ニッポン放送「ザ・フォーカス」(3月24日放送)に中央大学法科大学院教授・弁護士の野村修也が出演。東京オリンピックの延期について解説した。
安倍総理、IOC会長と電話会談
安倍総理大臣は24日午後8時からIOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長と電話で会談し、東京オリンピックの1年程度の延期で一致した。
野村)延期の話が確定したということで、そこに合わせて新しくみんなで仕切り直していければいいなと思います。延期については、まずオリンピック憲章というものがあります。オリンピック憲章では与えられた年のうちにやらなければいけないと書かれているのです。それに基づいてオリンピックを開催する都市との間に結んでいる契約書のなかにも「2020年のうちにやらなければ東京は権利を失う」と書かれています。この部分についてまず乗り越えられるのかということをずっと交渉してきたと思うのですが、一定程度制度的な部分についてはクリアになってきたのだろうということが見えてきています。
森田)世界陸上競技連盟が、2021年8月にアメリカのオレゴン州で予定されている世界陸上の日程を変更する検討に入ったというニュースも出てきているのです。これはロイター通信が伝えているのですが、世界陸連は声明のなかで「すでに開催地の組織委員会と話し合いに入っている」とのことです。これは東京でしょう。「必要なら日程を変更しても開催できるように努力すると聞いている」と述べています。それから、大型の放送権の契約をIOCと結んでいるアメリカのNBCですが、アメリカのウォール・ストリート・ジャーナル紙はNBCユニバーサルの広報担当者が「IOCの決断を支持する」と述べたことを伝えています。NBCの広報担当者は「現在は非常時で、前代未聞の状態だ。東京大会のシナリオをよりよくしようというIOCの決断を全面的に支持する」と話したということです。よく言われる「NBCが全部権限を持っているのでは」ということについても、広報担当者は「我々がオリンピックの開催時期をいつでも左右できるという見方は間違っている」と説明もしているようです。
野村)今年の秋になるとNBCはいろいろなビッグイベントを予定しているので、そこの部分での放映権の調整がつかないということは言われていました。来年について言うと、夏はまさに世界陸上と世界水泳があるのです。この時期にぶつかったら選手はどちらに出るのかということになるという話について、世界陸連と世界水泳連盟が延期を求める声明を出したので、これは日程を動かしてくれるというメッセージではないか、というところが延期論を前に進めた1つのポイントでしょう。
森田)WHO(世界保健機関)がある程度権限を持っているのではないかということについては、WHOの緊急事態対応を統括するライアン氏がオリンピック開催の是非について「日本政府とIOCが行うことだ。WHOが判断を示すことはない」と改めて強調しています。
野村)伸ばすときに1つのポイントとなるのは、ワクチンが開発されているのかどうかというのも大きいわけです。観客の方々や選手も含めてワクチンきちんと防御できる状況が整う可能性がどのくらいあるのか。
チケットは払い戻し不可
森田)開催地の東京は、会場の確保やボランティアも引き続き確保しなければいけません。組織委員会の人も含めて人件費も追加でかかります。この辺りの費用がどうなるのかという気がします。
野村)追加で私たちの税金が使われるということにはなります。ただ、やめることにやったときに私たちが被る損害に比べるとかなり少なくなるわけです。
森田)中止よりも延期の方が損害は少ない、ということですね。
野村)もちろん予定通りできればなんてことはなかったのですが、延期になったときにかかるお金は苦しいけれど、中止になるよりよかったという見方もある気がします。
森田)ある程度そこに税金が投入されるのはやむを得ないと。気になるのはチケットなのですが、払い戻ししないのではないかとも言われています。
野村)延期であればいまの権利が確保されるということでしょう。もし中止になったときには契約に「払い戻しがない」とちゃんと書いてあるのです。不可抗力の場合にはお返しできないと書いてあって、ご丁寧に契約書の最初に不可抗力の定義があるのですよ。そこにはいろいろな災害が並んでいるのですが、そのなかに今回のような病気の蔓延という疫学的な問題についても不可抗力に含まれるとはっきり書かれているので、戻ってこない可能性はあったわけですよ。もちろんそれは交渉の問題や社会への影響など可能性はあったと思いますが、延期となればそれは回避できると思います。
森田)これは訴えてもだめということですね。
野村)基本的にはね。同意して買っているわけですから。
森田)選手村のマンション、あれもどうするのでしょうか。
野村)分析はしていませんが、買った段階で何か事情があった場合には入居の時期の変更についても書かれているはずなので、そこについてもある程度我慢していただかなければいけないという弁が出てくると思います。
森田)だいたい5600戸ほど分譲や賃貸マンションになるということで、およそ1万2000人が住むと言われていますから、ここがどうなるのか。
野村)例えばお子さんがこれから小学校に入るから、そのタイミングであそこへ引っ越そうと思っている方がいるわけで、さまざまな人生設計があるはずです。それが簡単にずれてしまって大変だという方は、そういうことに対しても目配りをしていくことが大事だと思います。
代表選手についても議論が必要
野村)そして問題は、選手の人たちです。
森田)1年違ったらけっこう違いますよ。
野村)ギリギリ引退を延ばして今年に挑戦していた方々がいて、そこで出場権を得ている方が仮に1年延びたらもう引退かという人も出てきてしまう可能性があります。あるいは年齢制限がある場合もあります。逆に、新しくチャンスが生まれてしまう人も出てきます。その辺りのところが選手に納得のいく感じで、予選などをやり直すのかどうかも決めなければいけないということだと思います。
森田)既にこの大会で代表に内定して喜んでいる選手たちが、来年になったら出られないというのもどうかと思います。
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