【「ソウルハッカーズ2」肯定寄りレビュー】文化が停滞した未来像とリンクする「続編としての在り方」 素直な続編ではないが、単体のJRPGとして見れば悪くない(3/5 ページ)
アトラス作品のシステムを混ぜ合わせて、ライトに生まれ変わったJRPG。
キャラクターの感情表現を重視した要素とフェイスパターンへの注力
本作における最大の魅力は、メインとして物語に絡むサマナーの描写、そしてそこを重視したキャラクターゲームとしてのアプローチだろう。ペルソナシリーズのような絆(相互理解)を押してはいるが、社会人であることからも割り切った描写がされており、思春期特有のストレスにつながるような言動や行動が存在していない。この点は非常に魅力的だ。学生の年齢層が主役になるJRPGでは、逆にそうした若さ故の暴走が物語の広がりにもなっているが、そこに視点を当てないことでまた違った雰囲気を作ることに成功している。主人公側の行動も不快ではなく、情報の海から産まれた生命体ではあるのだが人間以上に人間臭く描かれた主人公のリンゴも、嫌われるような行動や言動ではないはずだ。現代のAIとして最初から完成した人格を持っているので、極端な成長は見られない代わりに安定している。
拠点となる「セーフハウス」では、食事をすることで特殊効果を得られるボーナスが発生する。食事中の会話も料理ごとに異なっており、こうした面からもキャラクターを押そうという意識が見て取れる。テーブルの上に並ぶ食事に違いがなく、どのパターンでもおかしくないように「大体の料理が並んでいる」というゴチャゴチャした描写がされている点には、予算や制作コストの厳しさを多少感じてしまった。とはいえ、テキストのパターン自体は多めに用意されている。スキルを取得したときにもちょっとしたやりとりがあり、仲間たちとの会話は多い。メインとなるサマナーと主役周りの描写には力を入れていると感じた。
全体的に力を入れている場所と、それ以外の部分の差が非常にハッキリしている作品でもある。例えばキャラクターのグラフィック1つとっても、メインキャラクターは表情含めてバストアップのイラストがいらないほどにモデリングとフェイスパターンが作り込まれている。コマンドが効くか効かないかで微妙に表情が異なり、イベント中でも答えをはぐらかす場面で口元が微妙にゆがむなど、3Dモデルのシーンではウィンドウ部分のバストアップイラストが過剰に感じるほど演じ分けがなされている。声優の演技も、実際の子役を使ったフランマ以外は雰囲気を壊さず合っていた。フランマに関しては声優自身が悪いのではなく、その役として起用した側の使い方が悪い。フランマに機械的なイメージを与えたかったのだろうが、音声の加工もないため滑舌は人間の子どもそのままであり、没入感を削いでいる。とはいえ、ここは重箱の隅をつつく程度のものであり、本作の問題点というほどでもない。
雰囲気に合わせてモデリングされた悪魔の解像度も高い。「真・女神転生V」に登場した同じ悪魔と比較するとモーションは限られているが、作品に合わせて全面的に作りかえられており、こだわりは感じられた。むしろ、そこは使いまわしてコストを削ってもらうくらいでも構わないのだが、良くなっているので文句は言えない。登場人物が少なく設定に反して狭い世界の物語に見える部分はあるが、キャラクター同士の感情の動きや相関自体は分かりやすく、人間同士の掛け合いを描くキャラクターものとしては成功の部類に入るだろう。後半の行動はやや性急に感じるが、DLCの「Lost Numbers」を遊べば唐突に感じる面も緩和はされる。ただ、発売と同時に本編を切り売りするDLCの印象はあまり良くなかった。
悪魔や伝承、神話を物語に絡めるというアトラス特有の要素はことごとく薄い(コヴェナントやAionは聖書や神話の要素ではあるが、単語を引っ張っただけでいくらでも置き換えができる)が、それは逆にマニアックな方面ではない話として読みやすいということでもあり、ストーリー自体は個人の好みを抜きにして、好きだという人がいるのも頷ける。
ただし、気を付けたいのが本筋だけを追っていくとキャラクターの掘り下げが不足するという点だ。本作には、必ずしもクリアに必須ではないサブダンジョン「ソウル・マトリクス」が存在している。このダンジョンはアロウ、ミレディ、サイゾーの3人の仲間それぞれに用意されており、ソウル・マトリクスを攻略することで「ビジョンクエスト」と呼ばれる回想シーンが発生。各キャラクターの過去が掘り下げられる仕組みだ。ペルソナシリーズを遊んでいる人向けに説明すれば、「ペルソナ3」のタルタロスや「ペルソナ5」のメメントスに似たサブダンジョン(ペルソナの場合はクリアしないといけないが)のような存在だ。むしろ、「ペルソナ4」でメインとなる仲間たちのシャドウがいた迷宮のほうが近いかもしれないがランダムダンジョンではなく、残念ながら内装もペルソナほど凝ってはいない。
ソウル・マトリクスは見た目が殺風景かつ、どのキャラクターのダンジョンも同じような背景であからさまな手抜きを感じてしまった。構造もあみだくじのように単調で、本作を肯定している人でも不満点に挙げられるくらい、ゲームの明確な欠点だ。それなのに、クリアすることで味方が使える便利なスキルが手に入ること。回想シーンによる掘り下げがあることから、本作を隅々まで楽しむためには欠かせない要素になっている。せめて、キャラクター別に違うオブジェクトを背景に浮かせるくらいの工夫は欲しかったところだ。ゲームを進めていけばMPを消費してダッシュできるようになるが、単調なことに代わりはない。
