コピーライターの糸井重里氏が企画・設定・シナリオを手掛け、今なお多くのファンに愛され続けている、任天堂の「MOTHER」シリーズ。残念ながらゲーム本編は2006年の「MOTHER3」を最後に動きが止まっていますが、最近になって突然、「ほぼ日刊イトイ新聞」主催による“HOBONICHI MOTHER PROJECT”が立ち上がるなど(関連記事)、2020年はにわかに「MOTHERイヤー」になりそうな気配を見せています。
今回の記事では、そんな「MOTHER」シリーズの魅力を語り……ません! そういう話は他の人に任せた。むしろ今回語るのは、この世に出ていない「MOTHER3」のニンテンドウ64版。その開発中に雑誌で行われていた「幻の読者出演企画」のお話です。
ライター:するめ(以下)マン
業界の片隅に生きるゲームライター。危険なネタばかり提案ばかりするので、企画を投げても取り扱ってもらえないことが多い。最近ボツになったネタは「霊能者にPS版『FF7』のエアリスを降霊してもらい、『FF7R』の感想を聞いてみる」という企画。「野村哲也さんを直接説得できたらいいよ」と編集に言われてボツになった。お仕事募集中(これで来るの?)。
開発が難航して発売中止となった64版「MOTHER3」
「幻の読者出演企画」の話に入る前に、少しだけ私と、64版「MOTHER3」の話をさせてください。
「MOTHER3」はゲームボーイアドバンス(GBA)で出ているシリーズ最後の作品です。しかし、実はこの作品、当初はニンテンドウ64向けに開発されていたゲームでした。今、世の中に出回っているものは見た目も2Dのドット絵で「MOTHER2」に近い絵柄なのですが、64版はどこか不気味さもある3Dポリゴンのグラフィックが印象的な作品でした。
新しいものが大好きな自分は、それまでの「MOTHER」とは違う作品の見た目に大興奮! 糸井さんが語る、GBA版では全く実現されていない、64DD(※)を活用した夢のようなシステムの数々。記事は各ゲーム雑誌で1ページくらいでしたが、前作のキャラらしき人物が出ているシーンや、訳の分からない建物の話など、新聞記事風に書かれる新情報に期待をあおられまくりで、発売まで今か今かと待ち望んだものです。
※ニンテンドウ64の拡張ユニット。「MOTHER3」は一時、64DD用ソフトとしてアナウンスされていたこともあった
……が、出なかったんですよコレが。
64版。とにかく、発表からずっと引っ張ったけど全然出なかったんです。もっというと、スーパーファミコン版「MOTHER2」で、フォーサイドの看板に「MOTHER3」開発中の文字があったり、エンディングのオチで出るのはほぼ確定していたようなものだったので、SFC時代から待たされていました。
ただ、当時のインタビューを読んでいても64版の開発は難航しているのが伝わってくるくらい迷走しているのを感じられたんですよね。サブタイトルも「MOTHER3 キマイラの森」が商標か何かで引っ掛かったらしく「MOTHER3 奇怪生物の森」へと変わり、そこから「MOTHER3 豚王の最期」と二転三転。発売ハードも64DDになったり64に戻ったりしました。最終的に出たのはGBAで、サブタイトルもなくなっているのですが、とにかく当時のユーザーとして発売を楽しみにしていた自分はハラハラドキドキ。
一度は開発中止になったこともあり、糸井さんのサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」上で公開されている「樹の上の秘密基地。」でその旨が発表されたのですが、このときは悲しかったですね。当時どんな状況だったのかは「木の上の秘密基地。」の座談会を読むのが一番分かりやすいと思います。
とはいえ、64版は最終的に発売中止となってしまいましたが、雑誌などで公開されていた断片的な情報や画面写真を見てもGBA版のベースになっていることが分かります。ああ、それでも64版を遊びたかった……。私、めちゃくちゃ期待してたんですよ64版。
「MOTHER3」が載っている雑誌の情報は欠かさずチェックして、発売までワクワクしながら待っていたんです! ESPじゃなくてマホウを使いすぎると頭がオーバーヒート(確かそういう表現)するとか、「MOTHER2」のオレンジキッドらしきキャラが出ていたりとか、ネスらしきキャラが全員集合写真に写っていたりとか、気になる要素が満載だったのです。
64版「MOTHER3」に登場できる読者企画って覚えてますか?
今でも64版「MOTHER3」を遊びたくて定期的に情報を漁っているのですが、そのときにふと思い出したんですよ。当時「電撃NINTENDO64」という雑誌で行われていた「MOTHER3読者出演企画」のことを。
それは「読者からインパクトがある顔の写真を募集して、採用した人をゲーム中に出す」というすごい企画でした。「MOTHER」シリーズに出られるんですよ!? もちろん、選考するのは糸井さん本人。入賞者も決まってポリゴンモデルが作られ、実際のゲーム中に登場しますという記事もありました。
あれ? でも結局、採用者はGBA版に出てなくない? 確か、入賞者は濃い顔だかくどい顔みたいな表現で糸井さんが気に入って採用された気がするのですが、GBA版にそんな濃い顔の少年いなかったような……。う〜ん。気になる。気になって仕方ない。そもそも、写真を送った少年は今どうなっているんだろうと、あまりに気になったので、ねとらぼのTwitterで募集をかけてもらいました。
結論から言うと、残念ながら入賞者からの連絡はなし。3人いたはずの採用者の方にも連絡はつきませんでした。がっくし、打つ手なし。幻の企画に出ていた幻の少年は、幻のままとなってしまいました。
とはいえ、全く収穫がなかったかというとゼロではありません。当時、実際に応募して落選したものの、選考記事で話題にあがっていた「M.Tさん」と連絡がついたので、何かの手掛かりになるかと考えてインタビューしてきました。ちなみに、このモヒカンの方です。
なんでモヒカンなんだ……。
モヒカンで応募した訳を知りたくて
── 自分も当時、この企画を知って応募しようとは思ったのですが、顔に自信がなくて送れなかったんですよね。M.Tさんは、なぜこの企画に応募したのですか?
