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「粉ミルクをぬるま湯で作ると危ない理由を知ってほしい」 管理栄養士のTwitter投稿に4万いいねの反響、小児科医に詳しい話を聞いた(1/2 ページ)

しっかり覚えておきたい。【2022年7月4日13時15分訂正】

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 2022年初め、米国で汚染された粉ミルクを摂取した乳児2人が死亡しました。このニュースを受けて投稿された「粉ミルクをぬるま湯で作ると危ない理由を知ってほしい」というツイートに、大きな反響が寄せられています。

粉ミルクをぬるま湯で作ると危ない理由
赤ちゃんの健康を守るために覚えておきたい(画像はイメージ)

 米アボット・ニュートリション社が製造した粉ミルクがクロノバクター・サカザキ(Cronobacter sakazakii/別名:サカザキ菌)に汚染されており、摂取した乳児2人が死亡しました。同社は2022年2月に大規模なリコールを実施し、ミシガン州にある工場の操業を停止しました。

 このニュースは5月23日に「ニューズウィーク日本版」が、6月21日に「ナショナルジオグラフィック」が報じ、どちらもYahoo!ニュースに掲載されています(ニューズウィーク日本版ナショナルジオグラフィック)。

粉ミルクをぬるま湯で作ると危ない理由
粉ミルクの汚染で乳児が死亡(画像はイメージ)

 この報道を受けて、管理栄養士である道良kiT(@doramao)さんが「ヤフーニュースに育児用粉乳の食中毒のニュースがあったがコメント不可だったのでこちらに簡単に書くが、それを予防するために、育児用粉乳は70℃以上のお湯で溶かすように書かれているわけです。すぐに飲めるようぬるま湯で溶かすのがなぜNGなのか広まって欲しいです」とツイート。「70度以上じゃないと溶けないからだと思ってました」「お湯にするにはちゃんとした理由があるんですね」と反響が寄せられています。

 道良kiTさんはさらに「育児用粉乳は病原性の微生物が0の食品ではありません。包装に書かれた提供方法を守ることで赤ちゃんの食中毒を予防する事ができます。外国だけの話じゃないと思って欲しいです」「個人的には、使用後の哺乳瓶を薬液で殺菌するより、粉ミルクを溶かす時の温度をしっかり守る方が大事だと思ってます」ともツイートしています。

粉ミルクをぬるま湯で作ると危ない理由
指定された方法を守ることが大切です(画像はイメージ)

 粉ミルクの安全性は、赤ちゃんの健康に直接関わること。編集部は「育児用粉乳はなぜ70℃以上のお湯で作る必要があるのか?」「育児用粉乳を作る際に気を付けた方が良いことは?」など気になる点について、たけつな小児科クリニック(奈良県生駒市)の竹綱 庸仁(たけつな のぶひと)院長にお話を伺いました。

たけつな小児科クリニック(奈良県生駒市)

竹綱 庸仁(たけつな のぶひと)院長

平成21年に小児科専門医を取得。平成29年にたけつな小児科クリニックを開院。院内での血液検査をはじめ、脳波検査、レントゲン検査、軽症の救急患者様の治療ができるように体制を整えている。

―――育児用粉乳はなぜ70℃以上のお湯で作る必要があるのでしょうか。ぬるま湯ではだめな理由をお伝えいただければと思います。

 まず、育児用調乳が無菌ではないという点を認識しておくことが大切です。関西にお住まいの方では比較的経験のある方も多いと思いますが、スーパーなどで買ってきたお好み焼き粉や小麦粉など、開封しなかった場合でも、時間経過とともに、虫がわいたり、変色したりした経験をお持ちだと思います。この現象は、製造の際にほぼ無菌的な操作がなされているとは思いますが、微量でも細菌などが混入する可能性があることを示唆しています。それと同様に育児用粉乳も製造過程で細菌の混入が否定できないため、腸管免疫が未熟な新生児、乳児がミルクを摂取する際には、混入した細菌を死滅させる必要があります。

