クレしん映画の新たな傑作「激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」レビュー 「オトナ帝国」「戦国大合戦」と単純比較するべきではない理由(1/4 ページ)
「映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」の素晴らしさをネタバレなしで語る。
現在公開中の「映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」がとてつもなく面白かった。
本作は「映画クレヨンしんちゃん」(以下、クレしん映画)の28作目。このシリーズにおいて、9作目「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」と10作目「嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦」が「オトナも泣ける感動作」としての高い評価を得ていることは、周知の事実であるだろう。
そのことを踏まえて、訴えておきたいことがある。それは、本作を「オトナ帝国」「戦国大合戦」と単純な比較をするべきではない、それだけで評価を決めて欲しくないということだ。
これまで優れたクレしん映画があった場合、その評価軸として「戦国大合戦」「オトナ帝国」との比較で語られがちであった。特に顕著だったのが22作目「ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん」の時で、やはり大人こそが感動できる内容であり、クレしん映画の久々の傑作などと高い評価を得ていたのだが、「戦国大合戦とオトナ帝国ほどじゃないが」「その2本には一歩及ばないが」などといった枕ことば付きで語られていることが多かったのだ。
同様の「あの2本が偉大すぎる」という思いは作り手側にもあったようで、「ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん」の脚本を手掛けた中島かずきは、15作目「嵐を呼ぶ 歌うケツだけ爆弾!」からチーフプロデューサーとして参加してきた時の頃を振り返り、「あの2本が突出し過ぎて原さん(原恵一監督)がいなくなった後“どうする?”って大変だったんですよ」とぶっちゃけていたこともあった。
そのように、クレしん映画には「戦国大合戦」「オトナ帝国」の2本との比較を免れないという、“呪縛”にとらわれていたところがあった。しかし、今回の「激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」は、その呪縛から解放された、この映画そのものの素晴らしさをたたえるべき、新たな傑作であったのだ。
本編のネタバレになるべく触れない範囲で、その理由を記していこう。
1:故・臼井儀人のマンガを原案としている
「激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」は、“原点回帰”をしながらも、クレしん映画として“新しいことにも挑戦している”ことが何よりも重要だ。
まず、本作には、「クレヨンしんちゃん」の単行本23巻に収録されている短編「ミラクル・マーカーしんのすけ」という原案がある。映画に登場する“ニセななこ”や“宮廷画家”の見た目は、この原案ほぼそのままだったりもするのだ。
クレしん映画は、基本的にはマンガとは関係なく、設定や物語がとても自由に作られてきた。事実、故・臼井儀人が映画の原作となるマンガを描いていたのは、3作目「雲黒斎の野望」までである。しかし、今回は「25年ぶりのマンガの内容の映画化」なのだ。この時点で、原点回帰の意思を感じられるだろう。
また、監督・脚本を務めた京極尚彦は、「『クレヨンしんちゃん』なのにクレヨンをモチーフにした映画が今までなかった」とも考え、それが絵に描いたものが出てくるという物語を昔からやってみたかったという思いにも結びついたのだそうだ。
このように、本作ではシリーズになかった新機軸を打ち出しながら、タイトルにあるクレヨンをフィーチャーするという、クレしん映画としてまっとうかつ新鮮なアプローチがされているのだ。
2:ぶりぶりざえもんの復活
前述した短編マンガ「ミラクル・マーカーしんのすけ」には、人気キャラクターの“ぶりぶりざえもん”が登場していた。アニメで同役を務めていた塩沢兼人は2000年に亡くなり、「この声以外は考えられない」という理由で16年に渡ってセリフがなかったのだが、2016年から神谷浩史が後任を務めることになった。
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