M.T:雑誌を見て、そのままの写真だと没個性な顔立ちなので「無理かなぁ」とは思っていたのですが、たまたまモヒカンの写真を持っていたのでせっかくだから応募しようかと。
── モヒカンの写真って、たまたま持ってるものなんですか!?
M.T:親戚や職場バレを避けたいので、Photoshop製と言い張っていたのですが自前ですよ。モヒカンの理由は、当時「ストリートファイターII」にハマっていて、その中でもザンギエフを使っていたからです。大学2年のころなのでまだ就職活動などもしていないし、夏休みの間に「今しかできないことをやってみよう」と思って、実際にモヒカンにして対戦台に乱入してました。あとから全然知らない人に「モヒカンのストIIプレイヤーがいたらしい」と聞かされたので、意外と地方では話題になっていたのかもしれません(笑)。
── きっと、ザンギエフのコンテストだったら優勝できたかもしれませんね。当時の記事だと糸井さんが「自分の歴史を語っている写真の束を送ってきた人のが凄いね」とコメントしていましたが、どのような内容の手紙を送ったか覚えていますか?
M.T:勝算があったのかは微妙ですが、インパクトは残せるかなと思って応募しました。「写真だけだとまだ足りないかな」と思ってモヒカンにした経緯や、モヒカンにしてから「ときめきメモリアル」の片桐彩子ヘアの彼女(今は妻です)と交際したことなども手紙に書いています。
── なるほど。正直、ザンギエフと片桐彩子が結婚したクロスオーバーの方が気になっちゃったんですけど、もはや企画の趣旨から逸脱しちゃうので話を戻しましょう。ちなみに、審査員の反応はいかがでしたか?
M.T:そこまで書いたかいがあって審査員の印象には残りました。企画選考記事で話題になっていたようで良かったです。逆に言うとキャラが濃すぎて選考に落ちたようだったのですが、話題になっただけでも自分的には勝ちだと思います、ええ。
── M.Tさんは自分と同じく、当時「MOTHER3」64版の情報を追いかけていたと思いますが、当時の記事や内容ってどれくらい覚えてます?
M.T:今となってはぼんやりとしか覚えていません。ですが、当時は最先端の64で斬新な演出があるらしいと聞き及んでワクワクしたのを覚えています。今となってはそれがどういうものだったのかは分かりませんが、GBA版のラスト間際の演出などに、その名残がもしかしたら残っているのかもしれないと感じました。
── 確かに、自分ももしかするとあのシーンが……という記憶がたくさんあるんですよね。本当に64版が出なかったのは残念でした。でも、最終的にはGBAで「MOTHER3」が出てうれしかったですよ。GBA版は遊びましたか?
M.T:遊びました! 普段は「RPGの戦闘シーンが嫌い」と言っているくらいなのですが、「MOTHER3」ではタネヒネリ島のポストを見て回るため、セリフを聞くために積極的に敵にぶつかって行っていましたよ。セリフの一つ一つに糸井重里氏のセンスが込められていて、言葉を味わう楽しみがありました。「奇妙で、おもしろい。そして、せつない。」というキャッチコピーの通り、「MOTHER2」とはまた違った攻めた作風でありつつも、まさに「MOTHER」シリーズというべき作家性のある、個性的な名作だと思います。
── そうそう! そうなんですよ。私も一番好きなのは「MOTHER3」でして……。
(以下、完全に脱線した話になりそうだったので割愛)
後半からなんだか脱線してきましたが、やはり当時の雑誌に応募した人にとっては印象深い企画のようです。なお、今回は採用者の少年を探し出すことはできませんでしたが、引き続き募集していますので、「私が採用されました!」という方はねとらぼのTwitterにDMでご連絡ください。糸井さんと一緒に対談しましょう!(糸井さんの許可はまだ取っておりません)
それからもう1つ。これは実在が疑わしいものなので絶対に見つからない可能性が高いのですが……。私、はるか昔に今はなきオークションサイトで幻の64版「MOTHER3」テストROMをうたう謎のROMが出品されていたのを見た覚えがあるんですよ。当時でも出品額が高かった覚えがあって手が出せなかったのですが、あれが本物なのかどうかどうしても知りたいんですよね。当時落札したという人、もしくは、その出品は偽物だよ、流出してないよという話ができる関係者の方。ぜひ、私の方まで連絡をください! 他に見たという人の話も聞かないので、自分が見た記憶の方を疑い出してきた……。
というわけで、本当にどういう訳なのかは分かりませんが、2020年の「MOTHER」関連の盛り上がり、(歪んだ)ファンの1人として私も楽しみにしています! できればSwitchで3部作を移植していただくか、ゲーム音源が全部収録された完全版のサントラを出してください! お願いします!! なんの記事だったんだ、コレ。
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別のゲームになったみたい。