 細菌は発育至適温度により、低温細菌(至適温度12〜18℃)、中温細菌(30〜38℃)、高温細菌(55〜65℃)、耐熱細菌(一部95℃)に分類され、育児用粉乳に混入しやすい菌は低温細菌であるサルモネラ菌は約55℃、サカザキ菌は約45℃で殺菌が可能であるため、調乳には70℃以上のお湯を使用することで、ミルクに細菌が混入している場合でも、赤ちゃんが細菌に感染するリスクを低下させることができます。

―――サカザキ菌、サルモネラ菌はどのような菌で、赤ちゃんにどのような症状を引き起こすのでしょうか。症例、感染後の後遺症などがあれば教えてください。

 まず、サルモネラ菌はヒト・動物の腸管内に生息し、感染が成立すると下痢、嘔吐、発熱などの胃腸炎症状が出現します。サルモネラ菌に感染した際に嘔吐、下痢を繰り返すことで、哺乳や水分摂取が低下することで脱水に陥り、重篤化した際には腎不全などを引き起こす可能性もあります。

 一方、サカザキ菌は動物のみならず、野菜類などからも検出されることがあります。サカザキ菌はサルモネラ菌よりも重症化率が高く、腸管への影響として壊死(えし)性腸炎、また、ダメージを受けた腸管から細菌が血液へ侵入し、敗血症を引き起こします。また、サカザキ菌は神経との相性がよく、髄膜炎を引き起こすこともあり、致死率は20〜50%と報告されています。

―――お湯の温度以外にも、育児用粉乳を作る際に気を付けた方が良いことはありますか。

 先程も述べたように、育児用粉乳で赤ちゃんに授乳する場合、無菌的ではないと認識しておくことが非常に重要となります。授乳の際に細菌が混入している可能性として、ほぼ見られることはありませんが、(1)原材料に細菌が付着していた、(2)育児用粉乳の製造過程で細菌が混入した、(3)授乳前の調乳器具(哺乳瓶などの)の細菌の付着の3点が考えられます。(1)、(2)においては、

  1. 販売元が指示している方法(温度)で調乳する
  2. 開封、未開封にかかわらず、できるだけ早く製品を使用し、期限の過ぎた粉乳は使用しない。
  3. 保管方法は紙で放送されているものよりも、ビニール製または、プラスチック、缶などの細菌の侵入しにくいもので保管する。
  4. 指示されている方法で調乳した場合でも、2時間以上経過したミルクは破棄する

以上の4つの点に注意する必要があります。

 また、(3)の調乳器具に関しては、授乳直後にしっかりと洗浄、消毒を怠らないことが重要となります。

 さらに、外出をする際には、缶から小分けした粉乳を持ち歩く場合も想定できますが、小分けをした容器などは消毒、殺菌し忘れている場合も想定され、個包装になったタブレットタイプの粉乳を持参することも、感染を予防する方法の一つです。

―――今回のニュースを受け、育児用粉乳の使用に不安を感じた方も少なくないようです。そうした保護者に向けてメッセージがあればお願いします。

 先程お話ししたように、調乳をするという行為は感染症と隣り合わせという事実は否めません。しかし、重篤化しやすいサカザキ菌が原因で死亡した例は、わが国では過去に2例の報告のみであり、多くの赤ちゃんが育児用粉乳で育児をされていることを考えると、サカザキ菌やサルモネラ菌の感染を過度におびえる必要はありません。

 ただし、調整乳で育児を行っていく場合、赤ちゃんは学童の子どもや成人と比較し、腸管免疫を含めた免疫力が未熟であるため、感染を予防するため、ご家族の手間や負担は十分理解できますが、販売元の指示する調整方法で調乳し、感染のリスクを減らすことが大切です。

【2022年7月4日13時15分訂正】初出時の記事タイトルで、「管理栄養士」を「栄養管理士」と誤って記載していました。お詫びして訂正いたします。

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