アニメ映画「幸福路のチー」を何としてでも見てほしい「3つ」の理由 空想好きな少女時代と、30代になった私(2/2 ページ)
台湾製アニメ映画「幸福路のチー」が素晴らしい映画だった。何としてでも見てほしい「3つ」の理由を、ここに挙げる。
誰でも多かれ少なかれ、人生を振り返って「うまくいかなかった」「こんなはずじゃなかった」と思ってしまうことがあるはずだ。この「幸福路のチー」では、過去と現在を並行して描く特殊な構成を持って、その普遍的な葛藤や後悔を浮かびあがらせる、ある意味では残酷な作劇になっている。
しかし、物語は最終的にそのままならない人生を、思いもしなかった形で肯定してみせる。それは激動の時代の台湾を過ごした主人公に限らず、世界中の全ての人が共感しうる、これから未来を生きる希望がもらえる結末であった。
全ての物語が集約する、涙腺決壊必至のラストを見届けてほしい。
4年の歳月をかけた労作
この「幸福路のチー」の製作期間は約4年、製作費は約1億8000万円だそうだ。監督のソン・シンインは、まず12分の短編をわずか200万円の予算、大学を卒業したばかりの無名のスタッフたちと共に作り上げた。長編映画化が決まってからは、ソン監督は貯蓄を崩し方々に借金をして制作費を工面。画風も意見も主張も異なるスタッフたちを統率する監督業は、並大抵の苦労ではなかったという。
本編を見れば、その“労作”ぶりは間違いなく伝わる。シンプルにも思える絵柄ながら、キャラクターたちは生き生きと動き回り、現実のシーンはリアルに感じられ、空想のシーンはファンタジックで楽しい。何より、1人の女性の半生を111分という上映時間をたっぷりと使い追体験でき、“ぜいたくなアニメ映画を見た”という多幸感が得られるのが、この「幸福路のチー」なのだ。
同作は東京アニメアワードフェスティバル2018ではグランプリを受賞している他、2019年アカデミー賞長編アニメーションの25作品にも選出されるなど、すでに各所で評判となっている。その評価を信用して、とにかく劇場に足を運んでほしい。
なお、本作は日本語吹替版も上映されており、安野希世乃、LiLiCo、高森奈津美、沖浦啓之(「人狼 JIN-ROH」「ももへの手紙」の監督で知られる)、宇野なおみ(「ホーホケキョ となりの山田くん」の“のの子”役など)といった豪華なキャスティングとなっている。
おまけ:海外アニメ映画をもっと知ってほしい!
最後になるが、2019年は海外製のアニメ映画が小規模であるがいくつか劇場公開(または配信)され、高い評価を得ていたことをご存じだろうか。ここでは筆者が厳選した、絶対に子どもから大人まで楽しめる3本の作品を紹介する。
「羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)」
中国製作。クールだけど間の抜けている美青年と、ツンデレでかわいいケモノの男の子が冒険するロードムービー。まるで「ドラゴンボール」や「NARUTO」のような大迫力ハイスピードアクションも満載。
「ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん」
フランス・デンマーク合作。14歳のお嬢様が行方不明になった大好きなおじいちゃんを探すために北極点を目指す冒険アニメ映画。その旅路がガチ過酷であるがゆえの感動がある。
「クロース」
スペイン製作。Netflixで配信中。自己チューでだらしないおぼっちゃまが争いが絶えない村で手紙配達員の仕事に就く。“サンタクロースの誕生譚”であり、“本当に欲のない行動は人の心を動かす”というメッセージも秀逸。
この他にも、フランスの「ディリリとパリの時間旅行」、イギリス・ルクセンブルク合作の「エセルとアーネスト ふたりの物語」、フランス・ベルギー・カナダ合作「アヴリルと奇妙な世界」なども公開されている。Netflixで11月29日より配信開始となったフランスの「失くした体」や、12月20日公開のアヌシーで観客賞に輝いたアイルランド・カナダ・ルクセンブルク合作「ブレッドウィナー」も見逃せない。
ぜひ、海外アニメ映画の今を知るという意味でも、「幸福路のチー」をまずは見てほしい。未知の歴史とぜいたくなアニメーションが、忘れがたい映画体験になるはずだ。
(ヒナタカ)
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