Steamストアくんに「お前が好きそうなゲームあるけどどう?」と言われ、ちょっと触ってみるか〜とプレイすると休日が丸2日消失する大事件が起きた。あまりに面白く、寝食を忘れて遊んだのは久々だった。「エルデンリング」ぶり。それは個人的には2022年ベストゲーム、いや生涯ベストゲームになり得るほどの体験だった。
今日はそんなゲーム「TUNIC」(Steam / Xbox One)を全力で推したいと思う。ネタバレ厳禁の特性を持つため、少しでも面白そうだなと思ったら読むのをやめて触ってみてほしい。Steamだけでなく、2022年4月現在、Xbox Game Passでも遊ぶことができる。
見た目はモフモフ、中身はガチガチ!
「TUNIC」は3月にリリースされた見下ろし型のアクションゲームで、作者はカナダの個人ゲーム開発者、Andrew Shouldice氏。ゲーム全体が一目ぼれするようなかわいらしい見た目をしていて、主人公の子ギツネがてってってっと走り、耳がピコピコ尻尾がフワフワ動くのが愛くるしく、回避すると動物特有のシュッとした動きも見せてくれる。フィールドの造形も角ばっているのにどこかモチモチっとした触感をしている。最近リメイクされた「ゼルダの伝説 夢をみる島」のようだ。ローポリ風なのにどこか新しい、そんな感覚を常に感じさせてくれるビジュアルだった。
モフモフな見た目からは想像もできないくらい戦闘はハードだ。連発でき、無敵時間がある回避が便利だが、スタミナを使いきってしまうと回避不可となりダメージを受ける。そんなソウルライクな戦闘を採用しているので、慣れていない人には難しく感じるとは思うが、決して理不尽な死にゲーという感じではなく、試行錯誤と消費アイテムを惜しみなく使うことでサクサクと進める程度のバランスだ。
“無敵”オプションが最初から解放されていることからも、本当に味わってほしいのは戦闘よりもパズルを解いたときの達成感であることが伝わってくるので、アクションゲームが苦手な人も挑戦してみてほしい。ラスボスまでは10〜15時間程度のあまり長いゲームではないので、強いボス戦では消費アイテムをケチらず使うのがおすすめだ。
“丁寧で不親切”なゲーム
このゲームは不親切なゲームだ。ゲームを始めるとチュートリアルの類いは一切なく始まる。プレイヤーは手探りで見つけた回避ボタンや攻撃ボタンを用いて先に進むと、何枚かの“説明書”を拾うことができる。これで操作方法が分かるかと思いきや……読めない。
説明書には未知の言語で操作方法が表記されている。このゲームでは、説明書だけではなく看板や会話までほとんどの言語が未知の言語で記されている。そのため、説明書を読むことで理解できるわけではなく、表記されているボタンを押したときにどのような変化が画面で起こるかを説明書と擦り合わせて推測する必要がある。
例えばLトリガーを押すと周辺の敵がロックオンされ、説明書でもロックオンされる敵が図解されているため機能として正しそうだ。しかしAボタンの説明を見ると、コンマで区切られた3つの意味があるよう見受けられる。現状ではアイテムを拾う“アクションボタン”としての機能と“回避行動”としての機能を把握しているが、あと1つは分からない。Rトリガーは盾を構えるボタンのようだが、この段階では持っていないので盾を探しに行こう――。
このようにTUNICは「ゲームを進行させると詰んでしまう」→「説明書のページが周辺で手に入る」→「なんとか読み取れる図やシチュエーションで試行錯誤することで探すべきアイテムのヒントや行ける場所が増える」という流れになっていて、まるで本当に未知の土地を冒険しているかのような気分にさせてくれた。
最初は不親切に感じた説明不足感も、ゲーム開始1時間ほどでこのような体験をさせるためにあえて行っていることだと察することができ、ゲームの掌の上で転がされているような気分が悔しいながらも楽しい。ヒントの出し方も、プレイヤーが詰んだ瞬間にスッと差し出されるような絶妙なタイミングで、“丁寧”と“不親切”が両立していると感じた。あえて不親切さを演出しながらもプレイヤーに面倒くささを感じさせない絶妙なバランス感覚は匠の技である。
また、友人が「言葉の分からない説明書を読みながらゲームを進めるという体験は、ろくに漢字も読めない子どものころのゲーム体験とちょっと似ている」と言っていて、素晴らしい例えだと思った。最近の自分はゲームに慣れて来ていたり、ゲームも親切になってきているので気づいたら説明書を読まずにクリアしてしまったなんてこともあるが、こうやって説明書と一緒に旅をする楽しさを思い出せたことが懐かしくもうれしかった。
謎の先輩プレイヤーとともに
やや難易度の高い謎解きは存在するが、説明書には図解以外にも「前にこのゲームを遊んだプレイヤー」が残してくれたメモがあり、それで解決する場合もある。
例えば地下墓地の地図にはたくさんの書き込みがあり、ワナやトゲ床、敵の所在などがびっしりと書き込まれている。鉛筆でそのまま書き込んだようなメモ跡は非常に役に立つとともに、友達から借りたゲームソフトの説明書に直書きされたメモを見たときのようなノスタルジーに襲われる。
見下ろし型のゲームなので、物陰にある隠し通路などは気付きづらいのだが、このメモのおかげで道が広がったりするので説明書のページを拾うたびに隅から隅まで目を通してしまう。もちろんメモも謎の言語で書かれているため簡単には理解できないが、ゲーム画面と照らし合わせることで解決するとしっかりと気持ちいい。この謎の先輩プレイヤーの存在は、未知の土地で心細くも冒険する自分とともに歩むような心強い存在で、終始元気づけられた。
記憶を消してもう一度やりたいゲーム、ある?
※この先は軽微なネタバレを含むため、できればプレイ後に読んでください
「STEINS;GATE」で“まゆりを助ける”意味を知ったとき、「Portal」でケーキをもらえた瞬間、「Outer Wilds」で初めて月に降り立ったとき……脳を揺さぶられるような衝撃と快感は一度知ってしまうと二度は味わえない残酷なもの。特にゲーム全体がひらめきの塊でできている「Outer Wilds」は、ゲーム自体が再プレイを想定していない一度きりの体験であるため、ファンはその記憶を消すことが出来ない苦しみから「Outer Wildsゾンビ」として、インターネット上の新鮮な悲鳴を求めさまよい続ける。
一番面白い核心の部分を避けて語り続けたが、ここまで説明した要素は「TUNIC」のほんの一部分にすぎない。実は「TUNIC」も「Outer Wilds」と同じ類いの、一度きりの体験……クリア後に消せない記憶が増えたと激しく身悶えするようなゲームだ。
できることならば、記憶を消して「TUNIC」をもう一度遊びたい……だがしかしそれは叶わない。だからこそ「TUNIC」はこれ以上の情報を入れずに楽しんでほしいゲームだ。「何かあるんだな」と身構えて遊ぶと肩透かしを食らうなんてことは自分にもよくある経験なのだが、「TUNIC」はそんなハードルを簡単に飛び越えてはるか上空まで飛び立ってしまった。
もちろん、ネタバレ厳禁な要素を内包しながら、決してそれだけに特化した“一発ネタ”のゲームではなく、前述したアクション要素やオリジナル言語を用いた探索だけでも面白いのが「TUNIC」の優れたところだと思う。しかし、あの極上のパズルたちとは2度と向き合うことが出来ないことがあまりにも悔しい……自分はこれから「TUNICゾンビ」としてインターネットをさまようので、これを読んでくれた皆さんが新鮮な悲鳴を届けてくれることを心待ちにしている。
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