医者「今年の冬はマスクを外すべきではない」 政府の“脱マスク”に寄せられる不安を医者にぶつけてみた(2/3 ページ)
「『外したくない人がマスクをつけ続けること』は間違った判断ではない」。
「“脱マスク”はタイミングを逃した」
――海外に目を向けると、“脱マスク”を果たした国が多くあると報じられています。しかし、最近になってマスクの非着用の影響かどうかは定かではありませんが、再度感染拡大したという国も見られます。このような状況を踏まえると、まだまだ“脱マスク”には時期尚早ではないか、という気がします。
安藤院長:個人的には、明らかに「時期尚早」だと思います。むしろ、「時期を逸した」と言ったほうが良いかもしれません。ある程度“脱マスク”が進んだ状況で、「再度感染の広がりが予想されるので、11月〜3月はマスク着用を徹底して下さい」といったアナウンスをしたほうが効果的だったのではないでしょうか。
政府の呼びかけという点で言えば、マスク着用にもフェーズを作り、「今はフェーズ1の段階なので、マスクを外しても良い」「寒くなってきて室内での感染事例が増えてきたので、フェーズ4に」といった、分かりやすい指標を作るのも有効だと思います。
――SNS上や民間のアンケートでは、新型コロナウイルス以外の感染症を心配する声も見られました。
安藤院長:これから冬場にかけて、新型コロナウイルス以外にも、インフルエンザ、RSウイルス、溶連菌感染症、おたふく、マイコプラズマ、ノロウイルス、ロタウイルスなど、さまざまな感染症の流行が懸念されています。特に、オミクロン株が流行するようになってからは、新型コロナウイルス感染症の症状が多彩になっており、症状だけでこれらの疾患と鑑別するのはほぼ不可能です。
政府は今後の発熱外来の混乱を見越して、「リスクのない人は自宅で検査キットを使って自己チェックをして、陰性ならオンライン診療を受ける」といった対策を打ち出していますが、これもこの時期にやるのは明らかに的外れだと感じています。「最初に病院に来て対面で診療が受けられれば、こんなに悪くならなくて済んだのに……」といった状況になることが危惧されます。
「今年の冬はマスクを外すべきではない」
――特に心配する声が多く見られたのはインフルエンザでした。厚労省の新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードでも、今後はインフルエンザと新型コロナ第8波が同時流行する可能性が示唆されています。
安藤院長:新型コロナウイルス感染症が流行する前は、国内での季節性のインフルエンザ感染者数は推定年間1000万人程度、死亡者数も年間約200人〜約1800人と報告されていました。これは新型コロナウイルスとは違い、ほぼ冬場のみの報告なので、インフルエンザがいかに怖い感染症であるかお分かりいただけると思います。
比較的稀ですが、インフルエンザはインフルエンザ脳症、ライ症候群、心筋炎といった重い後遺症をもたらすこともあります。また、過去2年ほとんど流行が見られなかったことから、われわれのインフルエンザに対する集団免疫が落ちており、感染拡大、重症化のリスクが高くなるといった予測も出ています。
インフルエンザの感染経路は、主に「飛沫感染」ですので、対策は新型コロナウイルス感染症と変わりません(※)。単純にインフルエンザ対策のことを考えても、やはりマスクは有効です。
※厚労省はインフルエンザの飛沫感染対策として、「普段から皆が咳エチケットを心がけ、咳やくしゃみを他の人に向けて発しないこと」「咳やくしゃみが出ているときはできるだけ不織布製マスクをすること。とっさの咳やくしゃみの際にマスクがない場合は、ティッシュや腕の内側などで口と鼻を覆い、顔を他の人に向けないこと」「鼻汁・痰などを含んだティッシュはすぐにゴミ箱に捨て、手のひらで咳やくしゃみを受け止めた時はすぐに手を洗うこと」を呼びかけています(参考:厚労省「令和4年度インフルエンザQ&A」)
インフルエンザと新型コロナウイルスの重複感染では、人工呼吸器を必要とするリスクが4.14倍、入院中の死亡リスクが2.35倍まで上昇するという報告もあります(※)。この報告では、一般的な呼吸器感染症の原因ウイルスであるRSウイルスやアデノウイルスでも検討していますが、重複感染しても特に重症化リスクは上がらなかったとのことです。
※新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)とインフルエンザウイルスの同時感染リスクを調査した「Co-infection of SARS-CoV-2 and influenza viruses: A systematic review and meta-analysis」
このことからも、インフルエンザと新型コロナウイルスの重複感染は是が非でも防がなければなりません。こういった観点から考えても、少なくとも今年の冬はマスクを外すタイミングではないと考えています。
まとめ
安藤院長は昨今の政府による呼びかけについて、「『マスクを外すこと』を半ば強要するような流れになっている。政府の発表は科学的根拠にもとづいているが、今の発表の仕方ではマスクを外したくない人たちの反発を招きかねず、得策とは言えない」「3年も続けばもはや“文化”として定着しているので、それを半強制的にやめさせるのは無理がある」と問題点を指摘しています。
また、専門家のなかでもさまざま意見はありますが、安藤院長は「いくつかのデメリットの指摘はあるものの、マスク自体の感染対策に対する有効性はほぼ証明されており、『外したくない人がマスクをつけ続けること』は間違った判断ではない」「(新型コロナウイルスのみならず、インフルエンザなどの感染症の可能性を鑑みて)少なくとも今年の冬はマスクを外すタイミングではない」と考えを述べました。
現在、政府が“脱マスク”に向けた呼びかけをしている一方で、多くの人々がその動きに違和感を覚えている状況があります。「条件を満たした屋外ではマスクなし、屋内では原則的にマスクあり」というシンプルな認識を頭に入れつつも、それぞれがマスク着用・非着用の判断を求められる日々が続きそうです。
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