あの日から9年たった“3.11”をテーマに物語を紡ぐ、新人漫画家・ヤマモトヨウコ(@YY0905)さん。震災の記憶を風化させないという思いだけでなく、そこにはつらくとも前に進もうとする人間の強さが描かれています。一つ一つの言葉が胸を打つ……。
2019年1月に投稿された漫画『ばあちゃんと孫』。歯医者をイヤがる孫の男の子に、「痛い時、怖い時はな、親指を中さ入れてギュッとすっといんだよ」とおばあちゃんが教えるお話です。
「ばあちゃんと孫」
その教えで苦手な歯医者を乗り切った男の子でしたが、物語の後半で――その半年後、孫は津波に流され、冷たい状態で見つかった――と、東日本大震災の津波で亡くなったことが語られます。見つかった孫の手を見ると、親指が中で握られており、おばあちゃんは「よぐ頑張った、よぐ我慢すたな。ばあちゃんももう少すすたら逝っから、もう我慢すっこどねえがら。早ぐ休めよ…」と、大事な“自慢の孫”に涙を流しながら話しかけるのでした。言葉と表情が優しいだけに強く心に来る……。
同漫画はフィクションですが、間違いなく“起こった”出来事であり、つらい現実と向き合うことになります。しかし物語は恐ろしさや不安をあおるものではなく、むしろ大切なものをあらためて教えてくれます。その後公開された後日談『はじめての犬』は、おばあちゃんが亡くなった家族(娘と孫)が飼いたがっていた犬を飼う話。2人を喜ばせようと思って飼ったことをきかっけに、おばあちゃん自身が楽しい時間を過ごす様子は、シリアスな背景がありながらも心を温かくしてくれます。
「はじめての犬」
ちなみにヤマモトさんは地元民というわけではなく、東北に転勤してからさまざまな取材を通して描いています。「だれかを傷つけてしまわないか」という葛藤がありながらも、自分の目で見たり聞いたりしたことを伝え届けたいという思いでつづった『3.11をめぐる物語』。オムニバス形式で描かれた作品群はモーメントで公開中で、2020年3月にも関連する物語が投稿され、今も3.11と向き合う作者の思いに触れることができます。
そして現在、ヤマモトさんは“自分を人間だと思っている柴犬”の「豆柴太」を主人公にした新作漫画を準備中。現在の被災地における復興の状況といった内容も含め、より熱い感情を込めて描かれる作品に注目です。
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