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今まで愛してきたゲームたちが、あの子を愛するための支えになるのだ!「ハイスコアガールII」24話(1/2 ページ)

ハルオ、大野、小春、それぞれの成長と痛み。

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ハイスコアガール (C) Rensuke Oshikiri/SQUARE ENIX

 ゲーセンで燃やした青春があった。ゲーセンで育った恋があった。格ゲーが盛り上がっていた90年代を舞台に、少年少女の成長を描くジュブナイル「ハイスコアガール」(原作アニメ。ゲームを愛した2人の少女と1人の少年の、エモーショナルな恋の物語。

 23話、矢口春雄(ハルオ)大野晶がついに大阪での「スパIIX」大会で因縁の対決を迎える。これに勝ったら、ハルオは大野に告白すると決めていた。そして大野は勝ったら、ハルオの元から去る決意をしていた。2人の行く末やいかに。


ハイスコアガール (C)押切蓮介/SQUARE ENIX・ハイスコアガールII製作委員会


勝負の行方

 ハルオと大野の対戦、結果はハルオの負けでした。

 ただ、今までのような「やっぱ大野つええ」という漠然としたものではなく、2人が死力を尽くした結果の勝敗なのがきっちり描かれています。


ハイスコアガール 誰が邪道だと言った? 正攻法だ(24話) (C)押切蓮介/SQUARE ENIX・ハイスコアガールII製作委員会

 ハルオはガイル。大野はザンギエフ。普通に考えれば、強い対空技を多く持ち、スキが少ない飛び道具を持つガイルのほうが圧倒的有利。しかし大野の手にかかると、キャラ差による有利不利は意味をなさなくなります。

 そこでハルオが取ったのは、徹底した待ちガイル戦法。斜め後ろにソニックブームを溜めながら、飛んできたらサマーソルトキックとリフトアッパーで迎撃する、という要塞戦法。消極的で嫌われやすいプレイスタイルです。今までもハルオはこのスタイルで戦い、汚いとか、恥はないのかとか言われてきましたが、今回のハルオは待ちガイルに誇りすら持っています。

 相手は大野。たとえどうあろうとも勝つためにはなんでもする。なりふり構わず全力を出すのが礼儀というもの。ハルオは完璧な防御の壁を作ります。

 こうなるとザンギエフ側は、一旦転ばせてから一気に起き上がりを攻めて殺し切るしかない。ガイルはしゃがみ中キックの牽制も面倒なので、ザンギエフ側は中距離が一番きついはず。


ハイスコアガール このシーン、投げキャラに負けた経験ある人なら恐怖感伝わってくると思います(24話) (C)押切蓮介/SQUARE ENIX・ハイスコアガールII製作委員会

 ザンギエフが飛び、対空技で勝ちを確信したハルオを、恐怖が襲いました。とあるテクニック(ダイエットスクリュー)でハルオの攻撃を避けて、がっちり掴んでくるザンギエフ。投げキャラは投げ間合いに入った時、ガード不能の攻撃である「コマンド投げ」を高速で出すため、その圧力たるや恐ろしいものがあります。近づくのが難しいから大変なんですが、吸い込み間合いまできたら、打撃と投げの二択で相手はハラハラさせられます。大野はその相手の動揺を絶対逃さない。


ハイスコアガール こんなん大会の大一番でできるなんて思わないよ!(10巻) (C)CAPCOM U.S.A., INC. ALL RIGHTS RESERVED.

 「ダイエットスクリュー」は実際にあるテクニックです。ザンギエフはジャンプ強Kを空振りさせることでひねりが入り、やられ判定がずれることである程度の対空技をかわすことができます。しかも少し前に出るため、通常時より広い吸い込み範囲で投げる事ができます。タイミングと間合いを熟知した人のみが使える高等テクニックです。

 重要な大会の大一番でこんなの使われるなんて想像だにしない。完膚なきまでに打ちのめされてしまった、とハルオが感じるのも無理はない。こんな負け方したらしばらくトラウマでゲーム触れなくなりそう。


ハイスコアガール ハルオ、心が折れる(24話) (C)押切蓮介/SQUARE ENIX・ハイスコアガールII製作委員会

 ハルオの「告白をする」という夢は砕け散ります。先日のベッド同衾の件などを考えると、ここで「女心を分かれ」と言いたくもなりますが、プレイ内容が極端だったこともあり、全力の拒絶とも見えてしまう。

