アナタの選ぶ道はふたつしかない
この日の回答者は弁護士の大迫恵美子。
「(夫は)何か趣味で出かけるとかないんですか?」
「出かけることはありますけど、趣味っていうことでもないですよね。ちょっとした買い物に行ったりとか」
「自分ひとりの用を足しに行くっていう感じですか?」
「自分ひとりじゃないです。必ず私とです」
自分が出かける際には相談者を連れて歩く一方、相談者が「出かける」と言うと機嫌が悪くなるという。
「だから早く帰らなきゃと思ってドキドキしちゃうんですね」
「ご主人が幸せじゃないっていうことは間違いないんですよ。することがなくてホントに退屈だと思いますよ。会社行って働いている分にはね、居場所があって、自分はこれをやっているっていう気持ちがあったわけですから」
暴力までいかないにしても、夫が定年になって家に居着くようになったことによる夫婦間の問題は、ありがちな話らしい。
「先ほど離婚したくないっておっしゃってましたけど、それはそうなんですか?」
「いっそのことね、離婚してもいいかなと思う時もあります。あまりにひどいとね、暴言がね」
今年に入ってからはないというが、去年にも叩かれたり髪を引っ張られたりということはあったそうだ。
「カッとなると『出てけー!』って言って、暴力がはじまったりするんですよね」
ひとまず離婚するしないは置いておくとしても、暴力を振るわれた際、身の安全を守るために子どもの家に身を寄せるなど、保険的なことを考えておいた方がいい。その時のために、100円の大根を200円だと家計簿につけるなどへそくりを作っておくようにアドバイスした。
「いざとなったらそのお金を握ってタクシー飛び乗って、お子さんのとこへ駆けつけるぐらいのね」
「……でも、こんな年になっても別れる方っているんですかね?」
「それはね、年齢は関係ないしね」
経済的な問題があるため、必ずしも離婚を勧めはしないものの、弁護士の立場からいうと、高齢での離婚という事例は決して少なくはないという。
「忍耐っていうのはやっぱり、力仕事なんですね。だから体力ないとできないんですよ。年取ってきて体力が落ちてくると忍耐力が落ちてくるので、若い時よりもカッとなって言っちゃったみたいなことが(夫婦)両方とも多くなってきちゃうので。だから仲が悪くなっちゃう」
忍耐は力仕事! 近所の幼稚園や公園に文句を言うクレーマーや、自粛警察も中高年が多いというが、こう考えるとものすごく納得できる。これをやってるのが他人だったらまだいいが、自分の夫だと考えるとキツイ。
「ご主人はやっぱりちょっとかわいそうな状況にあるので。もちろんそれをアナタが引き受けなきゃいけない義務もないですし、我慢できなかったら出るんですけど、その原因がね、かわいそうな状況にあるからこんなことするんだと、アナタが一応思ってるのと思ってないのとでは気の持ちようも違うでしょうから」
加藤諦三が引き取る。
「とにかく人間嫌いで利己主義で、とにかく人の上に立つことが必要なわけです、ご主人は」「ですからアナタの選ぶ道っていうのは、ふたつしかないわけです」
ひとつ目の道は、「私はこの人の母親の代わりになる」と決心すること。
「73歳の男ではなくて3歳の子どもだと。だから『あの人は愚かでアホで』って言ったら『ホントねぇ〜、そうねぇ〜』って言って」
こうやって赤子を育てるようにして、母の代わりをする。
「もうひとつは別れる決心をする」
相談者が本気で別れる決心をすれば、夫の態度もガラッと変わるはずだと指摘した。
「アナタに依存してるんだから。買い物にも一緒にに行くっていうのは、依存心がすごく強いんですよ。『Dependent hostile relationship』っていって、依存的敵対関係っていうんです。敵対関係なら別れればスッキリするんですけど、依存しているから離れられないんです」
加藤諦三も大迫恵美子も「それは面白くないでしょうね」とか「かわいそうな状況にある」など、夫に対して同情的とも取れる言い方をしていたので違和感があったのだが、要は70歳をこえた老人の性格なんてそうそう変わらないから、相談者が「いつでも別れてやる」という決心を持つことが必要ということなのだろう。
長年こんな状況に耐えてきた相談者には同情するしかないが、もっと早い段階で別れるなり、夫婦関係の軌道修正をするなりといった必要があったのではないだろうか。
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