屋に集結、三角関係というにはいささか厄介な状態で、胃がキリキリする……この感覚は、殺意がぶつかりあうゲーセンのような……!
大野と小春、初バトル
ハルオの部屋が、戦場になってしまった。姉の真と共にハルオ宅を訪れていた大野、イライラが貯まり続けハルオの家に乗り込んだ小春。二人の顔合わせは初ではないのですが(一度ゲーセンで会っています)、双方が恋愛状態を意識しての対面なので、お互い何を言うでもなくひりついた空気に。
一緒に来ていたハルオの友人・宮尾光太郎は全部知っている人間なので、この緊迫感に耐えられず逃げ出してしまいます。鈍感めな真ですらも、妹と小春が恋愛していることを察知。「フケツ…フケツよ…!! こんなドロドロした空間に長くいちゃあ…私の純真な心はどんどんむしばまれていくわ…」とショック。やっぱり一応は、根はお嬢様だったんだなあ
実際、ハルオもこの状況を理解できず混乱していますし、小春は憂いた表情でなんとか攻めようと伺っていますし、大野は目を伏せたままです。誰一人穏やかではありません。
大野と小春の恋愛バトル、明確に火蓋が切られたのはこの瞬間です。今までは2人とも「対・ハルオ」について考えて、自分の心と戦っていました。そして「ハルオが好きだ」という思いを確信したからこその、女のぶつかりあい。
特に小春は、今まで負けヒロイン状態で悲しみのどん底を這い回っていましたが、ここからはがむしゃらです。あの手この手で自分の心を開いて食らいついていきます。
彼女が仕掛けたその一戦目が「バーチャファイター2」でした。サターン版、ジョイスティックが小春で、パッドを選んだのは大野。
「バーチャ2」はガードをボタンで行うゲームな上に、同時押しもあるため、パッドでは不利。
大野の出した通称アキラスペシャルは、正式名は「崩撃雲身双虎掌」。原作のコマンドを見ていただければわかると思いますが、そもそもコマンドめんどくさいです。しかも「入れれば出る」という技ではなく、タイミングがシビアで、入力が正確じゃないと出せない。パッドで入れるような技ではないです。ダメージは特大で、体力の4割以上持っていく。
これを小春とのガチ試合で出せてしまうのが、大野という子。小春だって格ゲー素人ではなく、大野から一本取っている中でのプレイです。
大野なりの、小春への意思表示なんでしょう。
小春「大野さん また対戦してくれる? いつか勝ってみせたい」という言葉に、大野はすぐにうなずきます。一連の流れを見ていると、真がおいおいまじかよと思ってしまうのもムリはない。でもこの言葉は、2人がゲームを愛するゲーマーだからこその発言です。
恋愛でも勝ちたいけど、それよりもゲームでぶつかり合いたい。「矢口くんのことは関係なくプレイヤーとして勝ちたい」という小春のモノローグがあるように、この作品はただの恋愛バトルではない、真剣なゲームを愛するプレイヤーの心理を描いているから、物語に深みがあります。
小春、すねる。ハルオ、染まる。
ハルオが、渋谷で、染まっちまいました。グレたのか?
ここしばらく、ハルオが働き者で親にも優しく努力家で気が優しい、という部分がたくさん描かれていただけに、転落したとしか思えないこの姿はインパクトがあります。
まあ実際のところは、渋谷のゲーセンでできた仲間にもらった服を着ているだけ、というオチ。ゲームのことしか考えない、根っからの真っ正直な人間なので、そうそうゆがみません。
ハルオが渋谷に行ったのは、普段から通っていた溝ノ口で、すっかりヒール扱いされるようになってしまったから。以前の小春VSハルオの試合で、小春に勝利したハルオ。試合自体は素晴らしいものでしたが、彼の言動のデリカシーがなさすぎた。おかげでゲーセンの連中からは目の敵にされています。
問題は、ここしばらくの出来事で小春の心がぐちゃぐちゃになってしまっているということ。普段であればハルオのフォローに回るタイプの子だったのに、今は意地悪を言ってしまって止められない。
二子玉フェリシアが言うように、彼女の「負けヒロイン」な境遇はあまりにもふびん。わからなくはないです。けれども言葉で相手の心を攻め立て、殴ったり蹴ったりしたくなるってのは、悪手だよ、マイナスにしかならないよ日高氏……。それでも止められないから、恋愛は厄介だ。
ハルオのことが好きで、根が優しくて、一生懸命で、努力家だった小春。恋に心かき乱されて変な行動を取ってしまいがちだけど、彼女の根本はそうそう変わっていません。ちゃんと謝りたいし、何より一緒にゲームがしたい。
小春「矢口くんの家も行きづらいしなぁ…どうしてこうからまわりしちゃうんだろ……」
渋谷と溝ノ口
二子玉フェリシアの解説の通り、90年代当時はゲーセン・地域別のチームの対抗戦も盛んでした。小春が通っているゲーセンは溝の口にあるので、いわゆる「溝ノ口勢」になります。公式・非公式あわせて盛んに行われていました。まだオンライン対戦の存在しなかった時代です。
今回の「ハイスコアガールII」の溝ノ口VS渋谷はそういう交流戦よりは、当時のチーマー縄張り争い文化を交えたケンカ的なノリなので、ちょっと特殊かも。小春が「ゲーム好き同士で縄張り争いみたいなことしたくないのに…」と考えるのもごもっとも。純粋な「ゲームの勝負」ではない。
ちなみに溝ノ口から渋谷までは、東急田園都市線急行で15分くらい。まあまあ近いです。
90年代後期の渋谷といえば、コギャル。ガングロに茶髪アムラー、ルーズソックス。チョベリバにMK5。ポケベルにPHS。何もかも懐かしい。
ハルオが見ている渋谷は大層なマッドシティなようで、ギャルにケンカやチーマーのような世紀末感あふれる様子にばかり視線が行っています。もっともそんなはずはないのですが、「やさぐれた俺にはお似合いの街だ」と考えるほどに、彼の目にはねじれた渋谷しか見えていない様子。
アニメでは今回、5巻に収録されているコギャルVSハルオたち男子3人の様子が物語に混ぜ込まれています。怖いコギャル怖い。
原作では渋谷の大人びた人々に翻弄されるヒリヒリ感がありますが、アニメでストーリーがシャッフルされたことで、ギャルに振り回され、それを先生がコテンパンにする描写が入ります。高校生なんてまだまだ子どもだ、というのを描いてくれたのは見ていてホッとします。どこに行こうと、ハルオはハルオのままでした。
ハルオも、小春も大野も、ムリに渋谷に馴染む必要のない子たちばかりです。背伸びしても仕方がない。それより普通にゲーセンで一緒にゲームがしたい。なのに3人とも空回りが止まらず、歯車は食い違うばかり。
渋谷という慣れない土地で、3人は何を見るのか。時代は格ゲーブーム真っ盛り。渋谷編はまだまだ続き、新作ゲームも登場します。
1話試し読み
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