 本当は拒絶ではなく、日本を去ることのけじめでもあるのですが…ダイエットスクリューには、大野の複雑な感情が込められていました。


小春の恋の終わり

 日高小春はしばらく大野とハルオの恋愛描写が続いていたのであまり登場していませんでした。彼女は先日の大野との勝負で、大きな成長を遂げていきます。


ハイスコアガール そういえば中学時代も髪の毛短かったですね(24話) (C)押切蓮介/SQUARE ENIX・ハイスコアガールII製作委員会

 長かった髪の毛をバッサリと切った小春。失恋したから…というか自分の思いをリセットするための大胆な行動に見えます。こころなしかその顔はすっきりしている。

 実は大野VS小春の試合で勝ったのは小春。その勝負が終わって、大野の恋に苦しむ顔を見て、はしゃぐ気になんてなれるはずがない。

 小春「あの対戦で大野さんの想いが痛いほど伝わった…試合には勝ったけど…勝負には負けたって思ったよ…」「引き下がるしかないじゃん 私みたいなおじゃま虫」

 発言一つ一つが痛々しい。もちろん引き下がりたいわけなんてないし、あまりにもみじめ。ただ気づいてしまった現実は残酷だ。

 ハルオと大野の2人の恋愛は、お嬢様家庭のしがらみの問題などもあって、非常にイレギュラー。その分結びつきも強い。でもハルオが好きだと追いかけ、できること全てを行い、なりふり構わず恋に戦っていた小春。茨の道を、愛のみで走っていました。だから全てをなげうったにも関わらず負けたことを認めるしかない現状は、少しでも幸せになってほしいと思わされるほどの、やりきれないものがあります。


ハイスコアガール 叱咤できるのは小春しかいなかった(24話) (C)押切蓮介/SQUARE ENIX・ハイスコアガールII製作委員会

 ハルオが、大野から以前あげた指輪を突き返されたことを小春に告げ、もう終わったと凹んでいるところに、思いっきりバチーン。

 小春「やっぱり矢口くんは女の子の気持ちがぜんぜんわかってない 大野さんの気持ちは逆でしょ!? それを持って迎えにきてほしい意思表示じゃん」「行って矢口くん 自分の意思に忠実に生きるのが気持ちのいい生き方って あなたが言った言葉よ 今さらそれを曲げないで」

 今まで心のガイルさんが言っていたであろう助言を、片思いが終わり傷心中の女の子に言わせるという、あまりにも酷な展開。だからこそ、ハルオのこころに響きまくります。母親ですらも壊せなかった彼の心の壁は、彼を好きだった小春の、苦しみも混じった声で初めて壊れました。


ハイスコアガール 完全に恋が終わった瞬間(24話) (C)押切蓮介/SQUARE ENIX・ハイスコアガールII製作委員会

 ハルオが自主的に選択し、小春の横を走り抜けていくシーン。マンガでは彼の背中を目で追っていますが、アニメでは彼女は棒立ちのまま。小春の心の痛みがより強調されることになりました。ハルオも小春の痛みを気にかけないわけはないんですが、自らの選ぶべき道を理解し、駆け出します。

 小春は自分で彼の背中を押したし、「これでいい」と理解・納得して言っているはずです。同時にそれは、自分の恋を自分で終わらせたことにもなりました。青春って、なんてえげつないんだろう。


ハイスコアガール 空の青(24話) (C)押切蓮介/SQUARE ENIX・ハイスコアガールII製作委員会

 小春の後ろに広がる青空と入道雲が印象的。彼女の中高生時代の恋愛は終わりを告げ、心のモヤモヤは全て吹き飛んだかのよう。アニメで追加された泣きじゃくる姿が胸に刺さります。

 このシーンの影響もあって、今でも小春好きのファンはかなりたくさんいます。「いい女」すぎる彼女、実は2019年12月25日発売号の月刊「ビッグガンガン」で連載が始まる「ハイスコアガール ダッシュ」の主役として、アラサーの姿で登場します。