キャラクターの掘り下げとしては、ソウル・マトリクスのほかに「パーソナルイベント」と呼ばれる会話イベントがある。「ペルソナ5」のコープイベントや「幻影異聞録♯FE」のサイドストーリーほど凝った連続イベントではなく、Barでボトルビールを飲みながら交流を深める大人のコミュイベントといった趣だ。世界観の説明や、キャラクターの性格の掘り下げを兼ねたものもあり、ここでの会話を聞くかどうかでも思い入れは変わるだろう。こうしたキャラクターゲームとしての掘り下げは、本作を遊ぶうえで肯定できる点である。本編のストーリーでは語られない神話的な解釈や、女神転生シリーズとしての属性の立ち位置。キャラクターの性格に基づく掛け合い。ちょっとした哲学的な問答など、メインストーリーよりも世界観に根ざした会話が多く、個人的にもパーソナルイベントの内容は興味深いものが多かった。あくまでも酒の席でのヨタ話で終わってしまうのがもったいないほどに。
便利な要素を残した悪魔合体とプレスターンではなくなったバトル
「女神転生」シリーズとして本作を遊ぶ人には、気になる部分がバトルと悪魔合体だと思われる。本作では、これまでの作品にあった「オススメ合体」や「検索合体」といった便利機能が引きつかがれており、合体に関してはシリーズ中でも使いやすい部類に入るものだ。
アトラスの悪魔合体ができる作品では、過去作で培った便利な機能が引き継がれないパターンも多いのだが、本作では「デビルサバイバー」から導入された検索合体や「真・女神転生IV」のオススメ合体もしっかり引き継がれており、合体の面に関しては問題なく楽しめる。「悪魔全書」も素のステータスと現在のステータスを分けて参照できるので、使い勝手は悪くない。悪魔を集めて合体を繰り返すという楽しさは健在と言っていいだろう。
合体で作ったところで悪魔を活用できるバトルがなければ意味がないが、本作はシステムこそ簡素になったもののバトルも悪くはない。敵の弱点を突いて悪魔をスタックし、自動で発動するサバトは、後半に行くほどスタックできる条件が増えて明確に使いやすくなっていく。また、ストーリー上で戦うボスも、ソウル・マトリクスでのレベル上げを怠ると中盤から強めのバランスだ。回復や弱点をふさぐ遅延行為にも容赦がなく、準備を怠れば勝てないだろう。ラスボス戦は敵のモーションを飛ばせないため面倒に感じる部分はあったが、仲魔を交換するコンバートやバフ・デバフを駆使して総力戦で弱点を突いていく楽しさがしっかりと感じられた。難易度を変えて試したが、やはり戦闘のバランスはよく考えられている。
プレスターンではなくなったことで、弱点を突かれることや失敗したときのデメリットは非常に少ない。プレスターンでは撃ちにくかった全体魔法を雑に撃っても反射されなければ問題がなく、こちらが弱点を突かれても敵のターンが増えないため、弱点を防ぐ必要性も薄れた。これまでは、弱点を消すためにスキル枠が埋まったが、別の選択を取りやすくなっている。もちろん埋めたほうが安定はするが、合体での自由度が増したので良い点だ。
固有の専用スキルは従来の作品よりも少ないが、DLCの悪魔には専用の固有スキルが多く用意されている。ただし、DLC悪魔は最初から高レベルでも呼び出せてしまうので、序盤から使うとバランスが崩れてしまいかねない。私はDLCの悪魔も購入したが、悪魔と同じレベルまで上がったときに解禁するという遊び方をしていた。DLCはそのレベルで戦うボスに対して有効なものや便利なスキルがそろっており、いつもの作品なら本編に組み込まれたうえでバランスを取っている性能という印象を受けるものであったが、なくてもクリアは可能だ。
DLCの悪魔は探索時のセリフが専用のもので凝っており、ファンサービスとして用意されたものであることは分かる。もちろん、終盤でも専用の会話をしてくれるので、使うタイミングの自制を効かせられる人ならば入れて損はない。私はDLC悪魔と同じレベルになった時点で解禁するやり方を取っていたが、偶然にもラスボス戦でリンゴに装備させたネミッサがトドメを刺す形になり、図らずしもそこでテンションがあがった。
バトルにはまった人は、いわゆる隠しボス(裏ボス)や強力な敵との戦いを望んでいるだろう。だが、前作のような時幻の回廊、PS版(正確にはセガサターン時代は抽選でもらえる追加ディスクのオマケ)以降のEXダンジョンといった、2周目以降の追加ダンジョンは本編に存在しない。強力な隠しボスがいるダンジョンは、追加キャラクターのナナが登場するDLC「Lost Numbers」を導入する必要がある。ナナのシナリオ自体は悪くないもので、最初から別売りという印象の悪さを除けば、本作を楽しむうえで導入しておいた方が良いものだ。悪魔が出現するレベル帯も、コンピューター(COMP)の強化素材も、本編の終盤以降の内容になっており、まさに終盤からクリア後のダンジョンを別売りしているような追加ダンジョンになっている。シナリオの面でもキャラクターを知るうえで重要な描写があり、本編の切り売りという印象が強く、ナナのDLCに関しては擁護の余地が全くない。
バトル自体もアトラスらしいギミックの追加ボスとなっており、Normalでも念入りな準備をしなければまったく歯が立たない。合体や育成を繰り返して高難易度で挑む人にとっては、たまらないバランスだろう。プレスターンよりもシンプルではあるが、それ故に従来のプレスターンでは出来なかったボスの行動や対策が新鮮に感じた。こちらも、全体属性魔法の活用。味方の弱点を放置したスキル構成。反射系魔法の多用といった、違う戦術を取りやすく、プレスターンとは違う楽しさがある。バトルと悪魔合体は古参も満足できるものだ。
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