ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(6月17日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。政府が閣議決定した2020年度の観光白書について解説した。
ホワイトハウスのローズガーデンで行われた、新型コロナウイルスに関する記者会見でのトランプ米大統領=2020年5月11日 ワシントン (Photo by Brendan Smialowski / AFP) AFP時事 写真提供:時事通信社
2020年版観光白書
政府は16日、日本の観光分野の政策についてまとめた2020年度の観光白書を閣議決定した。白書では、新型コロナウイルス感染拡大で観光に関わる産業に深刻な影響が広がっているとして、感染が落ち着き次第「Go Toキャンペーン」の事業を開始するなど、観光産業の回復を図るとしている。
飯田)19日から、都道府県をまたぐ移動も緩和される予定です。
佐々木)訪日観光客、インバウンドがほぼ壊滅状態です。国内旅行がどのくらい盛り上がるかという話ですが、国内だけだと日本の目指す観光立国は難しいと思います。どこかでいずれ海外からの観光客を復活させる日が来なければいけませんが、現状、見通しが立っていません。いまのところ、感染が抑えられている国同士で開きましょうということです。日本だとタイ、ベトナム、オーストラリア、ニュージーランドです。この4ヵ国に関しては、いずれ国境を開放して、PCR検査で陰性という前提で来ていただければ隔離しなくてもいいという話です。
「トラベル・バブル」はブロック経済につながる
佐々木)こういう、感染が落ち着いた国同士で開く戦略は、各国で取り始めていて、「バブル戦略」と言われています。ニュージーランドは新規の感染者数が0人ですので、国内はどこへでも行き来できます。隣国のオーストラリアも感染者数がなくなりつつあるので、オーストラリアとニュージーランドを1つのエリアと考えて、そのなかで自由に行き来する。日本がオーストラリアとニュージーランド並みに感染者数が抑えられれば、日本が加わり3ヵ国で1つのエリアと考えます。このように、だんだんとバブルを広げて行くのです。このことについて面白い指摘があり、国立シンガポール大学の先生がニューズウィークに「『トラベル・バブル』構想に死角あり」という記事を書いています。安全な国だけで相互に行き来すると、観光だけではなく経済もそうなります。そうすると、これはブロック経済なのではないかと書いています。
飯田)なるほど。
佐々木)中国は北京で感染者が100人くらい出て騒ぎになっていますが、全体的には抑え込んで来ています。中国は経済も復興しつつある状況で、生産も再開しています。そうなると、中国と貿易したい国が増えて来ます。東南アジアに中国が「行っても平気だよね」と言うと、東南アジアの国は喜んで中国と行き来します。そうすると、「これは新中華帝国ではないか」と。観光と経済が一体化している状況のなかで、エリアごとに閉じた状況が起きるのです。
コロナが後押しするブロック経済体制への移行
佐々木)トランプ政権が生まれてからWTOなどが骨抜きにされて、グローバリゼーションからブロック経済体制に移行するのではないかという危険性が言われていましたが、まさかそれをコロナが後押ししてそういう状況をつくるとは、誰も思いませんでした。トランプさんが生産国内回帰だと言っていたのを、「グローバリゼーションの時代に何を言っているのだ」と、どの国も相手にしていませんでしたが、いままさに日本も国内回帰と言っていますから、トランプさんは偉大な予言者だったのかも知れません。
飯田)アメリカは、「イギリスとの行き来もまだ無理だろう」と感染症の専門家が提言しています。となると、アメリカは自分たちの国だけでブロックになるのか、そういうバブルの仕方になって行くのでしょうか?
今後、アメリカと環太平洋地域との結びつきが強まる可能性も
佐々木)そうですね。少なくともいまの感染状況だと、ヨーロッパと行き来するのは、どこのエリアも難しいのではないでしょうか。アメリカの今後の経済は、中国とある程度デカップリングして行きたいという意識がトランプ政権には強くあります。では中国と仲よくしないで、どこと仲よくするかというと、旧TPPエリア、環太平洋地域です。
飯田)そこでオーストラリア、ニュージーランド、日本が核になって行くわけですね。
佐々木)そうなると、今後、そのエリアとアメリカの結びつきが強まるということがあり得ると思います。
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