ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(5月25日放送)に第一生命経済研究所 首席エコノミストの永濱利廣が出演。東京都が発表したロードマップについて解説した。
東京都、緊急事態宣言解除でロードマップ「ステップ1」へ
東京都は25日、緊急事態宣言が解除されることを受けて、26日午前0時から速やかにステップ1に進むことになる。東京都のロードマップは休業要請などの緩和を段階的に進めて行くことが柱で、現在のステップ0からステップ3まで段階があり、業種や施設の種類別に対象を広げて行く。
飯田)ステップ1では、博物館、美術館、図書館、観客席を除いた体育館や水泳場、ボーリング場など屋内の運動施設が自粛の対象から外れる。そこからステップ2で学習塾、映画館、劇場が、ステップ3でパチンコ屋さんやネットカフェ、遊園地などが外れます。しかし、2週間ごとに見直しというと、時間がかかりますね。
スポーツジム、カラオケで1ヵ月100億円以上の損失
永濱)スポーツジムやカラオケ、ライブハウスがこのままだと、当面は営業できません。実際にどのくらいの損失が出るか試算してみました。東京都のスポーツジムの1ヵ月の市場規模が57億円。カラオケボックスが46億円です。ライブハウスはデータがなかったのですが、これだけで、1ヵ月動かないと100億円以上の損失となります。それ以外にも、私が懸念しているのは、スポーツジムが開かないと健康面で悪影響が出るかもしれないし、カラオケには、ストレス発散で行く人も多いわけですから、そういう機会も奪われてしまう。そういう面での悪影響も考えて欲しいと思います。
感染予防に偏り過ぎ〜経済のことをもう少し考えるべき
飯田)私もジムに行っていないので、太って仕方ないと、言い訳に使っているのですけれども。
永濱)今回の解除の段階も、感染防止のことに偏り過ぎだと思います。もう少し経済のことも考えてもらいたいですね。カラオケのことであれば、フェイスシールドなどを付けた形でやっていいとか、飲食店なども向かいに座ってはいけないということではなく、アクリル板で仕切ったりと。そういう工夫をする形で緩和しないと、経済は戻らないので、その辺は考え直してもらいたいと思います。
飯田)いままでの自粛によって、経済全体は相当痛んだわけですよね。
失業者が130万人増える〜リーマンショックを上回る
永濱)今回の緊急事態宣言だけの影響で計算しても、あくまで私の計算ですが、GDPがここ2ヵ月ぐらいで、通常に比べ12兆くらい減っていて、このインパクトによって、失業者が60万人くらい増えると思います。コロナの影響は緊急事態宣言だけではありませんので、今回コロナによってどのくらい日本経済が落ち込むかというと、あくまでエコノミストのコンセンサスの通りに行くと仮定した場合ですが、2020年のGDPが2019年に比べて25兆円以上減るという予想になっています。これが実現すると、単純計算で失業者が130万人増えるインパクトになります。リーマンショックのとき、前年度に比べて失業者は113万人増えたのです。ということは、リーマンを上回る。リーマンのときは、世界的にもそうなのですが、いちばんダメージを受けた産業が自動車を中心とした大企業製造業でした。大企業製造業は体力があるので、なかなか倒産しません。ですが、今回のコロナでいちばん影響を受けているのは、体力のない中小のサービス産業です。そういう意味でも、やはりリーマン以上の危機感を持って対応しなければなりません。
飯田)世界的に見てあのリーマンのときは、中国経済が公共投資などもやって、新興国も含めて世界経済を引っ張ったということがありましたが、今回はアルゼンチンがまたデフォルトしたということもあり、新興国経済の方がきついですよね。
経済が戻るためには、ワクチンや特効薬が必要
永濱)リーマンのときと世界経済的な違いはそこでして、IMFの経済成長率を見ても、リーマンの翌年の2009年はマイナス0.1%くらいしか世界の比率は下がっていません。でも、今回はIMFの直近の4月の見通しで、2020年は3%落ち込む。更にそこから下方修正があるとも言われているのです。何が違うかというと、日本の成長率の落ち込みで言えば、どちらも5%台で変わらないのですけれども、いちばん大きいのは新興国がリーマンのときと比べて大きく落ち込むというところが違います。またウイルスの感染の話になると、新興国は医療体制も整っていません。そういうことも考えると、東京オリンピックの開催などにも関連して来ますが、世界経済が元に戻るためには、やはりワクチンや特効薬が出て、普及しないと難しいでしょう。
飯田)25日の毎日新聞が書いていますが、せいぜい補正で乗っても100億円くらいだと。これでいいのかという話ですよね。
永濱)本当にそうです。ここは湯水のように無制限で、どれくらい使ってもいいというような勢いでやってもらわないと困ります。
消費減税が必要な理由
飯田)一方で、日本の経済全体のことを考えるとGDPは相当下がる。GDPの大体6割くらいは個人消費だということではないですか。
永濱)いま55%くらいですね。
飯田)そうすると、そこの喚起という意味では、消費税は議論しなければいけないと思うのですが、どうですか?
永濱)私も3月末に政府の集中ヒアリングに行ったのですけれども、そのときも私は消費減税を提案させていただきました。経済をできるだけ動かさずに感染を食い止めるという状況であれば、給付金は社会保障という位置づけでいいとは思います。ただ、ある程度経済のプラス効果を考えれば、給付金は貯蓄に回る可能性も高い。経済を戻すことを考えたら、使った人が恩恵を受ける政策の方が需要喚起の効果は高い、それで消費減税なのです。消費減税をすれば、お金を使わない人には何の恩恵もないわけです。お金を使った人が恩恵を受ける。更に言うと、まったくお金を使わずに生活はできませんので、そういった意味では、生活保障的な側面も担っているわけです。
リーマンショック、東日本大震災、2014年4月の消費増税〜個人消費が元に戻るまで、消費増税がいちばん期間を要した
永濱)私は勝手に「3大ショック」と言っているのですが、過去のリーマンショックと東日本大震災と2014年4月の消費増税、この3大ショックが、個人消費が落ち込んでから元に戻るまで、どれくらいの期間がかかったかを計算すると、リーマンショックは2年、東日本大震災は1年、2014年4月の消費増税がいちばん長くて3年も元に戻るまでかかっているのです。いかに消費増税のインパクトが大きいか。日本国民は、「財政が大変だ」などと脅しを受けると、将来不安が高まってしまいます。そういう状況のなかで、消費増税をやってしまうと、生活水準は一時的に下がります。将来の不安が高い国民性だと、生活水準が下がると、「この下げた生活水準で生活できてしまう」と思ってしまって、消費がなかなか戻らないのです。
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