大好きなアイドルがいる。彼女は生きているだけでファンサ。だから人生を賭けて推します! 「推しが武道館いってくれたら死ぬ」(原作/アニメ)は地下アイドルChamJamの市井舞菜と、彼女を命がけで推すドルオタえりぴよを描いた、情熱的でコミカルな物語。
3話は、アイドルとファンがどのような距離を保つのが適正なのかで苦しむ回。双方は特別に仲良くできるのか? オフの時出会ったらどう接すればいいのか? 夢の空間で幸せを与える「アイドル」だからこそ、感じてしまう苦味もある。
傷つきやすいガチ恋勢
えりぴよのオタク仲間、基(もとい)は、ChamJamの松山空音推し。クールな顔とショートカットがかわいい人気の高いメンバー。基は「彼女を養うのが夢」だと語ります。おや、どういうこと…?
基は「リア恋勢(リアコ)」や「ガチ恋勢」と呼ばれるタイプのファン。実際にアイドルと恋愛がしたい、という思想の持ち主です。
基がアイドルと直接仲良くなりたいというタイプに対し、ドルオタ仲間のえりぴよとくまさは、頑張っているアイドルが好きで応援したい、というタイプ。近づくなんてとんでもないありえない。だから基には断言します。基「え? 普通じゃないんですか? 違うんですか?」えりぴよ・くまさ「相容れぬ!!」
えりぴよとくまさは、アイドルの私生活には介入してはいけない、と考えています。生まれ変わったら同級生になりたい、くらいの妄想はしますが、それも空想遊戯。今の状況でオフのアイドルたちに接触する気はさらさらありません。
一方で基は、空音がテニス部に入っていたというだけで一喜一憂(チャラいという偏見があるから)。知ることのない彼女のプライベートを考えては、ただただ杞憂するばかりで苦しそう。ガチ恋勢、なんて生きづらいんだ。
くまさが2話で、ガールズフェスタで必死な五十嵐れおを応援しにいって、彼女の力になれたことで涙したのとかなり反応が違います。えりぴよ・くまさ・基、3人のオタクのアイドルとの距離感は、それぞれ大きく異なっているのが次々と描かれます。
同担への悩み
そんな基には、かわいい妹がいました。名前は玲奈。特にドルオタではありませんが、ガールズフェスタに基と一緒に行ったことで、舞菜に興味を持ったらしい。
ChamJamのイベント現場に女の子が来るのはめちゃくちゃ珍しいことらしい(えりぴよ談)。あんまり表情が変わるタイプじゃないので思考は読みづらいですが、だからこそ舞菜が気になっているというのはウソ偽りない正直なところなんでしょう。
玲奈「あの、私、アイドルのライブってはじめて見に来ました」。初めて来てくれた、女の子。これは舞菜側としても当然うれしい。舞菜「女の子に応援してもらえるのうれしい! これからも来てね! 待ってるね!」この発言、えりぴよにしたことがない。
では舞菜大好きえりぴよは、新たなる舞菜推し少女が現れたことでどう感じているかと言うと、そりゃもうほくほく顔です。舞菜がバリバリ人気になってほしいと願っている彼女です、大歓迎なはず。
舞菜仲間ができてテンション急上昇中。早口で舞菜語りをする面倒くさいオタクと化します。そういうとこやぞえりぴよ。
彼女に対して舞菜は、ある理由でいつも塩対応(そっけないこと)です。ところが玲奈が舞菜のところにいくと様子が違う。
今までえりぴよが見たことがないくらい楽しそうな舞菜の姿が。これが「神対応」というやつ。もともと舞菜は他の(たまたま握手に並んだ、推しが別の)ファンからは神対応で知られていました。いざ目の当たりにしてみると、えりぴよとしては大分複雑です。
えりぴよ「今まで舞菜推しが実際にいなかったから分からなかったけど…なんか…私以外に笑いかける舞菜を見るのいやだ」
