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ミツバチの社会から私たち人間が学ぶべきこととは

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 3月8日は「3=みつ 8=はち」で、「みつばちの日」。 全日本はちみつ協同組合と日本養蜂はちみつ協会(現、一般社団法人日本養蜂協会)が制定しました。ミツバチは、およそ一万年前の新石器時代の洞窟壁画にも採蜜の様子が描かれているほど遠い昔から人類に利用されてきました。5000年前には養蜂もはじまっていたとされ、人類にとってもっとも重要な家畜昆虫だといえます。

 ミツバチが人にもたらす恵みは、蜂蜜は言うまでもなく、蝋燭や医療製品、化粧品、美術工芸品と幅広い用途を持つ巣の構築材の蜜蝋、花粉から精製されるローヤルゼリー、優れた防腐・殺菌効果があるプロポリス…さらには世界中の農作物の主要農産品の70%の受粉をミツバチが媒介していると言われ、人間にとってミツバチは計り知れないほどの「大恩虫」なのです。

必殺「蜂球」の術!最強の敵に立ち向かうニホンミツバチの特殊能力


花粉籠に花粉団子をつけています

 ミツバチはミツバチ科ミツバチ属に属し、世界には11種、日本には在来種でトウヨウミツバチ(東洋蜜蜂 Apis cerana)の亜種・ニホンミツバチ(日本蜜蜂 Apis cerana japonica)と、明治時代に養蜂のために移入されたセイヨウミツバチの亜種・イタリアン(Apis mellifera ligustica)が生息します。

 生息と言ってもセイヨウミツバチはほぼ全てが人に飼育されている家畜で、一部の離島を除き野生化していません。日本には、世界最強のハチとも言われるオオスズメバチ(大雀蜂 Vespa mandarinia)が分布しており、幼虫のえさとするためにミツバチの巣を襲撃して、成虫、幼虫を殺傷して全滅させてしまうからです。

 セイヨウミツバチは、スズメバチが集団で巣を襲撃すると、入口に集結して果敢に戦いを挑みます。スズメバチに複数で飛びかかり、取り囲んで体で締め付けて窒息させようとします。この攻撃は、ヨーロッパやアメリカ大陸に分布する小型のスズメバチには有効なのですが、大きくて力の強いオオスズメバチにはふりほどかれてしまいます。

 オオスズメバチのいないヨーロッパ由来のセイヨウミツバチには、オオスズメバチに巣を襲われた際の対抗手段がなく、人間に守られなければたちまち巣ごと餌食になってしまうのです。

 ところが、オオスズメバチと共生しなければならないニホンミツバチは、進化の過程で彼らの攻撃を跳ね返す有効な技を発達させました。

 ニホンミツバチは、先鋒のオオスズメバチが巣の入口に近づくと、慎重に周囲に集結し、オオスズメバチと距離をとって円陣を作るようにとり囲みます。オオスズメバチが、円陣のうちの一匹に飛びかかると、その一匹は犠牲になりながら、警報フェロモンである酢酸イソアミルを放出します。すると、他のニホンミツバチが一斉にオオスズメバチに飛びかかり、あっと言う間にオオスズメバチを包み込む「蜂球(ほうきゅう)」を形成します。ニホンミツバチたちは羽根をふるわせて体温を上げ、5分ほどの時間で蜂球内部の温度と湿度を上げます。蜂球の内部はほぼ46℃、湿度90%に達します。さらに4%の濃度の二酸化炭素を含む呼気を排出し、とらえたオオスズメバチの運動機能を低下させます。高温・高湿度・低酸素の状態にして、オオスズメバチの命を奪うのです。

 セイヨウミツバチも蜂球攻撃をすることは知られていますが、セイヨウミツバチの蜂球の内部温度は43〜44℃ほどとやや低く、オオスズメバチの致死温度に到達し得ないといわれています。これは、平常時の体温が、ニホンミツバチのほうがセイヨウミツバチよりもかなり高い、ということが関係しているようです。

誤解されがちなオスミツバチ。じつはすさまじい生き様を見せる勇者だった


分蜂したニホンミツバチの集団。この後定住の場所を見つけて新たな巣を形成します

 アリやシロアリなどと同様、システマティックな役割分担で高度な社会性を有するミツバチ。一つのコロニーは数千から数万匹の集団で形成され、その中で卵の出産を担う生殖機能が発現するメスバチ(女王蜂)はたった一匹。コロニーすべての個体がこの一匹の女王蜂の息子・娘です。オスバチは、未受精卵から発生する半数体(一倍体)で、コロニー内の10%弱の数百から千余りほど。それ以外の90%が、生殖機能が発現しない(特殊なケースで発現し、未受精卵からオスバチを生む場合があることも知られています)メスバチ=働き蜂で占められています。オスバチには生殖機能がありますが、コロニー内の女王蜂=母親(というよりも分身でしょうか)とは交尾しません。