 「彼氏いない歴=年齢」だそうです。今回の大恋愛は彼女が大人になった時、どんな影響を与えていったんだろう。小春、幸せになってくれ。


愛するゲームが愛する者へと背中を押す


ハイスコアガール ゲーム好きが涙してしまうシーンの連続(24話) (C)押切蓮介/SQUARE ENIX・ハイスコアガールII製作委員会

 もう手遅れな、日本を発った大野の元に行くべく原付を走らせるハルオ。彼が進む先を、無数のゲームキャラクターが支えて道を作っていく様子はめちゃくちゃに熱い。絶対にありえないファンタジーなシーンではあるのですが、自分が愛してきたゲームのキャラクターが脳裏をよぎって、人生を支えてくれた瞬間、ゲーマーならあると思います。経験したことがある人なら、かなりぐっとくる。

 大好きなもの、愛してきたものは、人生の岐路でなにかしら背中を押します。愛したもの全てが積み重なって、押してくれます。今回の出来事は奇跡ではあるんですが、彼が積み上げてきたものなのであれば、必然です。


ハイスコアガール やっと言えた(24話)

 今まで優柔不断で、自分のことをよくわかっていなくて、鈍いがゆえに人を傷つけてしまったこともあったハルオが、大野に心の全てを正直に吐露。

 ハルオ「お前のことが好きだ のたうちまわるくらい大好きだ …お前にはこれからも負け続けるだろうよ…でも俺はそれでいい 一生…お前に挑み続けてぇ 張り合っていきてぇんだ ずっと大野のそばで…ッ」


ハイスコアガール あの時の指輪が縁をつなぐ(24話) (C)押切蓮介/SQUARE ENIX・ハイスコアガールII製作委員会

 小道具として、小学生時代に2人が変なゲーセンで取った指輪が最後まで大事に使われているのが本当に見事。思い出を大切にしていくタイプのハルオにとって、そして大野にとって、非常に大切なアイテムです。今回は一度ハルオに戻されてから再度、自分の意思で大野に渡すことで新たな意味を付与しているのがうまい。

 今まで自分の気持ちが整理できず、きちんと伝えることができなかった男が、大野という一人の女性への愛に気づき、本人ならではの「がむしゃらに進む」初心に戻って、大きな成長を遂げました。ただ、これはエンディングではありません。ここからが大変です。


ハイスコアガール ここからが男の見せ所だ(24話) (C)押切蓮介/SQUARE ENIX・ハイスコアガールII製作委員会

 思いは伝えた。思いは受け取った。でも渡米は無くなるわけじゃない。お互いが待ち、再び会うために努力しないといけない。2人はさらなる苦しい愛の道を歩むためにスタートラインに立ったばかりです。


ハイスコアガール

 ゲームには大抵エンディングがあるのもですが、ゲームセンターにある類のゲームには真の終りはありません。

 格ゲーなら強豪に勝つため、どこまでも自らを研鑽することができます。アクションゲームやシューティングならスコアを稼いで、どこまでも技術を磨き続けられます。

 上を目指す限り、永遠にゲームは終わりません。

 この作品には、大野と小春という2人の「ハイスコアガール」が登場しました。2人の苦しみと恋心の戦いは、一つのステージエンドを24話でそれぞれ迎えました。でもそれは序章です。生きていくために、ゲームも人生もハイスコアを狙ってさらなる苦しみと向き合い続けなければいけません。

 そんな「ハイスコアガール」2人と向き合ってきたハルオ。大野に勝てなかったハルオは、言うなれば「ハイスコアで二番目に名前が並んでいる状態」が延々と続いています。だから小学生時代は目の上のたんこぶでしたが、高校に入って彼女の強さを認め、誇りに思うようになりました。

 彼もまた、人生のハイスコアを追うものの一人。彼は向ける感情が愛に変わった大野に張り合う人生を選びます。


ハイスコアガール あの子は今も、目の前でハイスコアを塗り替える(24話) (C)押切蓮介/SQUARE ENIX・ハイスコアガールII製作委員会

 恐らく大野はこれからもハルオが自分を上回る瞬間を与えないでしょう。それも彼女の愛の形です。

 目を前を走り続けるハイスコアガールを追いかけ、彼女と全身全霊でゲーム内で心をぶつけあうことが、彼の愛です。




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