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「私って“人の顔”が覚えられない」Twitterで4万いいねの漫画が描く「相貌失認」とは 作者と脳神経外科医に話を聞いた(2/4 ページ)

「自分のことかも?」と思う人はすぐそばにいるかも。

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工藤千秋医師の見解

―――相貌失認とはどういった症状でしょうか。また、人口のうちどれくらい発症者がいるのでしょうか。

 相貌失認とは、目の前にいる相手の顔を見ても誰だか分からず、その表情の識別がうまくできない病態です。

 具体的には、人気グループの数人の顔の区別ができない、男女の区別、だいたいの年齢も分からない、旧知の友人の顔が思い浮かばない、職場外で同僚に素顔であっても分からない、自分の鏡に映っている顔に違和感があり、他人の感情変化に伴う微妙な表情が読み取れない……などの状態で、新しい人に会っても以前会った人かどうかが分からず大きな不安感に襲われるので、会いたがらないなどの特徴があります。

 発症者(正確には有病率)については人口の2%近い人が、程度の差はあるものの相貌失認だという報告もあります。人口が100万人の都市では2万人もの人が良く知っている人の顔を見ても分からないというわけです。

 脳出血や頭部外傷後に生じる相貌失認は周囲も本人もすぐ分かるので認識されやすいのですが、先天的に相貌失認を持っていると、物心がついたころから相手の顔を認識する力が低いため、気付きにくいようです。

顔が覚えられない私の話
相貌失認は目の前にいる相手の顔を見ても誰だか分からない状態

―――相貌失認の患者さんは、どんな悩みをもつことが多いのでしょうか。

 大きな悩みとして、自分は本当に覚えておらず、その人に会っても思い出せないのに、相手からは「いつも私を無視する嫌な人、知らないふりをする冷たい人」とみられ、気まずい関係と誤解が積み重なってしまい、いつしか思いもよらぬ人間関係に発展してしまう……という話を伺うことが多いです。

 また、テレビドラマや映画を見ても、場面が代わると登場人物が認識できないため、ストーリーがよく理解できないということもあるようです。さらに高齢者になると、認知症と間違えられやすい傾向が出てきます。

顔が覚えられない私の話
本当に覚えていないだけなのに
顔が覚えられない私の話
相手の気分を害してしまうことも

―――相貌失認の症状の軽減、緩和ができる療法はありますか。

 相貌失認は原因が不明であるため、治療方法として確立したものは現在ありません。しかし日々の訓練として、相手の顔以外の特徴を記憶する努力を勧めています。

 例えば、声のトーン、髪形、服装の嗜好や傾向、特徴的な口ひげやほくろの存在、よくつけている香水の香り、しぐさ、歩き方など、その人物の結び付けを行うことなどです。

 また、このような状態は決して恥ずかしいことではないので、周囲の方にカミングアウトしてしまうことが、ご自身の周囲に対する気持ちも落ち着き、同時に人間関係のトラブルを回避、もしくは緩和していける対策であると思います。

 2013年に俳優のブラッド・ピッドがカミングアウトした話は当時驚かれたようですが、今は周囲のみんなが認識しているため精神的に楽になったとの本人のコメントを耳にしたことがあります。

(了)

顔が覚えられない私の話
顔以外の要素を覚えるように
顔が覚えられない私の話
始めに話してしまうのも有効

 今読んでいるあなたの身近にも、「私は人の顔が覚えられない」と思い悩んでいる人がいるかもしれません。「あの人は忘れっぽい」と非難するのではなく、理解と思いやりを持って接することができたら良いですね。

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