世界一臭い食べ物「シュールストレミング」を開けて食べられる無料イベントが「狂気」「おそろしい」と話題に 主催者「保存食の偏見なくしたい」(1/2 ページ)
主催者に話を聞きました。
「世界一臭い食べ物」と言われる塩漬けのニシンの缶詰「シュールストレミング」を開封・試食できるイベントが、SNS上で「狂気のイベント」「足の震えが止まらない」などと話題を呼んでいます。今回、編集部ではイベントを主催する東中野5丁目小滝町会に話を聞きました。
「『世界一臭い!?』を食べて、地球の未来を考えよう」は、8月21日に東京都の東中野区民活動センターで開催するもの。匂いが強烈なことで知られるシュールストレミングを開封し、スウェーデン大使館直伝のレシピで調理したものを試食できます。参加に予約は不要で、東中野5丁目以外の人でも参加可能です。
現在のところ、シュールストレミングの配布数は200食程度を想定しており、提供数を増やすための方策も検討したいとしています。来場者が多い場合には整理券を配布する場合もあるとのこと。
イベント時の写真や動画の撮影、SNSへの投稿は自由です。東中野5丁目小滝町会のメンバーであるKeisuke Nakanishiさん(@neko_nakanishi)はSNS上で、「あなたのSNSアカウントがバズること間違いなしです。スウェーデンの食文化に敬意を表し、用意した2缶の完食を目指しています」などと投稿しています。
やはり、気になるのはシュールストレミングの匂い。イベントのチラシでは「黄金色に輝く缶を開けた、その瞬間! プシュッと吹き出す不気味な液体! 発酵したニシンが醸し出す強烈な臭いに悶絶(もんぜつ)し、逃げ惑う人々」と、シュールストレミングが悪臭を放つことをアピールしています。そんなに強烈なんだ……。
SNS上では「怖いもの見たさはあるw」「これ逃したら一生食べないだろうし気にはなるな」「お化け屋敷よりも阿鼻叫喚が予想されて怖すぎる」などと大きな話題に。8月6日には、東中野5丁目小滝町会が反響を受け、イベントの最新情報を周知するために、急きょ公式Twitterアカウント(@otaki_chokai)を開設する事態にまで発展しています。
主催者「大きな反響は想像していなかった」
Keisuke Nakanishiさんに話を聞いたところ、意外なことに「私自身はシュールストレミングを食べたことはありません」とのこと。では、なぜこのようなイベントが開催されるのでしょうか。
編集部では東中野5丁目小滝町会に話を聞きました。一見、とんでもない「狂気のイベント」に思えますが、主催者たちには隠された意図がありました。
──今回のイベントを企画した目的を教えてください。
東中野5丁目小滝町会(以下、小滝町会):今回のイベントは、「『世界一』と呼ばれる物を経験する機会を提供することで、多くの地区住民や参加者に生涯忘れられない思い出を作ってもらいたい」という点に主眼を置いて企画しています。
また、偏見につながりがちな強い臭いが理由で嘲笑の対象になっているシュールストレミングについて、多くの方に実際に食べてみる機会を提供することで、優れた保存食にまつわる偏見を少しでも減らしたいです。スウェーデンの人たちの素晴らしい知恵と食文化が存在すると理解してもらうことが重要だと思います。
ひいては人や特定の物、考えが生来の特性により偏見にさらされることが少なくなることが理想です。とりわけ若い世代に見た目や臭い、他人からの情報に惑わされず、自ら判断し、異質な文化や価値観を理解する体験をしてもらいたいと思っています。
──SNS上では「狂気のイベント」などと話題になっていますが、真面目な意図があったんですね。シュールストレミングを選んだ経緯についても知りたいです。
小滝町会:町会員の1人がAmazon.co.jpで安売りされていたシュールストレミングを購入してしまったものの、開封できる場所が見つからず、町会の岸会長に「町会のみんなで開けて食べてみませんか?」と相談したことが発端です。岸会長から「せっかくだから多くの方が参加できる町会のイベントにしましょう」という提案があり、公開イベントとして企画することにしました。
──今回、提供するシュールストレミングは発端となったAmazon.co.jpで入手したものなのでしょうか。調理方法についても教えてください。
小滝町会:最初に町会員がAmazon.co.jpで購入したものは、リトアニアの業者から航空便で郵送されてきました。ただ、冷蔵輸送でなかったため缶に若干の膨らみがあり、内部を確認できませんでした。そこで、正規代理店「三幸貿易」でスウェーデンから冷蔵輸送されてきたシュールストレミングを購入しました。なお、本イベントは三幸貿易様より全面的なご理解とご協力をいただいています。
