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僕が小説を書くのは“人より弱い人間”だから 「ぶんけい」柿原朋哉、2年かかった初長編『匿名』で生まれた覚悟(1/2 ページ)

「世の中に認めてもらえるような作家になりたい」。

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 YouTuberの“ぶんけい”として知られる柿原朋哉さんが8月26日、初の長編小説『匿名』(講談社)を出版します。

 柿原さんは2012年、監督脚本を手掛けた「disPair」がNHK杯全国高校放送コンテスト 創作テレビドラマ部門で優勝するなど映像分野で頭角を表し、2016年には大学を中退して制作会社「トウメイモード」(現・ハクシ)を設立。また「踊ってみた」動画投稿でも注目され、2015年から2022年まで運営していたYouTube「パオパオチャンネル」は、登録者数141万(2022年8月15日時点)に達する人気を博しました。

 映像の世界のみならず、2020年5月にはエッセイ本『腹黒のジレンマ』(KADOKAWA)を刊行。今回新たに出版される『匿名』は、覆面アーティストFと、ファンアカウントでFの正体を追う友香を中心に、2人の過去と現在が交錯するミステリアスな物語です。

 マルチな活躍をする柿原さんですが、インタビューでは、本作をもって作家という仕事を「一生続けていきたい」と真剣なまなざしで告白する一幕も。数年来の執筆へ至った思いや登場人物の秘話、今後の展望について聞きました。

“ぶんけい”こと小説『匿名』を書いた柿原朋哉
『匿名』作者の柿原朋哉さん

内面と向き合いたどり着いた思い「物語を作りたかった」

―― 映像制作やYouTuber、ファッションブランドの立ち上げなど、さまざまなクリエイティブ活動をしてきましたが、新たに小説へ挑戦した理由をお聞かせ下さい。

柿原朋哉(以下、柿原) これまでは自分の可能性を広げることが人生最大の楽しみでした。

 でも可能性を広げたうえで「人生があと50年あるとしたら、何して生きたいだろう」「次のものを見つけなきゃ」と数年かけて考えたとき、やってきたことに実は共通しているものがあったと気付いたんです。「物語」でした

 小学生のときは教室で下手なマンガを描き、映画監督になりたくて大学に進学し、YouTubeでは、始まりから終わりまで、どうやって視聴者に楽しんでもらうかを常に考えている。これって全部物語を作りたかったのかもしれないなと気付いたのが、小説にチャレンジしたきっかけでした。

―― 幼少期から「ものづくり」をし続けていたのですね。柿原さんにとっての原体験はどこだと思いますか?

柿原 「もしかしてこの辺かな」と思うのは、両親が僕をよく褒めてくれたことです。迷路や絵を描いたりしたときに褒めてくれて。自分が何かを作って褒められることが、すごくうれしいことなんだと気付いたのが、まず1つ。

 そのうえでさっきお話しした、僕の作ったもので人が楽しんでくれる経験が原体験なのかなと。あとは単純に「自己表現」が楽しかった。妄想が形になるのが楽しい。その点、小説って僕にとって、可能性が広がる選択だったんですよ。

―― というのは?

柿原 映像で宇宙の話を作るのはとても難しい。一方で、小説だと1行で宇宙に行けますよね。これまで短編映画やMVを作ってきて、スケジュールや予算などの関係で「できる」「できない」があることに、我慢できないと感じることがありました。さらにあるとき、「時間がなくてできない」「金銭的に無理だ」って言い訳にしている自分に気付いたんです。

 でも、小説だと言い訳ができない。だから挑戦してみたかったんです。当然ながら壁にもぶち当たりました。確かに1行で宇宙に行けますけど、「面白いものを作る技術」はまた別なので。

―― 映像であれ小説であれ、大変なことはトレードオフですね。他に難しかった点はありましたか?

柿原 『匿名』を書くのが決まったタイミングで短編を書かせてもらいました。そのときから、自分の中には「面白いだろう」という気持ちがあるのに、十分に表現しきれてない葛藤がありますね。「もっと面白くできる」「じゃあ、どうやったらこれを面白くできるんだろう」って。

 あとはまだ世に届いていない1作目だから(※このインタビューは7月実施)、良し悪しの反応が全然分からない点です。書いている2年間ずっと苦しかったですね。これがYouTubeなら、昨日撮った動画は今日にも公開して、反響がすぐ伝わるのに。両者のギャップには苦労しましたし今もまだ悩み続けています。

自分は「人より弱い人間」

―― 今回“ぶんけい”名義ではなく、“柿原朋哉”として出版されたのはなぜでしょう?

柿原 多くの人に知られるようになった名の“ぶんけい”で出すか、本名の“柿原朋哉”で出すか、書き始める前からずっと悩んでいました。結局今回は、1人の人間として世に出したい気持ちが優りましたね。

 「今まで積み上げてきたものの上で作ったもの」という見え方じゃなく、純粋に自分の中から出たものを書いていきたい。今自分がいるところから1回降りて、地に足をつけてやってみたいという決意を表したかったからです。

―― “ぶんけい”として、さまざまなことに挑戦されていました。今回の小説もですが、新しいことに次々挑戦する行動力はどこから来るのでしょう。不安になることはありませんか?

柿原 不安はあります! 行動力のお話ですが、根性というか「どうにでもなる」という思いが前提にある気がします。甘いのかもしれませんが、「どうなっても生きていきたい」「死にたいとは思わないだろう」という謎の自信があって。

 自分って環境的に自分を追い込まないと、頑張れないタイプなんです。起業のときに大学を辞めたのも、卒業してしまうと「卒業」の肩書に甘えて最後には就職するかもしれないと思ったからです。人生のいろんなタイミングで、自分を追い込んでいますね。

 よく「すごいね」「強いね」って言ってもらいますが、僕は逆だと思っていて。人より寝たい、人より食べたい、人よりさぼりたい、人より弱い人間だから、そうならないようにしているだけ。前向きな思いというカッコいいものではなく、ちょっと見せたくない感情が起点になっています。それが、行動力に見えるのかもしれません。

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