「無線」で格闘ゲームのネット対戦をするのはマナー違反か――そんな議論がTwitter上で広がっています。
論争の発端とみられるのはEVO2020のメイン種目にも採用された「グランブルーファンタジー ヴァーサス」(以下、「GBVS」)の発売日が近づいたこと。さらに、最新話が公開される度にWebを騒がせる「ゲーミングお嬢様」の第4話で無線のプレイヤーとネット対戦することになった場合の過酷さが描かれたことも、今回の論争に影響を与えていると思われます。
フレーム単位の繊細な操作が要求される格闘ゲームでは、たった数フレームのラグが対戦バランスに大きな影響を与え、戦術を変える必要が出てくるケースも少なくありません。そのため、格闘ゲーマーの間では「回線が安定する有線接続でネット対戦をすること」が推奨されており、現在の格闘ゲーム界で覇権を握っている(と言っても過言ではない)「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」を手掛けた桜井政博さんも「通信環境を安定させるために有線LANの使用をお願いします」という趣旨の発言をしたことがあります。
ちなみに、さらっと同じ編集部のゲーマーに話を聞くと「桜井さんが言ってるんだから間違いない」とか「無線は死刑でいいでしょ」とか言われてしまい「ゲーマー怖っ……」と思ったのですが、思い返せば私自身もラグい状態で戦いを挑んでくる投げキャラ使いに対してはゲーミングお嬢様と同じくらいのテンションでキレ散らかすことがありますし、ひどいときには投げキャラを使っているというだけでキレ散らかすことがあるので、私には彼らを非難する権利はないのかもしれません。
一方、有線接続は無線よりも煩わしいのは事実ですし、自宅の環境によっては無線接続しかできないケースもありえます。また、有線接続であれば絶対に回線が安定するとは言い切れず、無線回線であっても環境次第では有線接続と大差ないラグでネット対戦ができる場合もあります。ネット対戦でラグを感じることは確かにありますが、ほとんどの場合「ラグい相手だから無線」や「快適だから有線」とは断定できません。そのため、快適な対戦環境を目指す際に「無線か否か」だけを論点にするのは、本来は不毛なのかもしれません。
そして何より、「このマナーが、格闘ゲームに新規で参入するプレイヤーの障壁になってはいけない」ということも忘れたくないところです。
格闘ゲームは、新規プレイヤーが参入しづらいジャンルとして先鋭化していった2000年代初頭ごろ、「新規タイトルも出ず、プレイヤーがどんどん減少し、大会も開かれなくなっていく」という冬の時代を経験しています。この反省を踏まえ、現在の格闘ゲームコミュニティーは新規プレイヤーを取り込むための努力を続けている真っ最中です。こうした動きの中、人気スマホRPG「グランブルーファンタジー」を題材にした今作がリリースされるのはコミュニティーにとってまさに好機であり、格闘ゲーム沼へ新規勢を流入させる千載一遇のチャンスなのです。
先述したように、筆者自身も対戦中のラグにブチg……頭を悩ませた経験はありますが、今回の件ではこういった理由で「無線で格闘ゲームをするのはマナー違反である」と啓蒙するのはちょっと抵抗がありますし、「グランブルーファンタジー」を長らく愛し、GBVSを楽しみにしてきたプレイヤーたちを「無線であること」を理由に排斥する権利はだれにもないはずです。実際、今回の件が広まり始めたことで「有線前提とかめんどくさい」的な意見を持つ人が散見されますが、こうした流れを見ると、ただの格ゲーおじさんである私も「貴重な新規プレイヤーが……」と思わずにはいられません。
ちなみに、発売日である2月6日の0時から4時までぶっ通しでGBVSをプレイしたのですが、このゲームはガチの格闘ゲーマーはだけでなく、ライトに楽しんできた格ゲーマーや「グランブルーファンタジー」のファンも楽しめる(というかそっちがメインかもしれません)作りになっています。いずれにせよ、新規プレイヤーはガチ勢が格闘ゲームを楽しみ続けるためにも必須の存在ですから、まずは無線かどうかにこだわらずに楽しんでみて、ガチで楽しみたくなったら有線を検討する……というくらいで良いのではないかと思われます。
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