糖尿病の影響で右足を膝下から切断することになってしまったプロレスラー、谷津嘉章選手。しかし先日、プロレス用義足をつけて自在に動き回る姿を記者会見で披露し、大きな話題となりました。この義足はどのように開発され、どのような特徴があるのか、開発を担当した川村義肢に聞いてみました。
オリンピック選手になったほどのレスリングエリートであり、数々のプロレス団体で活躍してきた谷津嘉章選手。2019年4月からプロレス団体DDTに参戦していた谷津選手でしたが、同年6月に糖尿病の影響で右足を膝下から切断することに。
手術後は懸命なリハビリを行い、2020年6月7日に開催される予定だった「Wrestle Peter Pan 2020」で復帰戦を行う予定でした。が、同大会は新型コロナウイルス感染拡大を受けて開催見合わせに……。
そんな谷津選手ですが、20214月26日の記者会見で6月6日にさいたまスーパーアリーナで開催される「CyberFight Festival 2021」(DDT 、ノア、東京女子プロレス、ガンバレプロレスによる合同興行)にて、一年越しの復帰戦を戦うことが発表されました。この記者会見では前述の義足をつけて自在に動き回り、ヘッドロックやストンピングをかける姿を披露。この姿はプロレスファンのみならず、義足でこれほど柔軟な動きが可能なのかとSNSでも注目を集めました。
谷津選手の義足を開発したのは、川村義肢。大阪に本社を置く、義肢装具業界の大手です。これまでにも数多くの義肢開発経験を持つ同社ですが、今回谷津選手の義足を開発することになったきっかけは、谷津選手が参戦しているプロレス団体DDTの高木三四郎社長と川村義肢の川村慶社長が高校の同級生だったこと。この縁で、復帰戦に向けた義足製作の依頼を受けることになったのです。
川村義肢によれば、谷津選手のプロレス用義足と通常の義足の違いは、プロレスの動きには欠かせない「ひねる動作」を考慮した点。スポーツ用か否かに関わらずほとんどの義足は、脚の断端を入れるソケット以外の部分の部分は用途に応じて既製品のパーツを選択して組み立てられます。谷津選手の義足では、これらのパーツの組み合わせがプロレスの動作にマッチしたものに調整されました。
ひねる動作に義足を追従させるため、足首の部分にはゴムボール型の関節を使用。これによって、前後方向だけではなく左右方向に義足を傾けることができるようになり、より広い可動域を確保しました。また、走るための義足ではないので、接地部分にはしっかりしたソールも装着。これにより、マットに踏ん張る動作も可能となっています。谷津選手の体重も考慮しつつ、これらのパーツが最適な形で組み合わされたのが、プロレス用義足というわけです。
また、使用者に応じた形でオーダー製作することになるのが、脚の断端を収めるソケット部分。谷津選手の義足ではプロレスの激しい動きや荷重に耐えられるよう、このソケット部分に強度に優れたカーボンを用いています。さらに断端を義足に固定するためのコンプレッション圧を、ソケット後面のダイヤルで変化させられるのも特徴。これによってその日のコンディションによって細かく異なる断端の形状にしっかりと義足を適合させられるため、プロレスの激しい動きにも義足を追従させることができるのです。
素材やコンプレッション圧だけではなく、ソケットの形状自体にも工夫が。谷津選手の得意技といえば「監獄固め」ですが、この技はかける際に自分の両足で相手の足を固めながら折り敷いていく動作が必要になります。プロレス用義足の設計にあたって目標となったのが、この監獄固めをかけられること。そこから逆算して、ソケットのカットラインを決定するという設計手順が踏まれました。
開発にあたっては、実際に谷津選手の意見や技を見ながらの作業となりました。川村義肢としても、プロレスラーと話しながらの義肢開発は初めての機会。プロレスの構え方などに関しては実際の谷津選手の動作を見つつ、義足の角度などを決定していくことになったそうです。そのかいあって、谷津選手はいろいろな技をかけることが可能になり、本人も大変喜んでいたとのこと。また、義足を使ってさまざまな技をかけられる点に関しては、もともとの谷津選手のポテンシャルの高さによる部分も大きいそうです。
以上のような方法で、プロレスに対応した義足の製作を成功させた川村義肢。「スポーツや格闘技に関わらず、今後もやりたいことを諦めずチャレンジしていただける製品を製作します」とコメントしてくれました。記者会見ではロックアップからのヘッドロックへ流れるような動作を見せ、さらに義足によってパワーアップしたストンピングも披露した谷津選手。この義足を使って、6月6日の「CyberFight Festival 2021」では思うままに暴れまわる姿を期待したいところです。
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そりゃまずいわけがないよなあ。