調理方法については、駐日スウェーデン大使館の商務部から現地のレシピを提供いただいており、それに従い調理します。現地の薄切りパンに、マッシュポテトや玉ねぎなどを乗せ、そこにごく小さくスライスしたシュールストレミングを載せる料理です。北新宿の魚店「魚繁」と小滝町会の「岸由」が調理とアレンジを担当します。
──当日、シュールストレミングを扱ううえでの注意点を教えてください。
小滝町会:シュールストレミングの開封と調理は屋外でする予定です。開封などの危険がともなう作業は町会のメンバーが実施します。皆さんにはカナッペのようにパンなどの上にシュールストレミングの切り身を乗せたものを提供しますので、直接臭いや魚に触れる可能性は少ないと思われます。
ただ万が一、衣類に魚や魚由来の水分が付着した場合、服が再利用不能になる可能性が高いです。お気に入りの服での来場は控えていただければと思います。シュールストレミングに起因する事故や汚損については、主催者側では責任を負いかねます。ご理解、ご容赦お願いできればと考えています。
──SNS上で話題になっているため、参加者が殺到する可能性もあると思います。全員分のシュールストレミングを用意できるのでしょうか。
小滝町会:三幸貿易様の協力をいただき、十分な量のシュールストレミングを確保するよう努めています。ただ、シュールストレミングは単体で食べる物ではなく、パンやマッシュポテトと一緒に食べるものです。材料や調理時間に限りがあるため、現在のところ200食程度は配布できると見ています。
なるべく1人(状況によっては1団体・1家族)1食の配布にご協力いただければ幸いです。ご家族や大切な方を誘って来場して、ぜひ「生涯忘れ得ぬ、ひと夏の思い出」を作ってもらいたいと思います。
──シュールストレミングの開封と試食以外に、食文化に関する講義とトークセッションがあるようですが、どのような内容なのでしょうか。
小滝町会:現在、講師となる方は最終調整中ですが、欧州や北欧の国々で進められているSDGs(持続可能な開発目標)のための取り組みについて講義をしていただく予定です。北欧食の哲学である「地元で取れる食材」「知恵を生かした調理・保存」というスタンスは、地球の持続性を取り戻すSDGsにも通じる考えだと思います。
講義の内容をもとに「私たちがどのような行動を起こすことで、地球環境の保護や温室効果ガスの削減に貢献でき、さらには多様性が尊重されるコミュニティーができるのか」についても議論したいです。シュールストレミングの臭いを克服し、その知恵を理解するというイベントの趣旨に照らし合わせ、自分たちの偏見を取り去り、他者の意見に耳を傾ける機会になればと考えています。
──今後、またこうしたイベントを開催する予定はありますか?
小滝町会:異文化理解や多様性促進に関するイベントは今後も継続して開催していきます。シュールストレミングの試食についても、町会や今回ご参加いただいた皆さんの声に耳を傾けながら、継続的に実施する方向で前向きに検討していきたいです。
スウェーデンでも毎年8月はシュールストレミングの解禁を祝う月間と位置付けられているそうです。今回のイベント開催の時期は偶然の一致となりましたが、今後はスウェーデンをはじめとした北欧の国々の文化を深く理解する機会として、イベントの活用も検討していきたいと思っています。
東中野5丁目が「シュールストレミングの街」として知られることはないとは思いますが、こうしたユニークでありながら真剣に街づくりを議論するイベントを開催する町として、広く認知していただければうれしいです。
──最後の質問です。町会として伝えたいことは何かありますか?
小滝町会:大変多くの方にお問い合わせと参加希望をいただき、心より感謝申し上げます。正直、ここまで反響の大きなイベントになるとは想像していませんでした。町会のチャレンジングな取り組みに関心を抱いていただき、大変うれしいです。
一方で、SNS上では「奇をてらったイベント」というご理解をされている方も散見されます。しかし、町会としては、今回のイベントは「外国人講師を招いた民族料理教室のような異文化理解促進イベント」の延長線上にあるものだと考えています。
できる限り多くの方に関心を持っていただき、匂いや文化の違いから、私たち全員がつい抱いてしまう偏見や思い込みに正面から向き合い、それを克服することで、世界の広さや社会の多様性、人類の叡智(えいち)の深さを知る真面目なイベントにしたいと思います。
画像提供:東中野5丁目小滝町会、Keisuke Nakanishiさん
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