「舞菜に武道館に行ってもらいたい」と本気で願うえりぴよ。自分の力だけではどうにもならない、もっと人気になってもらわないといけない、と理性の部分では理解して祈っています。しかし推し被りにより起こる嫉妬に気づいて、悩んでしまいました。
同担歓迎(推し被りがうれしいこと)と同担拒否(推し被りが苦手なこと)の感情が入り交じってしんどいえりぴよ。今回のモヤモヤで、彼女は舞菜に対してどういう立ち位置でありたいのか、あらためて思い知らされることになります。
ドルオタとしての彼女は、多少暴走気味とはいえ、アイドルとは一定の距離を取って「一人のファン」であろうと努めてきました。だから舞菜に塩対応されても全然めげない。無私の愛をささげており、本人もそれは苦ではなかったようです。だから今回の心のゆらぎに関しても「わたしの心はいつの間にこんなにも狭くなっていたんだ…」と自戒しています。
正直周囲の人がみんな知っているほど塩対応されていたら、このくらい思っても全然バチが当たらないんだけれども。そこはえりぴよなりの誇りがあるようです。
玲奈はあまり登場回数が多いキャラクターではありませんが、えりぴよの心を揺り動かし浮き彫りにする重要な存在になっていきます。
アイドルとの距離
舞菜の方の心理は、さらに複雑です。以前れおが話していたように、一定の誰かを好きになることは、アイドルとしてはファン全体に対しての裏切りになりかねない。でも舞菜は自分に愛を注いでいるえりぴよに、ちょっと特別な感情を抱き始めてしまっています。今回もえりぴよが玲奈と仲良くしているのを見て、ちょっとモヤモヤしていたくらい。
2人の悶々は、偶然プライベートで出会ってしまったときに形になります。
電車の中で推しアイドルとファンが出会った場合、どうすればいいのか。えりぴよ的には、こんなにレアな瞬間はない。ガン見したくなってしまうというもの。天使。
でも彼女は本当にえらい。自ら車両を変えることを選びます。これがえりぴよが舞菜に対して守ろうとしている距離感です。夢の時間の外では、むやみに触れない、踏み込まない。ステージと握手会での接触のみの関係であるべし。
舞菜側はまだそこを割り切れていないからつらい。えりぴよ相手にぎこちなくなってしまうのは、握手会で塩対応してしまうのは、意識しすぎているから。空音が基に対して受け流しつつサービスをして笑顔を見せるのとかなり違います。
えりぴよ「相手が人間だからじゃない。相手が舞菜だから…だから怖いんだ」
えりぴよと舞菜の距離は、縮まってはいけないのが明示される、残酷なシーン。その線引があるからこそワクワクさせられる魅力的な関係なのですが、叶わぬ片思いをする推し活動は楽しくも、しんどい。
空気を読まない子、優佳
今回の握手会のシーンでは、ChamJamのメンバー寺本優佳の存在感が目立っていました。公式では「空気を読まない自由な子」と称されています。突拍子もない発言と、読めないセンスの不思議ちゃん。ChamJamの空気を活性化させるムードメーカー的な存在になっています。
彼女は後列組。人気はないわけじゃないけど(舞菜に比べると)、他のメンバーほどじゃない。そこで彼女が握手会中叫んだのが「優佳のここあいてますよ!」発言。オードリー春日かよ!
物怖じしない彼女のスタイルは、おそらくそういう性格・キャラで、あんまり戦略的ではないように見えます。優佳は今後もコミックリリーフとして重要な存在になっていきます。マイペースさが一切変わらない彼女の性質は、人を引きつける才能だと考えると、突然ビッグになりそうな匂いがプンプンします。
もうちょっと話が進むとChamJamのメンバーの個性がさらにはっきり出てきて、群像劇的面白さが膨れ上がってきます。ぜひChamJamから推しを探して、えりぴよたちと一緒に楽しもう。
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