 ミツバチの交尾は、晴れて風が弱い春の日中、あちこちの別のコロニーから集まった女王蜂、オスバチが集結して、飛翔しながら行われます。巣内の「王台(クイーンセル queen cell)」と呼ばれる特別な釣鐘型の育房で育てられ、その年に生まれた新女王は、羽化後1週間ほど経つとローヤルゼリーの摂取をやめて体重を落とし、巣の外の空へと飛び立ちます。

 オスバチも同様に、羽化後数週間ほど経って繁殖期に入ると、たびたび外に出ては、別のコロニーの女王蜂を探す行動をします。上空の特定の区域で、各所から無数のオスバチが集まり、女王蜂に群がります。最初に女王蜂に取り付いたオスバチは、背後から女王蜂を追いかけ、女王蜂の刺針室に交尾器を差し込みます。するとなんと破裂音とともにオスの交尾器は反転して全体が外に飛び出し、交尾器の付属体である交尾標識(mating sign)のみを女王蜂の腹部に残してオスバチの本体は分離し、絶命して地上に落下します。

 生涯ただ一度きりの交尾は、自身の命と引き換えの行為なのです。「怠け者」「無能」などと、洋の東西を問わず貶められるオスバチですが、この一瞬のために生きる彼らはいじらしくもあり、また格好よさすら感じられます。

 女王蜂には、次々に別のオスバチが群がり、前のオスが残した交尾標識を外しては同様に交尾をして絶命します。オスが残すこの交尾標識の意味は不明ですが、ギフチョウなどに見られるような他のオスとの交尾を阻害するためではなく、多数のミツバチが入り乱れる場で、女王蜂の存在を目立たせ、誘引する役割を担っていると考えられています。女王蜂はこの一度の繁殖飛行で、平均8回の交尾をし、一億近い精子を受け取って帰巣し、受け取った精子を受精嚢管に収め、巣に戻ってから毎日1500〜2000個もの卵を産み続けるのです。

 翌年、再び春に次世代の女王蜂の幼虫が育ち、羽化が近くなると、女王蜂と全てのオスバチ、働き蜂の半分が、新たな王国を求めて飛び立って(分蜂)いきます。

すがすがしい働き蜂の昇級システム


働き蜂の仕事は多岐にわたります

 一方、働き蜂=メスバチの仕事は数多く、一匹の寿命は三ヶ月ほどですが、その間めまぐるしく立ち働き続けます。

 働き蜂が羽化すると、まずは巣内を清潔に保つ「掃除係」を担当。続いて幼虫の世話をする「ベビーシッター」を任されます。

 その役をしばらく受け持った後には、蜜蝋(Beeswax、Cera alba)で巣作りの作業を担う「現場監督」になります。蝋分泌腺から蜜蝋を吐き出し、あの六角形の房室が連なるハニカム構造の巣を作るのです。蜜蝋は優れたワックス成分として、蝋燭、化粧品、医薬品、クレヨンや工芸品の素材として数多くの用途を持ちます。

 やがて、花粉や花蜜を運んでくる外勤の蜂から花粉や蜜を受け取り、蜜ツボに収めて蜂蜜作りに専心する「マイスター」へと昇進します。外勤蜂は蜜を胃に貯めて持ち帰り、マイスター蜂に口移しで託します。マイスター蜂はこの蜜液を薄く引き延ばして、水分を蒸発させます。この過程で唾液の酵素が混じり、ショ糖である花蜜がブドウ糖・果糖へと変化します。さらにこれを蜜ツボに入れ、羽根で仰いで濃縮し、花蜜の八倍以上の糖度の蜂蜜へと変化させます。

 花粉も、空いた蜜ツボの中に落として頭で詰め込み、潰して貯蔵します。これは、ミネラル、蛋白質、ビタミンの豊富な食事として蜂達が常食します。この花粉が働き蜂の体内で分解され、下咽頭腺の分泌液と混ぜられて精製されたものがローヤルゼリーで、女王蜂の育成と産卵のエネルギー源として使用されます。女王蜂以外の働き蜂やオスバチも、幼虫時代にローヤルゼリーを数日間与えられます。

 そして最後には、いわゆる外勤の、巣の外に出て花粉や蜜を集めてきたり、外敵と立ち向かう「稼ぎ頭兼戦士」となるのです。ミツバチの巣は女王蜂を中心に同心円状に形成されていて、羽化してから次第に外縁へと移動していくことになり、それにつれて自然に役割が変化していくのです。

 蜜蜂--- さ、元気を出そう。あたしがよく働くって誰でも言ってくれる。今月の末には、売場の取締りになれるといいけどなあ。 (「囁き」 ルナアル)

 このルナアルの詩篇とは逆に、私たちが見かける陽光の妖精さながらにキラキラと輝きながらせっせと花の蜜と花粉を集めているかわいらしいミツバチは、働き蜂の中ではもっともベテラン、「熟練のパイセン」ということになります。人間ならば、えてして危険できつい外回りは下っ端に任せて、上役は内勤をするものですが、ミツバチの場合は逆。人間も見習うべきかもしれませんね。

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