【ライター望月の駅弁膝栗毛】(初出:2020年3月5日)
JRからえちごトキめき鉄道に乗り入れ、新潟〜上越妙高・新井間を結ぶ特急「しらゆき」。
元は常磐線特急の「フレッシュひたち」だったE653系電車が活躍しています。
普通車のみの4両編成で、上越妙高寄りの2両が指定席、残り2両が自由席。
北陸新幹線開業まで、新潟〜金沢間を結んでいた特急「北越」の役割を担っていますので、上越妙高では、金沢方面の新幹線「はくたか」と接続するダイヤとなっています。
現在、特急列車は「しらゆき」のみが停車する直江津駅。
駅自体も「えちごトキめき鉄道」の管理となり、本社機能を兼ね備えています。
北陸新幹線開業までは、金沢〜越後湯沢間の「はくたか」をはじめ、新潟発着の「北越」や、昔は寝台特急「日本海」「トワイライトエクスプレス」「北陸」、急行「きたぐに」「能登」といった数多くの優等列車がやって来たのも、いまやすっかり懐かしい思い出となりました。
この直江津駅前でホテルを営み、直江津・上越妙高の両駅向けの駅弁を製造しているのが、「ホテルハイマート」です。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第22弾・ホテルハイマート編は、山崎知夫(やまざき・ともお)営業統括部長のインタビューをお届けしています。
じつは山崎部長、高校時代にアルバイトで駅弁の立ち売りをしたことがあるのだそうです。
2社で切磋琢磨しながら作り上げられた直江津の駅弁文化!
―直江津駅では、いまも「雪月花」の発着時に立ち売りをされていますが、ひと昔前までは、あの風景が当たり前だったんですよね?
私自身も高校時代、繁忙期のアルバイトで、かごを首から下げて立ち売りをやっていました。
時刻表とにらめっこしながら、籠を下げて、直江津駅のホームを移動していましたよ。
社長の話ですと、いちばん売れた時期は、客車の窓から顔を出したお客様にとりあえず弁当をお渡しして、あとからお金を回収していたと言います。
私のころはもう平成でしたので、さすがにそこまで売れる感じではありませんでしたけど。
―直江津の駅弁は、2000年代初めまで2社体制でしたよね?
平成20(2008)年まで、お隣の「ホテルセンチュリーイカヤ」さんも駅弁をされていました。
やはり、2社あることで、お互い競い合いながら、切磋琢磨していましたね。
同じホームで駅弁を売るんですが、“程よい”距離感で売店を構えていました。
歴史ある駅弁屋さんでしたから、1社になってしまったというのは寂しいものです。
1社になっても、3セク化されるまでは、ホームでの駅弁販売は続けていました。
じつは20年近いロングセラー駅弁!「さけめし」&「鱈めし」
―直江津駅では、ホテルハイマートの方が、真冬の吹雪の日でもホームに立って、駅弁を販売されていた記憶がありますが、ご苦労も多かったでしょうね?
私自身の経験ですと、さすがにずっと駅弁を積んだ重い籠を持っていると、体に堪えるので、折り畳みの台を携帯していました。
お客様がいらっしゃらないときは、その台に籠を置きながら、休み休みやっていました。
でも、本当に立ち売りが上手い方は、「べんと〜!」と声を張り上げなくても売れていました。
籠に積んだ駅弁をポンポンと叩くだけで、どんどん売れていくんです。
―2000年代初めごろの写真を見ると、当時から「鱈めし」「さけめし」はありますね?
まず、平成13(2001)年に、今回、駅弁大将軍をいただいた「さけめし」を開発しました。
上越市の桑取川にはサケが遡上してきますので、この文化を小箱に詰めこんだ格好です。
翌年・平成14(2002)年に、「酒に合う駅弁」をコンセプトに開発したのが「鱈めし」です。
鱈は他の駅弁屋さんにまずない食材であること、北前船の寄港地だった直江津ならではの食材ということで、棒鱈を駅弁に仕上げました。
「酒に合う駅弁」は、山崎社長の思い入れたっぷり!
―「酒に合う駅弁」というのは、やっぱり新潟だからですか?
単純に、社長が「酒好き」だからだと思います。
本当に「鱈めし」は、日本酒が進むんですよ!
「さけめし」が焼鮭といくらの親子でしたので、「鱈めし」も鱈とたらこの“親子”になりました。
「旅館山崎屋」も北前船の港町で続いてきた宿ですから、(北前船で京へ運ばれた)棒鱈の食文化を、駅弁として残していくことは、大いに意義があることではないかと思います。
―駅弁味の陣では、「磯の漁火」も“副将軍”に選ばれていますよね?
「磯の漁火」(1250円)は、完全に“酒呑みの駅弁”です!
社長が「鱈めし」にヒントを得て、さらに「酒に合う駅弁」を追求したのではないかと思います。
列車に乗って、おかずをつまみにチョット飲んで…。
おむすびは、〆のご飯です。
鉄道の旅は、アルコールと一緒に楽しめますからね。
(ホテルハイマート・山崎知夫営業統括部長インタビュー、つづく)
【おしながき】
- おむすび(梅干し・鮭)
- するめいか焼き
- 甘海老素揚げ
- さざえ煮
- にしん昆布巻き
- もずく酢(カニの身入り)
- オレンジ
- 野沢菜わさび漬け
- 香の物
魚系の駅弁は数多くありますが、地のものを使うと、なかなかコストに見合わないもの。
でも、「磯の漁火」は、お酒大好きな山崎邦夫社長自ら上越魚市場に足を運び、自身の目で選んだ魚介類がギュッと詰まった、「酒呑みによる酒呑みのための」極上駅弁!
なかでも、サザエやもずく、甘えびなどは、原則、上越の地物を使っているのだそう。
とくに貝殻ごと入ったサザエは、新潟・上越ならではの甘い味付けも楽しめる逸品です。
(注)土・日・祝日限定販売、平日は要予約(電話:025-543-3151)
新潟行の特急「しらゆき」は、直江津駅を発車すると柿崎から柏崎にかけて、日本海を車窓に望みながら、進んでいきます。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第22弾・ホテルハイマート編、山崎知夫(やまざき・ともお)営業統括部長のインタビュー。
次回は、北陸新幹線開業にまつわるお話を伺います。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/
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